[R18]不定形の恋人

空き缶太郎

文字の大きさ
9 / 18

金獅子とドラゴン

しおりを挟む
 

次の日、アッシュが目を覚ますとそこはよく知る泉の傍だった。

『…あれ…あべる…?』
『あ!アッシュおきた!』
『おはよー!』

目を覚ましたアッシュを、水色のスライム達が囲む。

『おはよう…アベルは?』
『えと、夜明け前にアベルさんが飛んできてね。アッシュ寝っぱなしだったから…』
『すぐに帰っちゃって…』
『…そっかぁ…』

少し寂しそうに平たくなるアッシュ。
しかしアベルの言っていた『次の機会』という言葉を思い出し、すぐに復活した。

『またいつか会えるはずだし…とりあえずご飯にしよう!』
『それなら西の木の実が食べ時だったよ!』
『ほんと?ならいってくるー!』

仲間のアドバイスを受けたアッシュは嬉しそうに西の方へと弾んでいく。

アベルの結界のおかげで泉近辺なら人間に襲われることもなく、アッシュは完全に油断しながら木の実を食べていた。

『うまうま…でも人間の食べ物、美味しかったなぁ…』

地面に落ちた木の実を体に取り込み、消化しながら城下町に思いを馳せる。

(…でも人間怖いし、もう城下町には…)

