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30話
というふうに釘を刺されたわけだが、私と先に契約を交わしたのはサイラス様だ。
いわば、サイラス様と私の関係は雇用主と雇われた従業員。従業員がほかで仕事するのなら、雇用主の承諾が必要になるというもので。
「――というわけでして、なぜだか王妃殿下と謁見することになりました」
私の報告を聞いたサイラス様はソファに座りながら両手で顔をおさえ、うなだれた。
もうやだあの王妃、という心の叫びが聞こえてきそうだ。
「……ああと、そうだな。……謁見するのであれば、ルーファウスが用意するというものは、ありがたく受け取っておくといい。難癖つけられたときの保険だろうから……王妃殿下はルーファウスを可愛がっているからな。難癖つけてきた瞬間、自分が選んだものだと明かし、黙らせるつもりだろう」
「ルーファウス殿下は王妃殿下と良好な関係を築いてはいないのですか?」
なんとも回りくどく、陰険なやり口に思えるが、ルーファウス殿下は王妃様のことを快く思っていないのだろうか。
そんな私の疑問に、サイラス様は顔を覆っていた手を外し、苦笑を浮かべた。
「……よくあるだろう。親に逆らいたくなる時期というものが……」
「つまり、ルーファウス殿下は今反抗期であると」
「可愛がっているといえば聞こえはいいが、あれをしろ、これはしては駄目、危ないからと幼少のころから制限が多かったそうだから……十歳ぐらいから反発した態度をとるようになったんだ」
「ずいぶんと長い反抗期ですね」
ルーファウス殿下は十六歳で、じきに十七歳になる。六、七年も反抗期とは。もはやそれは反抗期ではないのではないだろうか。
「代わり、とでもいうべきか、おかげで僕にはよく懐いていて……それでよりいっそう王妃殿下は僕に反感を抱き、とまあ、そういう感じなんだ」
それはたまたなんとも、とんでもない悪循環である。サイラス様の胃がそのうち崩壊するのではないかと心配になってしまう。
「僕の選んだ相手に興味を抱くかもと気づけなかったのは……僕の落ち度だ。しかも君の話によると僕の同席は認められないだろうし……気が重いのであれば体調不良と偽って欠席してくれても構わない。君の不利にはならないように、手を回しておく」
「いえ、それは……構いません。王妃殿下とお会いするのはおそれおおいですが、サイラス様のお手を煩わせるようなことがないよう尽力いたします」
サイラス様の胃のためにも、ここは私が頑張るべきだろう。
おそらく、私が欠席するとなれば、王妃殿下はサイラス様に文句をつけにくるのではないだろうか。あの手この手で文句を聞き流し、私に対する不満を自分にぶつけさせ、留飲を下げさせる。それぐらいのことは、サイラス様ならしそうだ。
だってサイラス様は今、私の不利にはならないようにと言ったけど、自分については何も言っていない。
すでに反感を抱かれているのだから、ひとつやふたつその上に重なっても構わない、ぐらいは考えていそうだ。
「婚約者になると約束したのですから、婚約者である間はできる限りのことはしたいと思います」
「……そう言ってもらえると、助かる」
そう言って微笑むサイラス様は、誰がどうみたって疲れ切っていて。
これまでにも散々、王妃様との間でいろいろあったのだろうと察するにはじゅうぶんすぎた。
最終的には別れを選ぶのであっても、婚約者である間は、私なりにサイラス様の助けになれるよう頑張るべきだろう。
私には、難色を示していたコンラッドのご両親も、最終的には渋々であっても私を受け入れたという実績がある。
あのときと同じように、受け入れてもらえるよう努めるのが、婚約者というものなのではないだろうか。そして少しでもサイラス様の憂いを晴らすのが、婚約者の務めだろう。
「王妃殿下に気に入られるよう頑張ります」
「いや、それはどうだろう……?」
