[R18]不定形の恋人

空き缶太郎

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スライム、補導される

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亜種が泉を出てから数分。
何人かの人間とすれ違ったが、その誰もが亜種がスライムであることに気付かず通り過ぎて行った。


「…これが、人間から見た世界か…いい天気だなぁ…」

これまで住処である泉の周辺しか出歩いたことのなかった亜種。
初めて感じた世界の広さに思わず言葉を漏らす。

ぷるぷるとした丸い体ではなく、成熟した人間の体で感じる世界は亜種の心を揺り動かす。

と、亜種が感慨深く深呼吸をしていると不意に背後から声をかけられた。

「旅人か?…それにしては装備が薄いな」
「えっと…僕…」
「あ、もしかして盗賊に身ぐるみ剥がされたのか?よく無事だったなぁ…俺も城下町まで帰るところだったし、着いてってやるよ」
「あぅ…」

声をかけてきたのは全身にプレートメイルを着込んだ戦士風の男。
亜種の境遇を勝手に思い込み、一方的に護衛を申し出る。

(これが…本当に人間?こんなに優しくしてくれるなんて…)

スライムを一方的に殺戮する人間の姿ばかり見てきた亜種。
そのため、鎧の男の言動に戸惑いを感じていた。

「…あぁ、悪いな。怖がらせちまったか?」

亜種の不安を感じ取ったのか、鎧の男は少し屈んでから優しく頭を撫でる。

「先に自己紹介しておこうか。…俺の名前はレイブン。レイブン・アッカー、27歳独身だ」
「…れいぶん、さん…」

たどたどしくその名前を呟けば、鎧の男…レイブンはニッと笑う。

「あぁ。本当は『さん』付けも要らんが、今はそれでいい。…で、お前の名前は?」
「名前…?えっと…その…」

レイブンの問いに、亜種は盛大に焦った。
何故なら魔物の世界には種族名はあれど、個体を識別するための名前などほとんど存在しなかったからだ。

それこそ名前持ちの魔物など、よほどの強者しかありえない。

(スライム、はダメだ…バレちゃう…亜種も名前じゃないし…)
「…言えないのか?」
「や、あ、あのっ…あ…しゅ……『アッシュ』…です…」

亜種だからアッシュ。
至極単純だが、レイブンはうんうんと頷いた。

「アッシュか、いい名前だな」
「あ、ありがとう…ございます…」

どうにか誤魔化せた、と胸を撫で下ろす亜種…もといアッシュ。
その後もレイブンに一方的に話しかけられながらも、2人は城下町の正門へと辿り着く。

「アッカー隊長!巡回お疲れ様です!」
(隊長?)
「おう、お前もおつかれさん。…外で盗賊に襲われたと思しき旅人を保護したから、後で報告書出しとくな」
「はっ!了解致しました!」

小首をかしげるアッシュをよそに、レイブンは門番と話をつけて正門をくぐる。

「アッシュ、来ないのか?」
「えっ、あ、い、行きます!」

レイブンの呼びかけに応え、駆け足で門をくぐるアッシュ。
しかし門番はそれを止めることなく、アッシュの後ろにいた荷馬車に声をかけていた。

(…すんなり通れた…)
「ようこそ城下町へ。…ほら、はぐれると困るから手を繋ぐぞ」
「あ、は、はい」

そしてアッシュは差し出された手を握り、レイブンの先導のもと初めての街を目の当たりにした。

 
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