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28話
いつもの様子に戻ったサイラス様にほっと胸を撫でおろす。
「大丈夫?」
「え、ええ、はい。これといって何かされたわけではありませんので……いえ、されそうにはなりましたが阻止しましたので大事には至りませんでした」
「……何を、されそうになったのかな?」
「キスを……モニカさんにだいぶ怒っていたようで、見せつけてやろうとでも思ったのかもしれませんね」
まったく、そんなことで関係のない女性の唇を奪おうとするとは。
一時は婚約者だったが、だからといってキスしていい理由にはならない。婚約者だった間ならまだしも、関係を終わらせてからというのは問題外だ。
情けなくて――そしてあんな人と生涯を共にしようとしていた自分自身も情けなくて、涙すら出てこない。
「……やはり口を縫い付けるべきだったか」
「え? いえ、サイラス様が手を下すようなことでは……婚約者がほかの男性に言い寄られそうになっていたというのは醜聞かもしれませんが、幸いこのあたりは人目がありませんし、目撃された方もいらっしゃらないようなので……アシュクロフト家も今はいろいろ大変でしょうし、落ち着いたときにでもそれ相応の代償を求めるので、問題ありません」
唸るような低い声に慌てて言葉を連ねていく。ただのキスひとつで、しかも未遂に終わっているためさほど問題にはならないだろうし、代償もたいしたものはもらえないとは思うけど、サイラス様の機嫌はこれ以上損ねるべきではない。
サイラス様自身のためにもという気持ちが伝わったのだろう。彼の口元に苦笑が浮かぶ。
「君がそういうのなら、俺から何かすることはしないと約束しよう。だがもしも同じことがまた起きれば、そのときは教えてほしい。二年半という限られた時間とはいえ、俺は君の婚約者なのだから……困ったときには頼ってくれて構わない」
「寛大なお言葉ありがとうございます。では助けがほしいときは遠慮なくお願いしますね」
サイラス様に頼らないといけないほど困ることはそうそう起こらないだろうけど、私ひとりで解決が難しいときは、助けてもらおう。
頷いて顔をほころばせるサイラス様に、私も微笑みかける。
――だがその数日後、私の身に困ったことが降りかかった。口は災いのもと、とでも思えばいいのかなんなのか。
冷ややかな目を向けられることこそあれ、これまで過ごしたなかで困るような事態が起きることはほとんどなかった。だからサイラス様にもそのときはお願いすると気軽に言えたわけで。
それなのにどうしてこう何度も面倒なことが私のところに舞い込んでくるのか。
「少し、困ったことが起きた」
むすっとした仏頂面のルーファウス殿下に、思わず顔が引きつってしまう。
いつから私はお悩み相談所になったんだ。
「大丈夫?」
「え、ええ、はい。これといって何かされたわけではありませんので……いえ、されそうにはなりましたが阻止しましたので大事には至りませんでした」
「……何を、されそうになったのかな?」
「キスを……モニカさんにだいぶ怒っていたようで、見せつけてやろうとでも思ったのかもしれませんね」
まったく、そんなことで関係のない女性の唇を奪おうとするとは。
一時は婚約者だったが、だからといってキスしていい理由にはならない。婚約者だった間ならまだしも、関係を終わらせてからというのは問題外だ。
情けなくて――そしてあんな人と生涯を共にしようとしていた自分自身も情けなくて、涙すら出てこない。
「……やはり口を縫い付けるべきだったか」
「え? いえ、サイラス様が手を下すようなことでは……婚約者がほかの男性に言い寄られそうになっていたというのは醜聞かもしれませんが、幸いこのあたりは人目がありませんし、目撃された方もいらっしゃらないようなので……アシュクロフト家も今はいろいろ大変でしょうし、落ち着いたときにでもそれ相応の代償を求めるので、問題ありません」
唸るような低い声に慌てて言葉を連ねていく。ただのキスひとつで、しかも未遂に終わっているためさほど問題にはならないだろうし、代償もたいしたものはもらえないとは思うけど、サイラス様の機嫌はこれ以上損ねるべきではない。
サイラス様自身のためにもという気持ちが伝わったのだろう。彼の口元に苦笑が浮かぶ。
「君がそういうのなら、俺から何かすることはしないと約束しよう。だがもしも同じことがまた起きれば、そのときは教えてほしい。二年半という限られた時間とはいえ、俺は君の婚約者なのだから……困ったときには頼ってくれて構わない」
「寛大なお言葉ありがとうございます。では助けがほしいときは遠慮なくお願いしますね」
サイラス様に頼らないといけないほど困ることはそうそう起こらないだろうけど、私ひとりで解決が難しいときは、助けてもらおう。
頷いて顔をほころばせるサイラス様に、私も微笑みかける。
――だがその数日後、私の身に困ったことが降りかかった。口は災いのもと、とでも思えばいいのかなんなのか。
冷ややかな目を向けられることこそあれ、これまで過ごしたなかで困るような事態が起きることはほとんどなかった。だからサイラス様にもそのときはお願いすると気軽に言えたわけで。
それなのにどうしてこう何度も面倒なことが私のところに舞い込んでくるのか。
「少し、困ったことが起きた」
むすっとした仏頂面のルーファウス殿下に、思わず顔が引きつってしまう。
いつから私はお悩み相談所になったんだ。
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