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第1章: 恋することのプロローグ
1-2. 爆弾投下
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「星凪ちゃーん」
「ん? ……あ、はーい」
廊下の方から声がかかったようなので、手を思いっきり振りながら答える。そこにはいたのはアタシと同じく硬式テニス部に所属する子だった。
「あっぶね。……バカセナ、少しは周りを気にしろ」
「ハイハイ、『周り』じゃなくて『オレを』って正直に言ったら謝ったげるわよ」
「……ンのやろぅ」
小声で悪態を吐いたフウマには、頭頂部に軽くデコピン――おでこには当ててないから、何ピンというのが正解なんだろう。どうでもいいかもしれないけれど――をお見舞いしておく。そんなことをしている間にアタシを呼びに来た子たちは、待ちきれなくなったのかアタシの席まで来てくれた。
「さっきコーチから『白水に渡しておいてくれ。アイツ、朝の内に来なかったから』って」
「……あ、ヤッバ」
部活仲間の梅津優実にさらりとしたロングヘアーを揺らしながら言われて、アタシはようやく思い出す。昨日の部活終わりに『明日の朝に渡すモノがあるから、登校し次第撮りに来てくれ』と言われていたのに、びっくりするほど忘れていた。ふんわりと朝を迎えてのんびりと支度をして、まだ時間あるなーとか思いながらのほほんとしすぎたせいで、いつもどおりに慌てて学校に着いてみたら、そんなことはすっぱりとアタマの中から消え失せていたらしい。忘れ物は無いかと訊かれて「無い」と答えたのに。やっぱり忘れ物というものは、頭からごっそり抜け落ちているから忘れるのだ。
似ているのか似ていないのか何とも点数の付けづらいモノマネをしてくれたユミからプリントを受け取る。
「しっかりしなよー? そこまでは怒ってなかったけどさぁ」
「ごめーん」
「……ダメダメ。コイツ、そんなことじゃ全然反省しないから」
「フウマは余計な口出しするな」
案の定、ここぞとばかりにフウマが茶々を入れてくる。どうせそうくるだろうと思っていたので然程腹も立たないが、ここは容赦なくシャットアウトしておく。
「ごめんね、梅津さん。あとでこの子にはきつーーーく言っておくから」
「ちょっと、ナミ」
ただ、そっち側からの攻撃は予想していなかった。うまく返す方法が思い浮かばず、結果的に言い淀んでしまう。ちらっとナミの顔を見れば、一応は笑ってくれているようだけれど、その瞳はあまり愉快な感じには見えなかった。
昔から習字をしていて達筆なナミは、高校に入っても書道部を選んだ。そんな彼女は、普段はおとなしいというか大人っぽい雰囲気で柔和な印象だけれど、時と場合によってはものすごく澄み切った眼差しを向けてくることがある。今が、まさにそれだった。
――これは、ちょっと反省しておいた方が、身のためなのかもしれない。このあとさらに攻撃が飛んでくるといろいろと厳しいことになりそうだ。
そんなことを思いながら、このタイミングでもまだ口を開いていないアストの顔を見れば、彼はいつも通りのふんわりとした笑みを浮かべていた。これは、きっと大丈夫な雰囲気だ。いつでも穏やかな雰囲気を醸し出しているアストに対して、普段からそこまで注意をしているわけじゃないけれど、これは安心してもいいタイプの顔だった。
「……」
「……ん? ユミ、どしたの?」
用事は終わったはずのユミが、何やら思案顔で、この場にいる四人の顔をぐるぐると見回している。
「いやー、ね。アハハ」
そうしたあとで、何故かはぐらかそうとするユミ。
「そんなに勿体振った感じで言われたら、余計に気になるんですけどー?」
「んー。まぁ、そうまで言われたら……、ねえ?」
何かとっておきのモノでも取り出そうとするようなユミの言い方に、フウマ、ナミ、アストの三人が一斉に怪訝な表情になった。もちろんアタシもそうだ。アタシたちだけが知らない秘密のようなモノを暴露されるような恐怖感。それを静かに、ただ静かに煽ってくるような口調と表情だった。
「……言ってイイの?」
「うん」
タイムラグをほとんど作らずに答えると、ユミはにっこりと笑って、人差し指の軌跡で私たちをひとりずつなぞりながら――。
