恋の音色は星空と輝く

御子柴 流歌

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第6章: オルフェウスの涙

6-2. 準備も佳境

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 実行委員として呼ばれていた作業が思った以上に時間がかかってしまい、気が付けば午後1時。教室に戻ったときにはみんなもうお昼を食べ終わって、午後の作業に戻っていた。

 どこの教室でもあちらこちらで作業が進められている。ウチのクラスの場合、奥の一角では明後日、日曜日の教室装飾用パーツの製作作業。手前の方では明日のステージ発表で使う小道具やらの手直しなど。さすがにこの状況では作業の邪魔になってしまうので、いくら委員の仕事で遅くなったとはいえお弁当を取り出すのは忍びなかった。

 廊下の陰の方に戻ってしばらく考えて、自分の荷物を引っ掴んでそのまま校舎から出て、その陰にあるベンチを陣取ることにした。他のクラスもお昼ご飯は食べ終わって準備作業に戻っているようで、先客の姿はなかった。一安心しながら余裕を持ってスペースを確保する。

 出がけに母から『これならそのまま全部捨ててこれるでしょ?』と言われて持たされたのはサンドイッチ。入れ物は使い捨てのモノだったので、たしかにそのままゴミ箱に投げ捨てれば洗い物が無くて済む。

「……時々弁当箱を出し忘れるアタシには持って来い、と」

 きっとそういうことだろう。とくに今日に関しては帰りが遅くなることは伝えてあったので、その辺も考えてのことかもしれない。

「おにぎりかと思ってたけど」

 男子顔負けな爆弾おにぎり――鮭に梅にツナマヨと中の具は複数、いろんなところに固められていたので飽きはしなかった――を持たされたことも過去にはあったので、それと比較すれば随分とかわいらしい雰囲気だった。

 ひとまずいちばん右側に入っていたハムサンドをひとくちいただこうと――。

「お、セナじゃん」

「んぐふっ」

 ――したところで急に声を掛けられて見事にせる。口から中身がこぼれなかったのは不幸中の幸いかもしれないけど、何かが鼻の方に入った気がした。気付かれない程度に強めに鼻呼吸して何とかごまかしながら、声をした方を見上げる。

「……びぃっくりしたぁ」

「そんな驚くような要素あったか?」

「アタシにはあったのよ」

 なぜか自転車にまたがって、フウマがアタシを見下ろしている。

「ん? フウマって今日自転車だったの?」

「違う違う、っていうかよく見ろよ。オレのじゃねーだろ。サイズもあんまり合ってないし」

「……あ、ほんとだ」

 アタシの記憶の中にある、先日四人遊びに行ったときに遅刻してきたフウマが乗ってきた自転車とは全然タイプが違った。あの自転車は何とかっていう海外メーカーのわりとイイヤツ――のちょっと古いモデルだった。お父さんが新しい自転車を買うときに譲ってもらったとかいう話を前に聞いたことがあったので覚えている。

 それに対して今フウマが跨がっている自転車は、よくあるママチャリ風のモノ。サイズも少し小さいというか、フウマの身体にはサドルが低そうだ。大きな前カゴにはしっかりと駅前にあるスーパーとドラッグストア、さらにはホームセンターのレジ袋が入っていた。

「買い出し頼まれたんだよ」

「見りゃ解るわよ、おつかれさま」

「おお、サンキュ」

「あげないわよ」

 あまりにも自然にアタシの弁当箱からサンドイッチ――しかもよりにもよってアタシの好きなたまごサンド――を横取りしようとするので、しっかりと身体で防御。冗談だよなんて言ってフウマは笑ったが、コイツにはおかず泥棒の前科があるので全く信用できなかった。

「っていうか、お前は今メシなの?」

「実行委員の仕事長引いて食べる暇なかった」

「なるほどな、おつかれさん」

「ありがと」

 何か横取り出来そうなモノも見当たらなかったので、盗られる前にたまごサンドを食べることにしておく。フウマはそんなアタシの様子に苦笑いを浮かべながら、ペットボトルのお茶を一本差し出す。

「ん?」

「やるよ、これ」

「え、いいの?」

「別に。それなら売店でも買えるし」

 ここでヘタに意地になって拒むと、強情なところがあるフウマなので余計に面倒なことになりそうだった。ホントは誰かからの頼まれて買ってきた物のはずなのだろうけど、フウマがいいというのならおとなしくもらっておくことにした。

 早速ボトルのキャップを開けて、くいっとひとくちいただくことにすると、フウマは大きく息を吐きながら言う。

「しかしママチャリって案外ツラいのな。あそこの坂道、えっらいキツかったぜ」

「まぁ、そうだろうけどさ」

 スクールバスでもかなりエンジンをふかすようなところがあるあの坂道を、毎朝自転車で駆け上がってくる生徒もいるという話だから恐れ入る。間違いなくただ者じゃない。もしそれが運動部所属じゃないのだったら、その脚力はいったい何で育ててきたのかと質問したくなるくらいだ。残念ながらウチの学校に自転車系の部活は無いけれど、もしあったとしたら速攻でスカウトされていそうだ。

「そもそもふつうの子はアンタみたいな自転車持ってないからね」

「最近はそうでもなくね? けっこう乗ってるヤツいるぞ?」

「そうなの?」

 そこまで気を配ったことがないので知らなかった。

「っていうかそれ、よくよく考えれば自転車のせいってよりもその荷物のせいなんじゃない?」

「あ、たしかに」

 フウマは案外こういう抜けたところもあるのだ。――アタシ自身、あまり他人のことを言えたものじゃないけれど。

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