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自覚
しおりを挟むアッシュがレイブンからペンダントを貰って1週間。
アッシュ含め泉に暮らすスライム達の生活は、劇的に変化した。
『おはよー』
『おはよー!さっきあっちの方で木の実がいっぱい落ちてるの見たよ』
『ほんと?ならいってくるー!』
『街道まで出ちゃだめだからねー』
まずアベルの張った結界の効力により、泉近辺であれば人間に襲われることが無くなった。
無論街道まで出れば襲われる危険はあるが、実りの多い場所でスライム達が外に出る必要は無いため問題は無い。
『うまうま』
『アッシュ、そろそろあの人間来るかな?』
『うん、多分そろそろ…』
「アッシュ!」
「!レイブンさん!」
そして第2の変化は…定期的にレイブンが泉を訪れるようになったことだ。
アベルの結界を越えられるレイブンは城下町周辺の巡回がてら、スライム達に食べ物を持って来てくれる。
『いい匂いがする!』
『はやく!はやく!』
「おっと、そんなに焦らなくてもたくさん持ってきたからな」
たくさんのスライムに群がられるレイブンだが、特に嫌な顔ひとつせずパンの入った袋を取り出す。
アッシュは仲間達と共にレイブンに歩み寄りながら人の姿に変化すると、袋に入ったパンを手にして仲間達に配って行った。
『わぁい!』
『おいしー!』
「…レイブンさん。いつもありがとう。僕らのためにこんなにしてくれて」
「なに、給料はそれなりに貰ってても使い道があまり無かったからな」
そしてパンを配り終えると、レイブンは袋を畳んでからアッシュへ手を差し出す。
…これが第3の変化。
レイブンによるアッシュへのお誘いだ。
「それじゃ…今日も街に出てみるか?」
「うん!」
『行ってらっしゃーい』
『お土産は飴ちゃんねー』
レイブンの手を取ったアッシュは、仲間たちに見送られながら街道へと出る。
そして貰ったペンダントを指で遊ばせながら城下町へと歩いていき、正門へ到着すればすっかり顔馴染みになった門番が。
「おっ、アッシュくんおはよう。今日も隊長とデート…じゃなくてお出掛けかい?」
「でーと?」
「おいバカ、アッシュに変なこと教えるな」
レイブンがすかさず門番を睨みつけるが、当の門番はニヤニヤと笑う。
「えー。でも最近頻繁に連れてきてるし、今だってしっかり手を繋いでるじゃないですか。…『万年独り身の金獅子に春が来た』って街中の噂ですよ」
「春?…もうすぐ夏だよね?」
「アッシュ。こいつの話は真面目に聞かない方がいい。教育に悪いからな」
咄嗟にアッシュの耳を塞ぐレイブン。
しかし部下の言葉にどこか胸がざわついていた。
(恋人?アッシュが?…いや、いくらなんでも相手はスライムだぞ?そんな馬鹿な…)
ちらりとアッシュを見れば、不思議そうな顔でレイブンの手に自身の手を重ねていた。
そしてふとレイブンと目が合い、にこりと微笑む。
「っー!!」
その無邪気な…一切の下心がない表情に、レイブンは心臓を掴まれた。
(な、なんだ今のは…ドラゴンと対峙した時よりも強く心臓の辺りが…)
「…あれぇ?隊長、どうしたんですか?」
顔を真っ赤にしたレイブンに、門番はニヤリと笑う。
「レイブンさん?顔、真っ赤だよ。あと手も熱くなってる」
「い、や…なんでも…ない」
アッシュのひんやりした手で頬を触られ、レイブンは更に顔を赤くし、言葉を詰まらせる。
「面白いものも見れたし、お二人の邪魔したくないですから俺は仕事に戻りますね。…隊長、本気ならしっかりと捕まえておかないと誰かに掠め取られますよ!」
「う、うるさい!」
「?」
門番にからかわれ、金獅子ならぬ『赤獅子』になったレイブンはアッシュの手を握って逃げるように街の中へと入った。
「…はぁ…まったくアイツは…」
「レイブンさん、大丈夫?具合、悪いの?」
「いや、大丈夫だ。…すまないなアッシュ。心配かけて」
正門からしばらく歩き、ようやく落ち着いたレイブン。
心配そうなアッシュを撫でると、そのまま繁華街へ向かう。
すると2人の姿を見た出店の店主から早速声がかかった。
「お、いらっしゃいおふたりさん。朝ごはんはもう済んだかい?」
「うん!レイブンさんにパン買ってもらった!」
「そうか、なら飲み物はどうだい?」
店主はサンドイッチを引っ込めると、代わりに水差しに入った果実水を取り出す。
その商魂たくましい姿にレイブンは苦笑すると、果実水を二人分購入した。
「…………」
「ほら、落とさないように気をつけ…アッシュ、どうした?」
「うん…」
会計を済ませるレイブンを見て何かを思ったのか、アッシュは小さく頷く。
「…やっぱり、ずっとレイブンさんのお世話になるのは悪いなって思って…せめて自分と仲間の分くらいはお金を稼げれば…」
「アッシュ…俺は別にそんな…」
レイブンは首を横に振るも、アッシュの言い分は尤もだと分かっていた。
自分は良くとも、アッシュが周りにどう言われるか…それを考えるだけで末恐ろしい。
(しかし実際アッシュが何かしらの仕事を始めたとして…もし何かのアクシデントで正体がバレてしまったら?他の魔物と同じように、討伐されてしまったら…?)
そう考えた瞬間、レイブンの脳裏に最悪のイメージが過ぎる。
スライムであることが露見し、民衆に石を投げられるアッシュ。
そして兵士の1人がその小さな体めがけて剣を振り下ろし……
「レイブンさん?」
「っー!…あ…わ、悪い。少し、考え事してた」
「…顔色、悪いよ?やっぱりお家で休んだ方が…」
不安げに顔を覗き込むアッシュに、レイブンはようやく胸の奥に疼く感情に気付く。
(この子を失いたくない、ずっと笑顔でいて欲しい……あぁ、そうか。俺は、アッシュのことが…)
好きだ。
愛している。
例え相手が魔物でも、この気持ちに違いはない。
そう自覚したレイブンはアッシュの手を力強く握った。
「…アッシュ」
「ん?…レイブンさん、どうしたの?」
「その、俺は…お前のことが……」
自覚した想いを告白しようとアッシュの瞳を見つめるレイブン。
「…お前のことが、す………っ!」
……が、周りの視線に気付き、すんでのところで言葉を止める。
「す?」
「おいおい、肝心なところで寸止めかよー」
「う、うるさい!」
(あ、危ねえ…危うく公開プロポーズなんてするところだった…まだアッシュの気持ちも分かってないのに…)
出店の店主達や通行人にからかわれながらも、レイブンはアッシュの手を引いて街の奥へと歩いて行った。
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