[R18]これはあくまで治療です!

空き缶太郎

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9、イケメン免罪符

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…何故か俺は御奉仕する相手である鏑木さんにイかされてしまった。

その理由はよく分からなかったが、とにかく男にイかされるなんて初めてで…

その事を記憶に残しておきたくなかった俺は、数分前の出来事を忘れることにした。

「いち、にの…ポカンっ!はい忘れた!!」
「???」

わかる人にはわかるフレーズで記憶を無理矢理消し、汚れた手を大量のお湯で洗う。
しかしそれでも匂いが残っている気がして、ボディソープでわしゃわしゃと洗った。

「……や、社くん?その…怒ってる?」
「何をですか?オレ ナニモ シラナイデス」

何故かカタコトになってしまったが、とにかく知らないものは知らない。

俺は首を横に振って手を洗い終えると体を流して浴槽に戻った。

「はふ…」
「…もう上がる?」
「んー…いえ、まだ体とか洗ってないんで、も少しゆっくりしようかと」
「そっか。なら…少しお話ししない?」

鏑木さんの言葉に俺は若干警戒する。

記憶に残ってない(つもりだ)が、色々とアレなことをされたばかり。
咄嗟に尻を守るように後ずさる。

「あぁっ!そ、そんなに警戒しないでくれ…本当に、他意は無いんだ…」
「…………分かりました」

捨てられた子犬のような表情の鏑木さんに負け、俺は少しだけ元のポジションに戻る。

「ごめん、そんなに僕のこと警戒してたなんて…でも僕は社くんの前だといつも反応してしまうから、今みたいなタイミングでないとお話出来ないと思ってね」
「まぁ…確かに、初仕事の時は俺もいっぱいいっぱいでしたし…その後は鏑木さん仕事漬けでしたもんね」

流石に抜いたばかりでは俺を前にしても性欲が溢れ出ることはないようで、鏑木さんはいつもの…テレビの中の姿と変わらない人の良さだった。

なるほど。
人気アイドルはプライベートでも人が出来てるのか。

「うん、いつもより少しハードだったよ。…それより社くん。僕との契約の話なんだけど…君は、どうしてこんな荒唐無稽な怪しい契約を受けてくれたの?何か…お金が必要なワケとかあったの?」
「う…そ、それは…」

鏑木さんの純粋な心配の気持ちに心が痛む。

『受注生産限定の高額なアイドルグッズを買うためです』なんて口が裂けても言えない。

「……え、ADの仕事ってキツい割りに薄給なんですよ。だから、少しでも蓄えが欲しかったのと…それに、本物の鏑木さんにあんなカミングアウトされたら詐欺とも思えなくて」
「…なるほどね。それなら納得だ」

『僕は重度のEDなんだ』
『君の体だけが欲しい』

そんなショッキングなセリフはきっと10年先も俺の記憶に残ってしまうだろう。

「でも本当によかったよ。てっきり重い借金でも抱えてるのかと心配してたんだ」
「…どうしてそこまで?」
「だって元々そういう性的嗜好ならともかく、ノンケの人は余程の理由がないと同じ男のシモの世話なんてしないだろう?僕も嫌だし」

お前がそれを言うのか…!
俺は思わず拳を握りしめたが、イケメンパワーなのか鏑木さんの爽やかな笑顔は嫌味を全く感じさせなかった。

これが『イケメン免罪符』…ぐぎぎ…

「お、俺だって本当はこんな体売るみたいなことしたくないんですから!一応、25歳の成人男性ですし…」
「…佐原から聞いてたけど…本当に僕と同じ歳なんだね」

あ。さては鏑木さん、俺の事年下に見てたな?

俺は少しムキになって唇を尖らせる。

「そうですよ。同い年なんですし本当は……」
「ならプライベートの時は敬語無しでいいね」
「……え?」

『本当はタメ口きいてもいいんですよ!』と冗談めかして言おうとしたのだが、鏑木さんに先手を打たれてしまった。

というか、先手どころじゃない。
あっちは本気だ…!

「い、いえいえ!そんな俺みたいなADが恐れ多い…!」
「今はオフでしょ?…ならお互いアイドルでもADでもない。ただの『友人』ってことで」
「ゆ、友人ってか雇用関係で……あーもー!」

熱心に向けられるキラキラした視線に、俺は完全敗北した。

「分かった、分かったよ…なら…か、…?」
「うん。、呼んだ?」

あの人気アイドル・鏑木奏多と、こうして風呂に入りながら下の名前で呼び合うなんて少し前の俺は全く想像も出来なかっただろう。

しかしとても嬉しそうなその顔に、俺も悪い気はしなかった。

(まぁ…どうせお試し契約終わるまでの間だけだし)

契約が終われば俺はまた普通のドルオタAD生活に戻り、鏑木さん…奏多は雲の上の人になる。

(たまには非日常体験も悪くないかな)

そんな軽い気持ちで、俺と奏多の関係は『1ヶ月間の雇用関係』から『1ヶ月間の友人』にレベルアップした。


……………………………………


社くん…いや、拓磨とお風呂に入りながら数十分。
2人仲良くのぼせてしまうまで語り合った僕らは、リビングで水分補給をしていた。

「ぷはぁ…前から言おうと思ってたけど、ここの水って美味いよな」
「あぁ、そのウォーターサーバーは前にCMに出た時に貰ったんだ」
「へぇ、自宅にこういうのがあるとステータスだよなぁ」

そう言ってサーバー(特注サイズ)の隣で水を飲む拓磨だが…その背丈がほぼ一緒で、僕は思わず笑ってしまう。

「……ふふっ…」
「ん?」
「い、いや…なんでもない」

誤魔化すように水を飲んでいると、奥の部屋のドアが開いて佐原が戻ってくる。

「おや、随分仲良くなったようですね」
「あ。佐原、ちょうどいい所に。…今日の分の特別手当て、少し色を付けて6万円ほど渡しておいてくれる?」
「か、奏多…そんな…」

恐縮する拓磨に目配せし、佐原に簡単な言い訳をする。

「裸で仕事をさせた上にその後も数十分長話に付き合わせてのぼせちゃったからね。お詫びも兼ねてってことで…」
「…まぁ、そういうことでしたら」

佐原は小さく頷いて手帳にメモをとると、ピン札で6万円を取り出し封筒に入れる。

「では社さん、こちらを」
「で、でも…」
「雇い主である奏多の好意ですから」
「……わ、わかりました」

渋々ながらもお金を受け取った拓磨を見届け、僕はにこにこと微笑む。

「また少ししたら泊まりの仕事とかもあるから、そのお金で出前とか頼むといいよ」
「後でこの辺りで出前対応可能なお店のリストもお渡ししますね」
「ありがとうございます佐原さん。それに奏多も…色々と、気を使ってくれて」
「ううん、いいんだよ」

拓磨が喜んでくれると僕も嬉しい気がする。

…なるほど、これが友人と言うやつなのか。

初めて出来た『同じ年代の友』というものに、僕は満ち足りた感情を得るのであった。

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