シオンズゲイト -zion's gate-

涼雨 零音(すずさめ れいん)

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第三章

第二話

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 機械音がしてぼくらと扉の間に黒っぽい金属の柱のようなものがせり上がってきてぼくの腰ぐらいの高さで止まった。柱の天面には最初の試練のときに見たような黒光りするプレートが埋まっていた。最初のものと似ていたけれど大きさは四倍ぐらいあった。
「準備が出来たらそこに手を乗せたまえ。そうすれば最後の試練への道を開こう。そこに同時に手を乗せた者全員で挑むことができる。一人ずつ挑んでもいいし、力を合わせてもいい。いつ挑んでもいいし、何度挑んでもいい。ただし、一回の挑戦は60分までだ。入って60分が経過してもクリアできない場合、ここへ戻される。それがルールだ。準備が出来たらそこに手を乗せたまえ」
 声はあれこれ説明した上で最初と同じことを繰り返して途切れた。
「すぐに行く?」
 ぼくが訊くとアリアは黙って頷いた。ぼくらがプレートに手を乗せようとしたとき、突然部屋の中の空間にまばゆい光が現れた。驚いて見ていると光の中からシルエットが見えはじめ、光が収まると人が現れた。
「くそっ」
 現れた人が吐き捨てるように言った。
「あ、アクセル」
 アクセルは驚いた顔で振り返ってぼくを見た。
「なんだ、おまえか。おまえもここまで来たんだな」
 そう言ってアクセルはぼくを上から下まで眺めたあと、ぼくと手をつないでいるアリアに目を向けた。
「そいつは?」
「あたしはアリア。ミッションの途中でレイトと会って、それから一緒に行動してる。よろしくね」
 アリアはそう言ってアクセルに笑いかけた。
「おれはアクセルだ。レイトには前に一度会った。途中で他にも何人かプレイヤーに会ったけど、つるむのは性に合わないからな。誰とも一緒には行動してない」
「フェルマータはどうしたの?」
 ぼくが訊いた。
「あいつは、途中けっこうヤバいことがあってな。そんときに壊れちまった」
「そっか。それは、気の毒に」
「いや、そういう風に仕込まれてるんだ。おまえたちも丸腰だろ。違うか? ゴーグルも途中で壊されなかったか? 他に持ってたものも」
 アクセルの言葉でぼくらはハッとした。たしかにゴーグルは無く、アリアのバギーもない。
「ここへ来てわかったんだ。この最後の試練ってやつは、便利な道具はなしで、自分の力だけで切り抜けろっていうことなのさ。だからここへ来るまでに装備はみんな奪われた。これをクリアできなけりゃおれたちはこの牢獄に囚われたままってことさ」
 アクセルはそう言って両手を広げて見せた。

 ぼくは空いている方の掌を見た。
「ね、ぼくらは今来たところで、これからこの試練に挑戦するんだけどさ。アクセルも一緒に行く?」
 ぼくが訊くとアクセルは目を真ん丸に開いてびっくりして見せた。
「何人でも同時に手を乗せたら一緒に挑めるって言ってたよ。ぼくはアリアと一緒に行くつもりだけど、アクセルも一緒にどう?」
「相変わらずおまえは甘ちゃんだな。おれはライバルなんだぞ。それにたった今、おれは試練をクリアできずに戻ってきたところだ。おれを連れていってもおまえにはなんのメリットもない」
「メリットなんて別にいいよ。アクセルとは前に会ってて、いろんな試練を超えてきてまたここで会ったんだし。ライバルって言うけどこれ別に最初の一人しかゴールできないわけじゃないでしょ? 選ばれたものがシオンに行けるんでしょ。なら、みんなで選ばれたらいいんじゃない?」
 ぼくが言うとアリアが隣で頷いた。アクセルはぼくとアリアの顔を見比べて首を振った。
「まったく、おまえらの感覚はわかんねえな。おまえらのおかげでおれもシオンにたどり着けたとして、おれは別に礼なんか言わないし、隙があればおまえらを出し抜くかもしれないぞ。それでも連れていくのか?」
「うーん、ぼくは、べつにこれを競争だと思ってないんだ。ただ、わたしのもとへ来いって言ってる誰かにさ、会いたいだけなんだよ。その人に会えさえすれば、アクセルが先にゴールしてもなんでもいいよ」
「そっちの、アリア? おまえもそれでいいのか」
 アクセルはアリアに向かって訊いた。
「もちろん。あたしも別に競争してないよ」
 アクセルはアリアの答えを聞いて、「あとで後悔しても知らないぞ」と言って手を差し出した。
「ぼくはアクセルとも一緒に行くって今決めたんだ。それがどんな事態を連れてきても、ぼくはそれを引き受けるよ」
 ぼくが言うとアクセルはにやりと笑い、アリアは声を出して笑った。アリアが耳元へ来て「どこかで聞いたようなセリフ」と言った。

 ぼくとアリアは手をつないだままそれぞれ空いている方の手を出し、アクセルは右手を差し出してプレートの上に載せた。プレートが三つの手をスキャンし、部屋が光って視界が真っ白になった。

 目が慣れると僕らはさっきまでよりも薄暗い、大きな部屋の中にいた。正面に扉があり、扉に続く通路の手前に縦長のモニタがあった。
「これが地図になってる」
 とアクセルが言った。モニタには太めの十字架のような模様が描かれていた。よく見ると十字架は小さな正方形をたくさん組み合わせて描かれている。十字架の真ん中の縦の部分は横に三個、縦に十二個の正方形で埋まっていた。それぞれの正方形は四辺のうち二つを二本の線で繋ぐ絵が描かれている。対面する二辺を繋いでいる場合は二本の直線が、隣接する二辺の場合は扇形が描かれていた。
「この一つ一つが通路を表してる」
 アクセルは小さい正方形を指さして言った。
「この地図は動くんだ」
 アクセルはそう言って画面の正方形に触れて動かした。すると縦に並んだ一列の正方形が全部、アクセルの指に引っ張られてスライドした。十字架の下の端からはみ出した正方形は上から入ってきた。十字架の下の端と上の端はつながっていて、ループするようにスライドするようだった。
「横方向はややこしい」
 アクセルが指を横へ移動させると、横に並んだ三つが移動し、十字架の袖の部分に描かれた正方形と連動して移動した。
「で、そこの扉がこの一番下の赤い印のところだ。ゴールは一番上の緑のところ。要は、この通路の絵を並び変えてスタートからゴールまで抜けられるようにすればいい」
 アリアがモニタに触れて絵を動かした。画面上では並んだ正方形の列が複雑に移動した。
「難しいね。この次に目的のマスを持って来ようとすると今まで作ったところが壊れちゃう」
「そう。お手上げさ。おれは最初わからないままその扉から飛び込んで、途中で行き止まりになってて戻ってきた。そのモニタが地図だって分かってからその迷路をなんとかしようとしたけど、一時間頑張ってもどうすればいいのかさっぱりわからない」
 アクセルは文字通り手を上げて「お手上げ」を示して見せた。
「ほら、アクセルを連れてきてよかったじゃないか。ぼくら二人だったらきっと、このモニタに映ってるのが地図で、その通路と連動してるんだって気付くまでにけっこう時間がかかったはずだよ。アクセルがその情報をくれたから、ぼくらはだいぶ時間を短縮できた」
「でも迷路が解けなきゃ意味がないだろ」
「大丈夫。ぼくには解けるよ」
 ぼくが言うとアリアとアクセルが同時にぼくを見た。
「この十字架は展開図なんだよ。ここと、ここを折り曲げて、こっちも折り曲げる。すると立方体ができる。この展開図を立方体にすると、ひとつの面に小さい正方形が九個ある立方体になる。そしてこの正方形の列の動きは、各面の九個をまとめて回転させる動きと同じなんだ」
 ぼくは説明しながら画面を動かした。
「これは大昔の立体パズルを展開図にしたものだよ。ぼくはこの立方体パズルが大好きでね。ほとんど毎日触ってた。だからきっとこの迷路を解けるよ」
 ぼくは画面を触って正方形の列をスライドさせながら、頭の中で立体の動きを想像した。いつも触っているキューブの動きが展開図になることなんて想像したこともなかったけれど、手を動かしながら想像すると次第に頭の中のキューブと目の前の展開図が繋がり始めた。何度か動かすと途中まで通路が繋がった。アリアがスタートから指を浮かせてスタートからなぞり始める。
「この次にこっちへ曲がるマスを持ってきたら良さそうだけど」
「それはここにあるね。これだけをここへ持ってくることはできないから、こっちにあるこれと入れ替える。これとこれを入れ替えることはできるんだ」
 ぼくはそんなことを説明しながら画面を操作する。もちろん頭の中でキューブを動かしながら展開図を操作するわけだ。
「すごい。なんでこの複雑な動きを予想できるの? このマスをこっちへ持って来ようとするとあれもこれも一緒に動いちゃう。でもレイトがいくつか操作すると動かしたいマス以外は元に戻ってる」
「このパズルは前に進んでることがわかりにくいんだよ。ひとつずつ積んでいくのと違って、部分的に見ると作ったものを壊してるように見えたりする。でもその先まで見えている人にとっては、ちゃんと前進してるんだ」
 ぼくが言うとアクセルが拳を握りしめて言った。
「ちきしょう。やつらおれみたいなやつを落とすためにこんな試練を作りやがったんだな」
 ぼくはアクセルの方を見た。アクセルは自分の拳を見つめたまま肩を震わせていた。
「おれは前身することしか考えてない。自分が努力して積んできたものが自分の力だ。そう思ってやってきた。途中まで作った道を一度壊さないとその先が作れないなんてことは理解できない。だからおれには、この試練をクリアすることはできない。これはおれのようなやつを振るい落とすための試練なんだ」
 アクセルの言葉にアリアが答えた。
「だけどアクセルはレイトと会ってた。レイトと一緒に最後の試練に挑むことも選んだ。それはアクセルが持ってた運だし、選んだのはアクセルだよ。一人だったらクリアできなかったかも。それはその通りかもしれない。でもあたしだってそうだし、あたしはもっと前にきっと諦めてた」
「そうさ。ぼくなんて、アリアがいなかったらとっくにゲームオーバーだもの。誰かと一緒に挑んでもいいっていうミッションなんだからさ。力を合わせればいいんだよ」
 アクセルは悔しそうに舌打ちした。ぼくはなんとなく、自分とは全然違うはずのアクセルの気持ちがわかるような気がした。アクセルのような強さを持っている人はきっと、ぼくのような影の薄いやつの力を借りるなんてことが我慢ならないのだろう。それが強い人の弱さなのかもしれないと感じた。
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