と、アッシュがため息をついたその時だった。

『アッシュー!!大変!大変だよー!』
『どうしたの?』

突然泉の方から1匹のスライムがぽよんぽよんと跳ねてきた。
しかもかなり焦っている様子だ。

『に、人間が…武器を持った人間が、泉に!』
『えっ!』

アベルの結界を越えてきたということは、それなりに腕に覚えのある人間のはず。

アッシュは驚きと同時に、自分が追い払えるかどうか不安を覚える。

(でも、僕が頑張らないと…)
『アッシュ?』
『うん、すぐに行くよ!』

仲間に呼ばれ、アッシュはぽよんぽよんと跳ねながら泉へ向かう。
その道中、体を大きく膨らませ、形を恐ろしいドラゴンの姿へと変えながら…

『アッシュ!あそこ!』
『うん!…せーの…っ…たーちーさーれー!!!』

「っー!?」

アッシュはドスドスと重い足音を響かせながら咆哮する。
すると泉に居た人影は剣を抜き、アッシュの方へと向けた。

『人間たちされー!ここは僕がまも……あっ』
「くっ…まさか本当にドラゴンがいるとは…」

手や尻尾をバタバタと振りながら威嚇していたアッシュだが、眼前の人間を見て動きを止める。

そこにいたのは見覚えのあるプレートメイルを身にまとい、大振りの剣を手にした戦士風の男。

昨日、人間に化けたアッシュに優しくしてくれたレイブンだった。


(…れ、レイブンさん…?)
「ここを住処にしているようだが…被害者が出る前に、討伐させてもらう!」

しかしレイブンはアッシュに気付く訳もなく、手にした大振りの剣を振るう。

『う、うわぁっ!』
「っ!体が、液体状に?」

咄嗟に体の一部をスライムに戻し、その攻撃を回避する。

…姿はドラゴンでも所詮はスライム。
レイブンのような強者に斬られれば、一瞬で死んでしまう。

『ま、待って!レイブンさ…あ、言葉が違うのか…えと、えっと…』
「攻撃してこないのか?…ならば…」


「レイブンさん待って!!!」
「っー!?」


アッシュが人の言葉で叫んだ瞬間、レイブンは剣を手にしたまま硬直した。

「…アッシュ、か…?」
「はぁ…よ、よかった…ほんとに、殺されるかと…」
「お前は…ドラゴンだったのか?」
「えーと、それも違くて…」

困惑し、戸惑うレイブンにアッシュも気まずそうに視線をそらす。

『…アッシュ?』
『この人間、知り合い?』
「…スライム?」
「……ごめん。1から説明するね」

足元に集まる仲間のスライム達に目を向け、アッシュはドラゴンから人の姿へと変化する。

「僕は…本当は、スライムなんだ。その、騙してて…ごめんなさい…」
「…………」

目の前で変化する所を見たレイブンは、驚きに何も言えずアッシュを見つめる。

その視線を責めているように感じたのか、アッシュは一歩後ずさった。

「その、人間に化けて街に行ったのは…人間の暮らしに興味が、あったからで…誰かを傷つけようだなんて…」
「…アッシュ」
「その、もう街には入らないから…だから、このまま見逃してくれると……うわっ!」

俯き、昨日のことを弁解するアッシュをレイブンは強く抱きしめる。

仲間のスライム達はアッシュが捕まると思い込み、レイブンの足に体当たりをしたが『ぺちぺち』と音が鳴るだけで意味はなかった。

『やめろー!』
『アッシュを離せー!』
「あ、れ、レイブン…さん…?」
「…アッシュが無事で、安心した…家に帰ったら、姿がなかったからな」
「それは…ごめんなさい。仲間達が心配だったから…」
『アッシュ、こいつセクハラ?でうったえよう!』
『…ごめんみんな、この人は大丈夫だから』

魔物の言葉で仲間達を宥めると、アッシュはひとまずレイブンの腕から解放され切り株の上に腰掛けた。

レイブンもそれに続き、隣に腰掛ける。

「…実はな、アッシュが人間ではないことは最初から気付いていたんだ。スライムとは思わなかったが」
「えっ!ほ、本当に…?」
「あぁ。小綺麗な身なりなのに1人で歩いていたのが不審でな。…護衛を申し出たのも、最初は監視のつもりだったんだ」
「……そう、だったんだ」

自分も正体を偽っていたとはいえ、レイブンの言葉にアッシュは少し悲しそうな顔を浮かべる。

「すまない…城下を守るのが俺の仕事だからな。万一アッシュが、街に害をなす存在だったら…」
「…斬るつもり、だった?」
「……あぁ」
「……………」

とうとう無言になり俯いてしまったアッシュ。
レイブンはアッシュの表情に眉尻を下げると、荷物を入れた革袋から小さな箱を取り出した。

「…最初は監視のつもりでも、今は違う。信じてくれとは言わないが…せめてこれを受け取ってくれないか?」
「これは…?」

アッシュの問いにレイブンが箱を開ける。

するとそこには、アッシュの瞳と同じ藍色の魔石で作られたペンダントが鎮座していた。

「アッシュに似合うと思って買ったんだ。…あぁ、安心してくれ。魔物の素材は使われていない」
「でも、こんな綺麗なもの貰っても…僕は何も返せないよ?」
「おかえしが欲しい訳じゃないさ。…それでもアッシュが気にすると言うなら、また一緒に街を散策してくれないか?」

それは、明らかなデートの誘い文句。
男らしい顔立ちのレイブンに装飾品を贈られながら優しく微笑まれて恋に落ちない女はいないだろう。

しかし…

「…うん!僕、また街に行きたい!」

アッシュの反応は良くも悪くも実に素直だった。

恋する乙女のように頬を染めるようなことは無く、だが嬉しそうにレイブンの手を取る。

「そうか、よかった…あぁ、少し近寄って貰ってもいいか?」
「近寄る?…こう?」

アッシュが素直に一歩近寄れば、レイブンはペンダントをその首へ。

「…似合うかな?」
「あぁ。よく似合ってる」
「えへへ…」

照れくさそうに笑いながらペンダントに触れる。

僅かな魔力を帯びた藍色の魔石はアッシュの手の中で陽の光を受けてキラキラと輝いていた。



『僕しってる。あれスケコマシっていうんだよ』
『タラシじゃなくて?』
『違うよ。あれはナンパだよ』
(なんだかとても失礼なことを言われているような気がする…)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...