6 / 18
第2の男
しおりを挟むレイブンが装飾品店で買い物をしていた頃、体を休めたアッシュは再び人間の姿に変化して外に出ていた。
「…あれ以上傍にいたらバレるかもしれなかったし…これで、良かったよね」
少し離れた所からレイブンの自宅を見上げ、くるりと背を向ける。
(ちゃんとお金は置いてきたし、恩は返せた…はず)
自分にそう言い聞かせ、アッシュは門の方へと歩き出す。
しかし初めて訪れた城下町は意外と入り組んでおり、アッシュが迷子になるのはそう遅くはなかった。
「……ここ…どこ…?」
路地裏のような場所に佇み、泣きそうな声で呟くアッシュ。
周りには人っ子一人おらず、空は赤くなり始めていた。
(早く泉に帰らないと、みんな心配しちゃう…)
お土産に、と取っておいたサンドイッチの袋を握りながら暗い道をさまよう。
だが一向に広い道に出ることが出来ず、アッシュは不安から早足になっていった。
「はぁ…はぁ…」
(やっぱり、レイブンさんが帰ってくるまで待ってれば良かった……レイブン、さん…)
何も言わず立ち去ったことを悔い、じわりと涙を浮かべるアッシュ。
すると…
「おい、そこの。こんな場所で何をしている」
「えっ…?」
背後から聞き覚えのない声がかかる。
アッシュが反射的に振り向けば、そこには黒いローブを着た男。
「あ、あの僕…門を目指してたら、道に迷って…」
「道に?門に通じる大通りは反対側だぞ」
呆れた様子でため息をつきながら歩み寄るローブの男。
その長く美しい銀髪に、アッシュは一瞬目を奪われた。
「……きれい…」
「当然だ。……ん?お前、人間ではないな。その匂いは…魔物か。気配が希薄すぎて分からなかった」
「っ!?」
「おっと、逃げるな」
距離をつめたと思いきや突然正体を見破られ、アッシュは逃げ出そうとしたが男に腕を掴まれる。
その力は腕をへし折りそうなほど強く、掴まれた箇所からじわじわと変化が解けていった。
「あっ…あぁ…いたいっ…」
「ふん、下級のスライムか。どうりで気配が希薄なはずだ。街の結界もそれで通過できたのか」
青く半透明になったアッシュの腕を見てそう嘲笑う男。
しかし正体を見破られたアッシュはそれどころではない。
(ば、バレた…!逃げないと、殺されて…核だけにされる…!)
「…おい、何を泣いている」
「だ、だって…ぼく、殺され…」
「誰がそんなことを言った。…あぁ、俺が人間で、お前を狩るとでも思ってるのか?」
「…はへ…?」
男の言葉に、アッシュは涙目で顔を上げる。
…変化は中途半端に解けてしまい、その姿は形だけは人の姿をしたスライムになっていた。
「俺も魔物だ。それもお前のような下級ではない、最上位のな」
「ま、もの…さん…?」
「あぁ。だからお前は殺さない。…殺してもメリットがないからな」
「……よ、よかったぁ…」
安堵から変化が完全に解け、丸いスライムの姿に戻る。
その小さな体を抱き上げ、男は楽しそうに笑う。
「ほう、亜種か」
「う、うん…僕、この辺りに住んでるスライムなんだけど、変化しか取り柄がないから…見破られて怖くなって…」
「この辺りのスライムは人間の子供にも劣るからな」
「あぅ…」
世界最弱と言われても反論出来ないぐらい弱いアッシュと仲間のスライム達。
世の中には別の種類のスライムも数多いるが、それらは全くの別物と言えるほどの実力差だ。
「あ、あの…僕はアッシュと言います。お兄さんは…?」
「最弱スライムのくせに名前があるのか。面白い。…俺は夜魔族のアベルだ。それなりに有名なつもりだが…聞いたことは?」
「……ご、ごめんなさい…ない、です…」
しょんぼりとするように平たくなったアッシュだが、当のアベルは依然として楽しそうだ。
「ははっ、そうか。俺もまだまだだな」
「で、でも夜魔族の話は聞いたことがあります!力も強くて魔法も巧みな種族で、特に夜になると姿が変わるとか…」
「ほう、辺境のスライムにしてはよく知っているな」
アベルはアッシュを褒めるようにその体を撫でる。
「はわわ…」
「…ふむ。マグマスライムやダークスライムとはだいぶ違うな。ほのかにひんやりとしていて良い触り心地だ」
「あっ、そ、そんなとこまでぇ…」
丸い体を容赦なく撫でくり回され、アッシュはどこか甘い声を上げる。
…その『そんなとこ』がどういう箇所なのかアベルにはさっぱりだったが、好奇心をそそられさらに手を動かした。
「はふぅ…とろける…」
「スライムがそれ以上溶けてどうする」
「だ、だってアベルさん…上手なんだもん…」
半液体状になったままアベルに抱きかかえられるアッシュ。
その声色やとろけた姿に、アベルはぽつりと呟く。
「………もっとヨくしてやろうか?」
「え?」
「これまで色んな種族を抱いてきたからきっと満足させてやれるぞ。…さすがにスライムの経験はないがな」
「だく…?」
その『抱く』が『交尾』『性交』の意味とは知らず、アッシュは(スライム姿のまま)小首をかしげる。
そもそもスライムは雌雄同体。
数を増やす際も単体分裂で済む為、交尾の必要もない。
「もっと気持ちよくしてやるってことだ」
「気持ちよく…でも、僕そろそろ仲間の所に帰らないと…」
「…では俺も1度そちらに行ってやろう」
「いいの?」
「1人で帰れないだろ?」
「…うん」
結局、アッシュに選択権はなかった。
スライム姿のままのアッシュを腕に抱き、アベルは何やらブツブツと呪文のようなものを唱え始める。
「…月の導きの元、我らに新たな道を…」
(これが魔法なのかな?なんか、魔力的なものがヒシヒシと…)
「飛ぶぞ」
「えっ、うわぁっ!」
アベルが短く告げた瞬間、2人の体が光に包まれる。
その眩しさにアッシュが悲鳴を上げると、次の瞬間には城下町の外に出ていた。
「…あ、れ…?ここは…」
「街の外だ。さて、お前の住処はあの森の中か?スライムの気配がするが…」
「うん!あっち!」
アッシュは体の一部を伸ばし、方向を案内する。
そしてそのまま数分歩けば、見慣れた泉へと到着した。
『あ!帰ってきた!』
『亜種ー!』
『おかえりー!』
『みんな、ただいまー!』
アッシュの姿を見つけ、泉や草陰から飛び出したスライム達。
アッシュもアベルの腕から飛び降りると、仲間たちの方へと駆け寄った。
『大丈夫だった?』
『人間にいじめられなかった?』
『うん、人間に化けてたからみんな優しかったよ』
アッシュの脳裏に過ぎったのはレイブンの顔。
罪悪感は感じていたが、今は無事帰還できたことを喜んでいた。
『ずいぶんと慕われているな、アッシュ』
『えっ、に、人間…?』
『亜種、この人は…?それに名前…』
『あ、えと…ちゃんと説明するね』
後ろから見ていたアベルが魔物の言葉で声をかけたことでその存在に気付き、スライム達は恐怖にぷるぷると震える。
しかしアッシュは仲間たちを宥め、城下町での出来事を一から説明し始めた。
__________________________________________
スーパー今更ですが、セリフ箇所の「」は人間の言葉、『』は魔物の言葉です。
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜
中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」
仕事終わりの静かな執務室。
差し入れの食事と、ポーションの瓶。
信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、
ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる