[R18]不定形の恋人

空き缶太郎

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弱肉強食

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この世界は、残酷だ。

適応力と繁殖力の高い人間が世界全土の大半を支配し、それ以外の生き物は『家畜』か『魔物』として利用され、迫害されるこの世界。

この日もまた、とある『魔物』が戯れにその命を狩られていた。


「お!あんな所にスライムいるぜ」
「宿代稼ぎにかるーく狩っておくか」

冒険者が多く旅立つ城下町からほど近い街道。
そこでスライムの群れを見つけた人間達は、まるで玩具を見つけた子供のように笑いながら歩み寄る。
彼らは皮の鎧に身を包み、片手に鋭い剣や大振りのメイスなどを手にしていた。

「おらっ!逃げんな…よっ!」
『ぴぎゅっ!』

そして無抵抗なスライムに対し、先頭に立っていた人間は躊躇うことなく剣を振り下ろす。
突然のことに他のスライムは一斉に森へと逃げ出したが、そのぷるぷるした体はあまり早く動けず一体…また一体と切り捨てられ、潰され、その命を散らしていった。

『はやくはやく!』
『あの子のところに!』

スライム達が互いに呼びかけあいながら駆け込んだのは森の中の小さな泉。
『ぽちゃん』と小さな音を立てて泉の中へ飛び込んだスライム達を見て、人間…もとい冒険者達は小さく舌打ちをした。

「ちっ、水ん中に逃げられたか」
「どうする?雷系の魔法使って一網打尽に…」

…ザバァッ…!

「「!?」」

泉に背を向け作戦を考える冒険者達だが…突然背後から大きな音が聞こえ、一斉に振り返る。

『…愚かな人間よ…』

そして辺りに響いたのは地を震わせるような低い声。
魔物の言葉であるためその意味は通じなかったが、冒険者達は威圧感のある声と姿に硬直してしまう。

「う、嘘だろ…」
「なんで、街からほとんど離れてないのに…」

冒険者達の目に映るその姿は、森の木々を覆うほどの巨大な翼と凶悪なまでに鋭い爪を持った大型の魔物。
そう。それは子供でも知っている最上位の魔物…。

『すぐにこの場から立ち去れ…!立ち去れぇえええ!!!!』
「ど、ドラゴンだぁあああ!!!」
「にげろぉおおお!!!」

泉のドラゴンが咆哮を上げたと同時に、冒険者達は一斉に逃げ出した。

…………

数分して冒険者達の気配が遠ざかると、ドラゴンは小さくため息をついた。

『ふぅ、逃げてくれて良かった』

そしてその言葉と同時にドラゴンの巨体がぐにゃりと歪み、縮むように泉の中へと消えていく。
しばらくすると『ぱしゃっ』と小さな水音を響かせて、泉から一体のスライムが飛び出してきた。

『みんなー!出てきていいよー!』
『わーい!』
『よかったー!』

小さな体をぷるぷると震わせながら仲間を呼べば、泉、草むら、木の上などから数十体ものスライムが飛び出し、呼びかけたスライムを中心に1箇所に集まった。

『あー、怖かった』
『いつもありがとうね、『亜種』』

『亜種』と呼ばれたのは他のスライムよりも若干色の濃い個体。
先程仲間達を呼んだリーダー格と思われるスライムだ。

『ううん。僕には『変化スキル』ぐらいしかないし…本当は戦って追い返すのが1番なんだけどね』
『でもドラゴン、カッコよかったよ!』
『うんうん!人間も凄く怖がってたし!』
『…えへへ…』

仲間たちの言葉に亜種はぷるぷると震える。
顔などは存在しないため見た目ではさっぱり分からないが、仲間から褒められかなり照れていた。

…ここは古来より無害なスライム達が暮らす小さな泉。
時折人間の冒険者が経験値目当てにやって来ることもあったが、その度にこの亜種のスライムが持ち前の変化スキルを駆使し、人間を追い払ってきた。

(…あ。落し物だ)

仲間のスライム達がぷるぷると話をしている中、亜種は泉の近くに落ちていた袋に気付いて歩み寄る。
その中には人間が使う通貨が数枚入っていた。

『これ…お金ってやつだよね…』

人間は怖いが、その文化や生活には興味のあった亜種。
袋をひっくり返し、中に入っていた銅貨や銀貨を器用に掴む。

(…あの塀の向こうで、人間達はどうやって暮らしてるんだろう)

木々の隙間から見える城下町の塀に、亜種は心を強く惹かれていた。
そして…

『…決めた!僕、人間の街に行く!』
『えぇっ!』
『あ、危ないよ亜種!』

亜種の突然の宣言に、仲間のスライム達は引き止めるようにぷるぷると震える。

『大丈夫だよ!僕の変化スキルで人間に化ければ…』

と、亜種は仲間達を安心させるため、人間の姿へと体を変化させる。

これまでに冒険者含め数多くの人間を見てきた亜種。
その記憶を元に象ったのは外見年齢およそ18歳の男性の体だった。

「ん…どうかな?」

魔物の言葉ではなく人の言葉を話し、その場で軽く回って見せる。
水色のショートヘアが回転に合わせて揺らめき、藍色の瞳がスライム達を見つめた。

ちなみに装備は簡素な布の服と革のブーツに見えるが、これも体を変化させたものなので実質全裸である。

『す…すごーい!人間だー!』
『人間の言葉も話せてる!』
『昔、ラミアのお姉さんに教わったんだ』

その場にしゃがみ、仲間のスライム達を撫でながら微笑む。

確かに変化は完璧だが、外見年齢と精神年齢が釣り合っていなかった。
しかし亜種本人含めスライム達には分からない。

『あとは…さっきの人間が落としたお金を持ってっと』
『もう行っちゃうの?』
『うん、暗くなる前には帰ってくるよ。お土産、いっぱい持って帰るからね』
『わーい!いってらっしゃーい!』

お土産、という単語に意気揚々と亜種を送り出すスライム達。
その声援を受けながら、亜種は初めての旅(徒歩圏内)に出るのであった…。


 
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