[R18]不定形の恋人

空き缶太郎

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スライムに出来ること

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出店のある繁華街エリアから離れたアッシュとレイブン。

人通りの少ない広場に出ると、そこに設置された椅子に座った。


「レイブンさん、体調はもう大丈夫?」
「あぁ。心配かけて悪かったな」

先程買った果実水を飲みながら爽やかに微笑んでみせる。

「よかった。僕、いつもレイブンさんに頼りきりだから負担になってないか心配で…」
「あー…アッシュ。その、今更かもしれないが…そのレイブンってのやめないか?」
「え?」

レイブンの言葉にキョトンとした顔で目を見開く。

「俺は…アッシュともっと親しくなりたい。だから、『レイブン』と呼び捨てで呼んでくれないか?」

今はまだ、この程度で。

性急になりすぎない程度にアッシュとの距離を縮めようと提案したレイブン。

アッシュはその真意を深く考えることも無く、大きく頷いた。

「うん、いいよ。…レイブン?」
「……あぁ、ありがとう」
「えへへー」

どこか心の距離が縮まったような気がして、レイブンは柔らかな笑みを浮かべる。

そんなレイブンにアッシュも嬉しくなり、ニコニコと微笑み返した。

「……あ!それでね、仕事のことなんだけど…」
「(諦めてなかったのか…)…仕事がどうした?」
「うん、僕らスライムにも出来る仕事を考えてみたんだけど…『水を綺麗にする仕事』なんてどうかな?」
「…水を?」

今度はレイブンがアッシュの言葉にキョトンと目を見開く。

スライムが水を綺麗にするなど、聞いたことがなかったからだ。

「僕らの住んでる泉ってすごく綺麗でしょ?…あれね、本当は自分達で綺麗にしたんだ」
「それは…本当なのか?この辺りのスライムは綺麗な水辺を好むと思っていたが、なのか」

綺麗な水辺があるからスライムが集まるのではなく、のだ。

人間の世界では明らかになっていなかった事実に、レイブンは関心したように頷く。

「えへへ、もちろん限度はあるけどね。…でもこれって仕事になるかな…この街の水もそれなりに綺麗だし、僕らの出る幕はないのかも」
「いや、そんなことは無い。街の水があの泉のような清水になれば、料理や製薬…とにかく色んなものが良くなるぞ」

水は人間も魔物も問わず、ほぼ全ての生命に影響するものだ。

問題は、この街の人間が…そして王族や貴族がそれを受け入れるかどうかだ。
 
「さっき買ったこの果実水だってそうだ。これは街の井戸水を使っているようだが…より良い水を使えばもっと風味が増すだろう」
「へぇ…なら、少し真面目に考えてみようかな…」

果実水を飲み干し、空になった器を置く。

「もし仲間達と一緒にこの街に住めたら、レイブンとも毎日会えるもんね」
「っ!!うぐ…っ…」

アッシュの下心のない言葉に胸を射抜かれたように呻くレイブン。
しかしアッシュはレイブンの様子に気付かず、『美味しいご飯も毎日食べられるし!』と繁華街を指さしていた。

「(わざとか?わざとなのか??)…あー、こほん。アッシュ。とりあえず仕事のことは追々考えるとして…今日は俺に付き合ってくれないか?」
「付き合う?」
「あぁ、一緒に行きたい場所があるんだ」

話の流れを変え、そう提案したレイブンはアッシュへ手を差し伸べる。

(…せっかく自分の気持ちに気付けたんだ。なら、絶対に逃がさないようにしないと)

正門で部下の門番に言われたことを思い出す。

(…しっかりと捕まえておかないと誰かに掠め取られる、か)

「ほら、行かないのか?」
「行くー!」

楽しげに手を取ったアッシュに優しく微笑みかけ、2人は仲良く城下町を歩き始めた。



そしてレイブンの先導の元、アッシュは色んな場所に足を運んだ。


衣服の店、占いの館、街を流れる小川、ペンダントを買った宝飾店、そして城を見渡せる丘。


城下町の塀の中は思っていたよりもかなり広く、存分に『デート』を満喫した2人が休憩しようと、レイブンの家に到着した時には夕暮れ時になっていた。


「ふわぁ、つかれたー」

レイブンがドアを閉めると、アッシュはソファに座りぐったりと横たわる。

「色々連れ回しちまって悪かったな。…カーテンも閉めたし、辛いなら元の姿に戻ってもいいぞ」
「ほんと?ならそうするー」

深い溜息と共にアッシュの体が歪み、元の球体へと戻っていく。

レイブンはその隣に座ると、アッシュのぷるぷるとした体を持ち上げ膝に乗せた。

「おつかれ。…今日は楽しかったか?」
「うん、楽しかった!」
「そうか、それはよかった」

膝の上のアッシュを撫で、その触り心地を堪能する。

しかし数十分程休んだアッシュはレイブンの膝から抜け出すと、直ぐに人の姿に戻ってしまう。

「もう日が落ちちゃった…」
「帰るのか?」
「うん、皆が心配しちゃうから」

そう言って玄関に向かおうとしたアッシュだが、その体をレイブンは背後から抱き留める。

「…待ってくれ」
「レイブン…?」
「……今夜は、帰したくない」

逞しい腕がアッシュの体を優しく包むように抱きしめ、更に低く甘い声が耳元で囁かれる。

「で、でも…仲間達が…」
「もうあの場所にはスライム狩り目当ての人間は入ってこられないんだろう?」
「そう…だけど…」

レイブンの隠しきれない雄の香りを感じたのか、アッシュは少しだけ振り返る。

「(あの時のアベルと似た匂いがする…)……抱く、の?」
「!…あぁ。もしアッシュが嫌でなければ、抱きたい」

まさかアッシュの口から『抱く』という言葉が出るとは思っていなかったレイブン。
しかし今は冷静に、アッシュを口説こうとする。

「優しくする。もし嫌になったならすぐに止める。…アッシュの事が、好きなんだ。だから…」
「……ん…わかった…」

レイブンの腕に触れ、アッシュは目を僅かに伏せる。

「レイブンがしたいなら…いい、よ…」
「…ありがとう、アッシュ。…愛してる」

その唇に噛み付くようなキスをしながら、レイブンはアッシュの体を横抱きにして寝室へ向かった。

 
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