25 / 37
25話
そして翌日、サイラス様に何を贈るか悩んでいた私はあてもなく学園内をさまよい――
「ふざけるな!」
響いた怒声に、ぴくりと体を震わせる。怒鳴られたのは私ではない。
何事かとあたりを見回して、校舎の裏に会いたくないふたりを見つけてしまう。
怒ったように目を吊り上がらせているコンラッドと、はらはらと涙を流しているモニカさん。誰がどう見ても修羅場以外のなにものでもない。
いやな場面に出くわしたと踵を返そうとした私の足が、砂利を踏んで音を立てる。
「……アンジェラ」
その音がコンラッドにも届いたのだろう。ばっとこちらを振り返り、光明が見えたとばかりに顔を輝かせた。
残念ながら私はあなたの光明ではない。巻き込まないでほしい。
「よかった。どうすればいいのかわからなくなってたんだ」
「いえ、ですから私に頼られても困ると……」
素早い動きで私のもとまで来ると、懇願するように見下ろされた。身長差が憎い。助けを求めるのならばせめて見上げてほしい。
「違うんだ、アンジェラ。俺も被害者だったんだ。俺もこいつに騙されていて……!」
怒りを思い出したのだろう。苛々とした様子でまだ泣いているモニカさんを睨みつけた。というか、気づけばモニカさんも近づいてきていた。
このふたりは私を見つけたらそばに寄らないと気がすまないのか。放っておいてほしい。
「違うのですコンラッド様。私は騙すつもりだなんて……アンジェラ様なら私がそのような女性ではないとわかるでしょう」
「いえ、私は何も知らな――」
「どの口が。最初から明かされていれば、お前など選びはしなかった。アンジェラだって、俺と一緒に幸せでいたはずだ。すべてこいつのせいだとアンジェラも思うだろう」
「いや、だから私は――」
「愛してるとおっしゃってくださったのは嘘だったのですか。その程度のことで崩れるような愛だったと……そうおっしゃるのですか。……アンジェラ様もコンラッド様に言ってやってください。そのようなことは些末な問題だと」
「あの、だから――」
「アンジェラがお前などに同調するわけがないだろう。アンジェラのことは俺が一番よく知っている。たかが数日友達面した程度のお前に何がわかる」
「だから――」
「数日あれば友情を育むにはじゅうぶんなはずです。コンラッド様だって数日で私を愛してくださったではありませんか」
「ああ、そうだな。その数日が間違いだった。お前なんかに現を抜かした俺が馬鹿だった。今からでも遅くはない。アンジェラ、やり直そう」
「いえ――」
「まあ、私の目の前でそんなことをおっしゃるだなんて! アンジェラ様だってころころ手の平を返す男性なんてごめんに決まっています!」
「アンジェラをお前程度の女と一緒にするな! 彼女はいつだって俺のことを考えて俺のために動いてくれていた。少なくとも、俺を騙そうとはしなかった!」
「私だって騙してはおりません! 一言だって私が自ら実子だと名乗ったことがありますか! 勝手に勘違いされたのはそちらでしょう!」
「だったらそう否定すればよかっただろう! 俺と婚約――ましてや結婚などできる身分ではないと!」
私を挟んで怒鳴り合うから耳が痛くなってきた。
どうやらモニカさんの出自がコンラッドにも伝わったらしい。コンラッドの怒りは最もではあるが、私を巻き込まないでほしい。というか本当にどうして私を巻き込んだ。
ふたりとも私に話を振りながら、私の話は聞いていない。勝手に言いたいだけ言い合ってほしい。私のいない場所で。
「しかたないじゃありませんか! 私はあなたを愛してしまったんですもの!」
「俺はお前なんて愛していない! 誰が騙した相手を愛せるものか! ああ、そうだ。今わかった。俺が真に愛していたのはアンジェラだ。ずっと隣で寄り添って支えてくれていた彼女こそ、俺の愛を受けるにふさわしい!」
ぐいと肩を掴まれ、抱き寄せられる。いやまて、どうしてそうなった。
早く終わらないかなと空を眺めていたら、話がとんでもないほうに転がっている。
「アンジェラ……愚かな男だと俺を罵ってくれていい。どうか気づくのが遅かった俺を許してくれ。今度こそ君だけを愛すると誓うから」
こちらを見つめるコンラッドの瞳。どこかうっとりとしているような顔が間近に迫り――モニカさんの悲鳴が響いた。
「ふざけるな!」
響いた怒声に、ぴくりと体を震わせる。怒鳴られたのは私ではない。
何事かとあたりを見回して、校舎の裏に会いたくないふたりを見つけてしまう。
怒ったように目を吊り上がらせているコンラッドと、はらはらと涙を流しているモニカさん。誰がどう見ても修羅場以外のなにものでもない。
いやな場面に出くわしたと踵を返そうとした私の足が、砂利を踏んで音を立てる。
「……アンジェラ」
その音がコンラッドにも届いたのだろう。ばっとこちらを振り返り、光明が見えたとばかりに顔を輝かせた。
残念ながら私はあなたの光明ではない。巻き込まないでほしい。
「よかった。どうすればいいのかわからなくなってたんだ」
「いえ、ですから私に頼られても困ると……」
素早い動きで私のもとまで来ると、懇願するように見下ろされた。身長差が憎い。助けを求めるのならばせめて見上げてほしい。
「違うんだ、アンジェラ。俺も被害者だったんだ。俺もこいつに騙されていて……!」
