恋の音色は星空と輝く

御子柴 流歌

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第6章: オルフェウスの涙

6-6. 宴、3日目

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 3日目、煌星祭最終日。

 今日の仕事らしい仕事は、午前中の前半は『警備』とか書かれた如何にもな腕章を付けて行う、実行委員としての校舎見回りくらい。その後は教室での当番。午後からは一応フリーにはなっている。委員の仕事のことなどをクラスメイトたちに配慮してもらった結果、自由時間がかなり長くなっている。例のホームルームでの成果が認められたということらしいけれど、アタシとしてはそこまで大袈裟なことはしていないわけで、何とも言えないちょっとむずがゆいような気持ちになってしまった。

「じゃあ行ってらっしゃーい、おふたりさーん」

「だーかーらー……。いや、もういいや、行ってきます」

 昼休憩からそのままフリータイムにさせてもらうことになったアタシは、金曜日に言われたようにフウマと過ごすことになっていた。たっぷりと女子たちに冷やかされ、男子からの妙な視線にも射貫かれつつ、アタシたちは教室を出る。しばらく歩いて、先に口を開いたのはフウマだった。

「明らかに勘違いされてるパターンだよなぁ、アレ」

「だよねえ……。はぁ~あ」

 ため息が出ちゃう。

「お前は別にイイだろ」

「どこがよ。何がよ」

 ウチのクラスの娘たちはわかっててやっている節があるから良いけれど、今だってこうしてフウマに向かってキラキラとした視線を向ける一方で、ちょっと嫉妬を含んだ視線をついでとばかりにアタシに向けてくる子がそれなりの数いた。そういう視線を受けたことがないから解らないだろうけど、こういうのはなかなかにメンタルを削られる。まったくもってイイはずがないわけだけど。

「あれ? お前知らねえの? 一部男子からビミョーに人気あるんだぞ、お前」

「……は? え、誰が? 誰に?」

「お前が、男子に。ウチの部活の連中にも言われたことあるからな。『オマエと連んでる白水しらみずって、何かイイよな』とか」

 二の句が継げないとはこのことだろうか。言われていることに信じられるような要素が全くないと、こんなにも何も言えなくなってしまうらしい。

「口閉じろー」

「ぅおっと」

 自分が知らない間に、アタシの口はあんぐりと開けっぱなしになっていたらしい。顎が落ちるのは別に美味しいモノを食べたときだけではないらしい。むしろこの場合は顎が外れたパターンだろうか。とりあえず、慌てて口元を手で押さえながら、しっかりと口を閉じる。

「しっかし……。なんでこんな、色気より食い気みたいなヤツを」

「少なくともアンタには、色気なんて安売りしないわよ」

「フン、だろうなぁ。日頃の態度見てりゃ嫌でもわかるわ」

 目には目を。歯には歯を。そして、悪態には悪態を。それにしても、色気なんて。そんなもの持ってないことくらい自分がいちばんわかっているつもりだ。それこそナミの方が余程オトナっぽい。

「でも、あんまり悪い言い方しない方がいいぞ。アストが泣くぞ」

「……フウマさぁ、そこでアストの名前出す?」

 卑怯だ、そんなこと。たしかこの時間のメインホールは芸人さんのコントか何かをしているタイミングだったはずで、それが終わると今度はアストが所属している吹奏楽部の定期演奏会だ。わざわざあまり考えないようにしていたのに、ホントズルい。

「アイツ、そういう話になってもあんまり顔に出さないし、口にも出さないからなぁ……。ぶっちゃけオレでも
『あれ、もしかしてコイツ……?』って思ったのは最近だからな」

「そうなの?」

「うん。……ああ、そうだ。タイミング的には、セナがアストのことを好きなんじゃないか、って思って初めてアストの方にも気付いた、みたいな感じか」

 それだと、アタシはどんだけわかりやすいのか、って話になるんだけど。傷つくのはアタシなんだけど。でも、仕方ない。アタシだってああやってアストに言われるまでは、アストはナミのことが好きなんだと思っていたくらいだし。

「意地になってたところもあるだろうしな。ああやってライバルっぽいヤツがいるのがわかっちまえばさ」

「誰が?」

「アストが」

「ええ~? ウッソだぁ」

 思わぬ言葉にまた唖然としてしまう。ひとまずお昼ご飯になりそうなものを手に入れようと考えていることはわかったのでフウマにくっついて歩いているけれど、頭の中は予想外なことでいっぱいになっていた。

「ホントだって。アイツ、男子同士だと案外そういうところあるんだぞ」

 それならアタシが知る由は無い。『男子会』みたいな場所でのボーイズトークが繰り広げられている場での振る舞い方なんて、アタシたちがわかるはずがないから。

「……意外すぎる」

「やっぱりアレか。アイツもお前にだけ見せる顔みたいなのがあるってことか?」

「それは……、どうなのかわかんないけど」

 アストがアタシだけに見せる顔というモノが何なのか。それをフウマが知るわけないとは思うけれど、それはアタシにも判るわけがない。基準が無ければ調べようがない。

 困ったアタシは微妙な答えを返したけれど、それでフウマは理解できたらしい。

「あー、なるほどなぁ」

「何がよ」

「いや、ほらさ。男のガキってさ『好きな子をイジりたくなるタイプ』と『好きな子には優しくしたくなるタイプ』がいるじゃん」

「知らんし」

「いや、それくらいは知っとけや。ばかたれ」

 フウマはアタシにチョップを食らわせるような素振りをしながら笑う。

 ――ごめん、フウマ。

 知らんし、なんて言ったけど、それくらいわかってる。マンガとかでもよく見る展開だし、アタシがわからないはずがない。何なら一昨日の夜だって、そういう話をユミとしたばかりだ。

 ただ、フウマの口からそんなことを言われるなんて、これっぽっちも思っていなかっただけ。

「アストはさ、たぶん『優しくしたくなるタイプ』なんだよ」

「……ん」

 そう仮定すると、思い当たる節はたくさんある。その真骨頂と言えるのは、間違いなくダブルデートの日のこと。アタシを余計に悲しませないようにとがんばってくれたんだということは、今になればすごく理解できる。あのときはいっぱいいっぱいになってしまって感謝のひとつも告げられていないような気がするけれど、今ならば――。

「で、オレはその逆で、『イジりたくなるタイプ』だったんだよな」

「うん、それはどーでもいいネタかも」

「知ってる。ムダだってこともわかった上で言ってるからな、オレも」

「……あ、っそ」

 即答で言えたことと、素っ気なさを装えたことに安堵する。視線を逸らしたフウマにはきっと気付かれていないはずだ。ガラにもなく――とアタシは思っている――ここまで自分のことをさらけ出してくれたフウマに対してこの態度はどうなのかと思わないわけじゃない。でも、これがアタシの、フウマとの付き合い方だとは思っていた。

 ――フウマ、ごめんなさい。昨日、香取かとりさんに言われたことが、こんなにも早く確信出来てしまうなんて思ってもいなかったよ。

 アンタがアタシに対してやってくるような戯れ合いって、アタシが知る限り、他の娘にはやったことなかったね。

 つまりきっと、そういうことなんだね――。

 自意識過剰なのかもしれないけれど、ちょっとでもアタシに好意を向けていてくれたことが、とても嬉しく思えた。

 だけど、少なくともそれと同じ様な気持ちを、ナミにも抱いてくれていることも嬉しく思える。そうじゃなきゃ、デーティングを受けるなんてこともきっと無かったはずなんだ。

 ぎゅっと締め付けられるような胸の痛みを感じながら、それをひた隠しにして、フウマが何気なく選んだ焼きそばの屋台を見つめる。とりあえずの腹ごしらえにはぴったりだ。

「セナさぁ」

「ん?」

「どっか見たいところとかあるか?」

「……うーん」

 行きたいところがないわけではないけれど。でも――。

「もし無いんだったらさ、吹奏楽部の定期演奏会見に行こうぜ」

「……え?」

「ついでに書道部とな。で、定期演奏会見て解散な」

 そう言って笑顔を向けてくれるフウマ。全力の笑顔ではなくて、ちょっとだけ苦みが走ったような、普段とはちょっとだけ違う笑顔だった。

「……フウマ」

「ぁん?」

「……ありがとね」

「おう」

 自然と感謝の気持ちを伝えたくなった。

「これからも、よろしくね」

「当たり前だ」

 力強く言い切ってくれる。申し訳なさなんて思う必要無い――。フウマはそう言ってくれるだろうから、アタシはこの気持ちが、吹奏楽部の定期演奏会が開演されるまでにどこかへ消えてくれることを願った。

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