9 / 27
9、イケメン免罪符
しおりを挟む…何故か俺は御奉仕する相手である鏑木さんにイかされてしまった。
その理由はよく分からなかったが、とにかく男にイかされるなんて初めてで…
その事を記憶に残しておきたくなかった俺は、数分前の出来事を忘れることにした。
「いち、にの…ポカンっ!はい忘れた!!」
「???」
わかる人にはわかるフレーズで記憶を無理矢理消し、汚れた手を大量のお湯で洗う。
しかしそれでも匂いが残っている気がして、ボディソープでわしゃわしゃと洗った。
「……や、社くん?その…怒ってる?」
「何をですか?オレ ナニモ シラナイデス」
何故かカタコトになってしまったが、とにかく知らないものは知らない。
俺は首を横に振って手を洗い終えると体を流して浴槽に戻った。
「はふ…」
「…もう上がる?」
「んー…いえ、まだ体とか洗ってないんで、も少しゆっくりしようかと」
「そっか。なら…少しお話ししない?」
鏑木さんの言葉に俺は若干警戒する。
記憶に残ってない(つもりだ)が、色々とアレなことをされたばかり。
咄嗟に尻を守るように後ずさる。
「あぁっ!そ、そんなに警戒しないでくれ…本当に、他意は無いんだ…」
「…………分かりました」
捨てられた子犬のような表情の鏑木さんに負け、俺は少しだけ元のポジションに戻る。
「ごめん、そんなに僕のこと警戒してたなんて…でも僕は社くんの前だといつも反応してしまうから、今みたいなタイミングでないとお話出来ないと思ってね」
「まぁ…確かに、初仕事の時は俺もいっぱいいっぱいでしたし…その後は鏑木さん仕事漬けでしたもんね」
流石に抜いたばかりでは俺を前にしても性欲が溢れ出ることはないようで、鏑木さんはいつもの…テレビの中の姿と変わらない人の良さだった。
なるほど。
人気アイドルはプライベートでも人が出来てるのか。
「うん、いつもより少しハードだったよ。…それより社くん。僕との契約の話なんだけど…君は、どうしてこんな荒唐無稽な怪しい契約を受けてくれたの?何か…お金が必要なワケとかあったの?」
「う…そ、それは…」
鏑木さんの純粋な心配の気持ちに心が痛む。
『受注生産限定の高額なアイドルグッズを買うためです』なんて口が裂けても言えない。
「……え、ADの仕事ってキツい割りに薄給なんですよ。だから、少しでも蓄えが欲しかったのと…それに、本物の鏑木さんにあんなカミングアウトされたら詐欺とも思えなくて」
「…なるほどね。それなら納得だ」
『僕は重度のEDなんだ』
『君の体だけが欲しい』
そんなショッキングなセリフはきっと10年先も俺の記憶に残ってしまうだろう。
「でも本当によかったよ。てっきり重い借金でも抱えてるのかと心配してたんだ」
「…どうしてそこまで?」
「だって元々そういう性的嗜好ならともかく、ノンケの人は余程の理由がないと同じ男のシモの世話なんてしないだろう?僕も嫌だし」
お前がそれを言うのか…!
俺は思わず拳を握りしめたが、イケメンパワーなのか鏑木さんの爽やかな笑顔は嫌味を全く感じさせなかった。
これが『イケメン免罪符』…ぐぎぎ…
「お、俺だって本当はこんな体売るみたいなことしたくないんですから!一応、25歳の成人男性ですし…」
「…佐原から聞いてたけど…本当に僕と同じ歳なんだね」
あ。さては鏑木さん、俺の事年下に見てたな?
俺は少しムキになって唇を尖らせる。
「そうですよ。同い年なんですし本当は……」
「ならプライベートの時は敬語無しでいいね」
「……え?」
『本当はタメ口きいてもいいんですよ!』と冗談めかして言おうとしたのだが、鏑木さんに先手を打たれてしまった。
というか、先手どころじゃない。
あっちは本気だ…!
「い、いえいえ!そんな俺みたいなADが恐れ多い…!」
「今はオフでしょ?…ならお互いアイドルでもADでもない。ただの『友人』ってことで」
「ゆ、友人ってか雇用関係で……あーもー!」
熱心に向けられるキラキラした視線に、俺は完全敗北した。
「分かった、分かったよ…なら…か、奏多…?」
「うん。拓磨、呼んだ?」
あの人気アイドル・鏑木奏多と、こうして風呂に入りながら下の名前で呼び合うなんて少し前の俺は全く想像も出来なかっただろう。
しかしとても嬉しそうなその顔に、俺も悪い気はしなかった。
(まぁ…どうせお試し契約終わるまでの間だけだし)
契約が終われば俺はまた普通のドルオタAD生活に戻り、鏑木さん…奏多は雲の上の人になる。
(たまには非日常体験も悪くないかな)
そんな軽い気持ちで、俺と奏多の関係は『1ヶ月間の雇用関係』から『1ヶ月間の友人』にレベルアップした。
……………………………………
社くん…いや、拓磨とお風呂に入りながら数十分。
2人仲良くのぼせてしまうまで語り合った僕らは、リビングで水分補給をしていた。
「ぷはぁ…前から言おうと思ってたけど、ここの水って美味いよな」
「あぁ、そのウォーターサーバーは前にCMに出た時に貰ったんだ」
「へぇ、自宅にこういうのがあるとステータスだよなぁ」
そう言ってサーバー(特注サイズ)の隣で水を飲む拓磨だが…その背丈がほぼ一緒で、僕は思わず笑ってしまう。
「……ふふっ…」
「ん?」
「い、いや…なんでもない」
誤魔化すように水を飲んでいると、奥の部屋のドアが開いて佐原が戻ってくる。
「おや、随分仲良くなったようですね」
「あ。佐原、ちょうどいい所に。…今日の分の特別手当て、少し色を付けて6万円ほど渡しておいてくれる?」
「か、奏多…そんな…」
恐縮する拓磨に目配せし、佐原に簡単な言い訳をする。
「裸で仕事をさせた上にその後も数十分長話に付き合わせてのぼせちゃったからね。お詫びも兼ねてってことで…」
「…まぁ、そういうことでしたら」
佐原は小さく頷いて手帳にメモをとると、ピン札で6万円を取り出し封筒に入れる。
「では社さん、こちらを」
「で、でも…」
「雇い主である奏多の好意ですから」
「……わ、わかりました」
渋々ながらもお金を受け取った拓磨を見届け、僕はにこにこと微笑む。
「また少ししたら泊まりの仕事とかもあるから、そのお金で出前とか頼むといいよ」
「後でこの辺りで出前対応可能なお店のリストもお渡ししますね」
「ありがとうございます佐原さん。それに奏多も…色々と、気を使ってくれて」
「ううん、いいんだよ」
拓磨が喜んでくれると僕も嬉しい気がする。
…なるほど、これが友人と言うやつなのか。
初めて出来た『同じ年代の友』というものに、僕は満ち足りた感情を得るのであった。
0
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる