真実の愛を見つけたと捨てられた令嬢に持ちかけられた契約婚約~愛していたのは私だったと言われても困ります~

木崎優

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25話

 そして翌日、サイラス様に何を贈るか悩んでいた私はあてもなく学園内をさまよい――

「ふざけるな!」

 響いた怒声に、ぴくりと体を震わせる。怒鳴られたのは私ではない。
 何事かとあたりを見回して、校舎の裏に会いたくないふたりを見つけてしまう。

 怒ったように目を吊り上がらせているコンラッドと、はらはらと涙を流しているモニカさん。誰がどう見ても修羅場以外のなにものでもない。

 いやな場面に出くわしたと踵を返そうとした私の足が、砂利を踏んで音を立てる。

「……アンジェラ」

 その音がコンラッドにも届いたのだろう。ばっとこちらを振り返り、光明が見えたとばかりに顔を輝かせた。
 残念ながら私はあなたの光明ではない。巻き込まないでほしい。

「よかった。どうすればいいのかわからなくなってたんだ」
「いえ、ですから私に頼られても困ると……」

 素早い動きで私のもとまで来ると、懇願するように見下ろされた。身長差が憎い。助けを求めるのならばせめて見上げてほしい。

「違うんだ、アンジェラ。俺も被害者だったんだ。俺もこいつに騙されていて……!」

 怒りを思い出したのだろう。苛々とした様子でまだ泣いているモニカさんを睨みつけた。というか、気づけばモニカさんも近づいてきていた。
 このふたりは私を見つけたらそばに寄らないと気がすまないのか。放っておいてほしい。

「違うのですコンラッド様。私は騙すつもりだなんて……アンジェラ様なら私がそのような女性ではないとわかるでしょう」
「いえ、私は何も知らな――」
「どの口が。最初から明かされていれば、お前など選びはしなかった。アンジェラだって、俺と一緒に幸せでいたはずだ。すべてこいつのせいだとアンジェラも思うだろう」
「いや、だから私は――」
「愛してるとおっしゃってくださったのは嘘だったのですか。その程度のことで崩れるような愛だったと……そうおっしゃるのですか。……アンジェラ様もコンラッド様に言ってやってください。そのようなことは些末な問題だと」
「あの、だから――」
「アンジェラがお前などに同調するわけがないだろう。アンジェラのことは俺が一番よく知っている。たかが数日友達面した程度のお前に何がわかる」
「だから――」
「数日あれば友情を育むにはじゅうぶんなはずです。コンラッド様だって数日で私を愛してくださったではありませんか」
「ああ、そうだな。その数日が間違いだった。お前なんかに現を抜かした俺が馬鹿だった。今からでも遅くはない。アンジェラ、やり直そう」
「いえ――」
「まあ、私の目の前でそんなことをおっしゃるだなんて! アンジェラ様だってころころ手の平を返す男性なんてごめんに決まっています!」
「アンジェラをお前程度の女と一緒にするな! 彼女はいつだって俺のことを考えて俺のために動いてくれていた。少なくとも、俺を騙そうとはしなかった!」
「私だって騙してはおりません! 一言だって私が自ら実子だと名乗ったことがありますか! 勝手に勘違いされたのはそちらでしょう!」
「だったらそう否定すればよかっただろう! 俺と婚約――ましてや結婚などできる身分ではないと!」

 私を挟んで怒鳴り合うから耳が痛くなってきた。
 どうやらモニカさんの出自がコンラッドにも伝わったらしい。コンラッドの怒りは最もではあるが、私を巻き込まないでほしい。というか本当にどうして私を巻き込んだ。
 ふたりとも私に話を振りながら、私の話は聞いていない。勝手に言いたいだけ言い合ってほしい。私のいない場所で。

「しかたないじゃありませんか! 私はあなたを愛してしまったんですもの!」
「俺はお前なんて愛していない! 誰が騙した相手を愛せるものか! ああ、そうだ。今わかった。俺が真に愛していたのはアンジェラだ。ずっと隣で寄り添って支えてくれていた彼女こそ、俺の愛を受けるにふさわしい!」

 ぐいと肩を掴まれ、抱き寄せられる。いやまて、どうしてそうなった。
 早く終わらないかなと空を眺めていたら、話がとんでもないほうに転がっている。

「アンジェラ……愚かな男だと俺を罵ってくれていい。どうか気づくのが遅かった俺を許してくれ。今度こそ君だけを愛すると誓うから」

 こちらを見つめるコンラッドの瞳。どこかうっとりとしているような顔が間近に迫り――モニカさんの悲鳴が響いた。
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