「……どういう組み合わせで付き合ってるの?」
――一瞬だけ、教室の中が静まりかえったような気がした。
「ん? ……あ、はーい」
廊下の方から声がかかったようなので、手を思いっきり振りながら答える。そこにはいたのはアタシと同じく硬式テニス部に所属する子だった。
「あっぶね。……バカセナ、少しは周りを気にしろ」
「ハイハイ、『周り』じゃなくて『オレを』って正直に言ったら謝ったげるわよ」
「……ンのやろぅ」
小声で悪態を吐いたフウマには、頭頂部に軽くデコピン――おでこには当ててないから、何ピンというのが正解なんだろう。どうでもいいかもしれないけれど――をお見舞いしておく。そんなことをしている間にアタシを呼びに来た子たちは、待ちきれなくなったのかアタシの席まで来てくれた。
「さっきコーチから『白水に渡しておいてくれ。アイツ、朝の内に来なかったから』って」
「……あ、ヤッバ」
部活仲間の梅津優実にさらりとしたロングヘアーを揺らしながら言われて、アタシはようやく思い出す。昨日の部活終わりに『明日の朝に渡すモノがあるから、登校し次第撮りに来てくれ』と言われていたのに、びっくりするほど忘れていた。ふんわりと朝を迎えてのんびりと支度をして、まだ時間あるなーとか思いながらのほほんとしすぎたせいで、いつもどおりに慌てて学校に着いてみたら、そんなことはすっぱりとアタマの中から消え失せていたらしい。忘れ物は無いかと訊かれて「無い」と答えたのに。やっぱり忘れ物というものは、頭からごっそり抜け落ちているから忘れるのだ。
似ているのか似ていないのか何とも点数の付けづらいモノマネをしてくれたユミからプリントを受け取る。
「しっかりしなよー? そこまでは怒ってなかったけどさぁ」
「ごめーん」
「……ダメダメ。コイツ、そんなことじゃ全然反省しないから」
「フウマは余計な口出しするな」
案の定、ここぞとばかりにフウマが茶々を入れてくる。どうせそうくるだろうと思っていたので然程腹も立たないが、ここは容赦なくシャットアウトしておく。
「ごめんね、梅津さん。あとでこの子にはきつーーーく言っておくから」
「ちょっと、ナミ」
ただ、そっち側からの攻撃は予想していなかった。うまく返す方法が思い浮かばず、結果的に言い淀んでしまう。ちらっとナミの顔を見れば、一応は笑ってくれているようだけれど、その瞳はあまり愉快な感じには見えなかった。
昔から習字をしていて達筆なナミは、高校に入っても書道部を選んだ。そんな彼女は、普段はおとなしいというか大人っぽい雰囲気で柔和な印象だけれど、時と場合によってはものすごく澄み切った眼差しを向けてくることがある。今が、まさにそれだった。
――これは、ちょっと反省しておいた方が、身のためなのかもしれない。このあとさらに攻撃が飛んでくるといろいろと厳しいことになりそうだ。
そんなことを思いながら、このタイミングでもまだ口を開いていないアストの顔を見れば、彼はいつも通りのふんわりとした笑みを浮かべていた。これは、きっと大丈夫な雰囲気だ。いつでも穏やかな雰囲気を醸し出しているアストに対して、普段からそこまで注意をしているわけじゃないけれど、これは安心してもいいタイプの顔だった。
「……」
「……ん? ユミ、どしたの?」
用事は終わったはずのユミが、何やら思案顔で、この場にいる四人の顔をぐるぐると見回している。
「いやー、ね。アハハ」
そうしたあとで、何故かはぐらかそうとするユミ。
「そんなに勿体振った感じで言われたら、余計に気になるんですけどー?」
「んー。まぁ、そうまで言われたら……、ねえ?」
何かとっておきのモノでも取り出そうとするようなユミの言い方に、フウマ、ナミ、アストの三人が一斉に怪訝な表情になった。もちろんアタシもそうだ。アタシたちだけが知らない秘密のようなモノを暴露されるような恐怖感。それを静かに、ただ静かに煽ってくるような口調と表情だった。
「……言ってイイの?」
「うん」
タイムラグをほとんど作らずに答えると、ユミはにっこりと笑って、人差し指の軌跡で私たちをひとりずつなぞりながら――。
「……どういう組み合わせで付き合ってるの?」
――一瞬だけ、教室の中が静まりかえったような気がした。
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