[R18]不定形の恋人

空き缶太郎

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獅子と魔王とスライムと

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「アッシュ…済まなかった。他のスライム達も不安にさせてしまって…」
「俺は謝らんぞ。『人間に捕まった哀れなスライム』を助けようとしただけだからな」

素直に謝罪するレイブンに対し、アベルは相変わらず不遜な態度だ。
アッシュはとにかく誤解を解こうとアベルに詰め寄った。

「つ、捕まってないよ!…レイブンは僕のコイビト?だから!」
「………………は?」

アッシュがそう叫んだ瞬間、アベルの周囲から殺気のような魔力が溢れ出す。

それは文字通りの重圧となり、アッシュ以外のスライム達とレイブンは微動だに出来なくなるほどだ。

『ひぇえ…』
『か、体がつぶれちゃうよぉ…』
「ぐっ…この、魔力は…」

「…アッシュ。よく聞こえなかったからもう一度言ってくれ。この人間が…なんだって?」
「…コイビト」
「よし、殺す」
「ま、待ってー!」

再び細身の剣を取り出したアベルに抱きつき、必死に止める。

「レイブンはいい人だよ!ご飯くれるし、一緒にお出かけしてくれるし、あと…気持ちよくしてくれるし…」
「まさか…魔物フェチの変態か!?」
「違う!!」

アベルの言葉に今度はレイブンが声を張り上げる。

「俺は…俺は、本気でアッシュを愛してる!別にスライムだからとかそんなのは関係ない!」
「ハッ、何を言っている。これまで人間が私欲のためにスライムを何匹狩り殺してきた?」
「そ、それは…」

スライム自体は弱く無害ではあるが、その核は装飾品のパーツとして愛用されている。
それを知るレイブンとアッシュは思わず押し黙る。

「同じ魔物である俺の方がアッシュを守れる。…いや、アッシュだけではない。ここのスライム全員を守ってやろう」

魔王としての絶対の自信。
アベルの顔には強者特有のそれが満ちていた。

無論、この場にアベルが魔王であることを知るものはいないのだが。

『アベル…』
『案ずるな。人間の脅威に晒されない安全な場所を用意する。お前の仲間も一緒にな』
『それは…うれしい、けど』
『ほんとう?わーい!』
『アベルさんだいすきー!』

一様に喜ぶスライム達だが、アッシュはちらりとレイブンを見る。

「アッシュ、俺は本気だ。…スライム達を保護するように王に進言して、討伐を禁じてもらう」
「ほう、お前にはそんな権力があるのか?」
「…昔取った杵柄だ」

『金獅子』として強力な魔物を打ち倒した名声は未だなお根強い。
王に謁見するぐらいならワケもない。

「スライムは水を綺麗に出来ると聞いた。その話をすれば、王もお許しになるだろう」
(レイブン、僕が仕事したいって話をちゃんと覚えててくれたんだ…)

アッシュはレイブンの力強い言葉に頬を緩めたが、アベルはそれが不服そうだ。

「…それは希望的観測の話だろう?もし人間の王がその提案を蹴った時はどうする?まさか人間の身で魔物に与するのか?」
「あぁ。そのつもりだ」
「「っ!?」」

レイブンが大きく頷くと、アッシュとアベルは一様に驚愕し、目を大きく見開く。

「確かに俺にとってここは生まれ故郷だし可愛い部下達も大勢いる。…でも、俺がこれまで本気で愛したのはアッシュだけなんだ」
「れ、レイブン…」
「アッシュ、そんな顔をしないでくれ。俺は…お前の傍に居たい。ずっと笑顔でいて欲しいだけなんだ」
「………ふん」

レイブンの本気度が伝わったのか、アベルはつまらないと言った様子で息を着いた。

「ではアッシュに全てを委ねよう」
「えっ…」
「そうだな。…アッシュ。お前は俺とコイツ、どちらと一緒に居たい?」

アベルとレイブンはアッシュの前に立ち、手を差し伸べる。

戸惑うアッシュだが、その背中を押したのは意外にも仲間のスライム達だ。

『アッシュ。僕らのことは気にしないで』
『み、みんな…』
『アベルさんもご飯くれる人間(レイブン)も嫌いじゃないから。アッシュの気持ちを優先して』

仲間の言葉に小さく頷き、アッシュは再び2人の方をむく。


「…僕が…一緒に、居たいのは………」



 
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