よし、と意気込む私にサイラス様がなんとも微妙な顔をして首を傾げた。
いわば、サイラス様と私の関係は雇用主と雇われた従業員。従業員がほかで仕事するのなら、雇用主の承諾が必要になるというもので。
「――というわけでして、なぜだか王妃殿下と謁見することになりました」
私の報告を聞いたサイラス様はソファに座りながら両手で顔をおさえ、うなだれた。
もうやだあの王妃、という心の叫びが聞こえてきそうだ。
「……ああと、そうだな。……謁見するのであれば、ルーファウスが用意するというものは、ありがたく受け取っておくといい。難癖つけられたときの保険だろうから……王妃殿下はルーファウスを可愛がっているからな。難癖つけてきた瞬間、自分が選んだものだと明かし、黙らせるつもりだろう」
「ルーファウス殿下は王妃殿下と良好な関係を築いてはいないのですか?」
なんとも回りくどく、陰険なやり口に思えるが、ルーファウス殿下は王妃様のことを快く思っていないのだろうか。
そんな私の疑問に、サイラス様は顔を覆っていた手を外し、苦笑を浮かべた。
「……よくあるだろう。親に逆らいたくなる時期というものが……」
「つまり、ルーファウス殿下は今反抗期であると」
「可愛がっているといえば聞こえはいいが、あれをしろ、これはしては駄目、危ないからと幼少のころから制限が多かったそうだから……十歳ぐらいから反発した態度をとるようになったんだ」
「ずいぶんと長い反抗期ですね」
ルーファウス殿下は十六歳で、じきに十七歳になる。六、七年も反抗期とは。もはやそれは反抗期ではないのではないだろうか。
「代わり、とでもいうべきか、おかげで僕にはよく懐いていて……それでよりいっそう王妃殿下は僕に反感を抱き、とまあ、そういう感じなんだ」
それはたまたなんとも、とんでもない悪循環である。サイラス様の胃がそのうち崩壊するのではないかと心配になってしまう。
「僕の選んだ相手に興味を抱くかもと気づけなかったのは……僕の落ち度だ。しかも君の話によると僕の同席は認められないだろうし……気が重いのであれば体調不良と偽って欠席してくれても構わない。君の不利にはならないように、手を回しておく」
「いえ、それは……構いません。王妃殿下とお会いするのはおそれおおいですが、サイラス様のお手を煩わせるようなことがないよう尽力いたします」
サイラス様の胃のためにも、ここは私が頑張るべきだろう。
おそらく、私が欠席するとなれば、王妃殿下はサイラス様に文句をつけにくるのではないだろうか。あの手この手で文句を聞き流し、私に対する不満を自分にぶつけさせ、留飲を下げさせる。それぐらいのことは、サイラス様ならしそうだ。
だってサイラス様は今、私の不利にはならないようにと言ったけど、自分については何も言っていない。
すでに反感を抱かれているのだから、ひとつやふたつその上に重なっても構わない、ぐらいは考えていそうだ。
「婚約者になると約束したのですから、婚約者である間はできる限りのことはしたいと思います」
「……そう言ってもらえると、助かる」
そう言って微笑むサイラス様は、誰がどうみたって疲れ切っていて。
これまでにも散々、王妃様との間でいろいろあったのだろうと察するにはじゅうぶんすぎた。
最終的には別れを選ぶのであっても、婚約者である間は、私なりにサイラス様の助けになれるよう頑張るべきだろう。
私には、難色を示していたコンラッドのご両親も、最終的には渋々であっても私を受け入れたという実績がある。
あのときと同じように、受け入れてもらえるよう努めるのが、婚約者というものなのではないだろうか。そして少しでもサイラス様の憂いを晴らすのが、婚約者の務めだろう。
「王妃殿下に気に入られるよう頑張ります」
「いや、それはどうだろう……?」
よし、と意気込む私にサイラス様がなんとも微妙な顔をして首を傾げた。
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