怒りを思い出したのだろう。苛々とした様子でまだ泣いているモニカさんを睨みつけた。というか、気づけばモニカさんも近づいてきていた。
このふたりは私を見つけたらそばに寄らないと気がすまないのか。放っておいてほしい。
「違うのですコンラッド様。私は騙すつもりだなんて……アンジェラ様なら私がそのような女性ではないとわかるでしょう」
「いえ、私は何も知らな――」
「どの口が。最初から明かされていれば、お前など選びはしなかった。アンジェラだって、俺と一緒に幸せでいたはずだ。すべてこいつのせいだとアンジェラも思うだろう」
「いや、だから私は――」
「愛してるとおっしゃってくださったのは嘘だったのですか。その程度のことで崩れるような愛だったと……そうおっしゃるのですか。……アンジェラ様もコンラッド様に言ってやってください。そのようなことは些末な問題だと」
「あの、だから――」
「アンジェラがお前などに同調するわけがないだろう。アンジェラのことは俺が一番よく知っている。たかが数日友達面した程度のお前に何がわかる」
「だから――」
「数日あれば友情を育むにはじゅうぶんなはずです。コンラッド様だって数日で私を愛してくださったではありませんか」
「ああ、そうだな。その数日が間違いだった。お前なんかに現を抜かした俺が馬鹿だった。今からでも遅くはない。アンジェラ、やり直そう」
「いえ――」
「まあ、私の目の前でそんなことをおっしゃるだなんて! アンジェラ様だってころころ手の平を返す男性なんてごめんに決まっています!」
「アンジェラをお前程度の女と一緒にするな! 彼女はいつだって俺のことを考えて俺のために動いてくれていた。少なくとも、俺を騙そうとはしなかった!」
「私だって騙してはおりません! 一言だって私が自ら実子だと名乗ったことがありますか! 勝手に勘違いされたのはそちらでしょう!」
「だったらそう否定すればよかっただろう! 俺と婚約――ましてや結婚などできる身分ではないと!」
私を挟んで怒鳴り合うから耳が痛くなってきた。
どうやらモニカさんの出自がコンラッドにも伝わったらしい。コンラッドの怒りは最もではあるが、私を巻き込まないでほしい。というか本当にどうして私を巻き込んだ。
ふたりとも私に話を振りながら、私の話は聞いていない。勝手に言いたいだけ言い合ってほしい。私のいない場所で。
「しかたないじゃありませんか! 私はあなたを愛してしまったんですもの!」
「俺はお前なんて愛していない! 誰が騙した相手を愛せるものか! ああ、そうだ。今わかった。俺が真に愛していたのはアンジェラだ。ずっと隣で寄り添って支えてくれていた彼女こそ、俺の愛を受けるにふさわしい!」
ぐいと肩を掴まれ、抱き寄せられる。いやまて、どうしてそうなった。
早く終わらないかなと空を眺めていたら、話がとんでもないほうに転がっている。
「アンジェラ……愚かな男だと俺を罵ってくれていい。どうか気づくのが遅かった俺を許してくれ。今度こそ君だけを愛すると誓うから」
こちらを見つめるコンラッドの瞳。どこかうっとりとしているような顔が間近に迫り――モニカさんの悲鳴が響いた。
あなたにおすすめの小説
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
何もしなかっただけです
希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。
それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。
――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。
AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
今さら救いの手とかいらないのですが……
カレイ
恋愛
侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。
それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。
オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが……
「そろそろ許してあげても良いですっ」
「あ、結構です」
伸ばされた手をオデットは払い除ける。
許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。
※全19話の短編です。
そういう時代でございますから
Ruhuna
恋愛
私の婚約者が言ったのです
「これは真実の愛だ」ーーと。
そうでございますか。と返答した私は周りの皆さんに相談したのです。
その結果が、こうなってしまったのは、そうですね。
そういう時代でございますからーー
*誤字脱字すみません
*ゆるふわ設定です
*辻褄合わない部分があるかもしれませんが暇つぶし程度で見ていただけると嬉しいです
ようやく自由にしてくださって感謝いたします
一ノ瀬和葉
恋愛
華やかな舞踏会の夜、突然告げられた婚約破棄。
誰もが涙と屈辱を予想する中、令嬢の唇からこぼれたのは――思いがけない一言だった。
その瞬間から、運命は静かに、しかし決定的に動き出す。
※ご都合です、小説家になろう様でも投稿しています。