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6 プレゼント
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本格的な冬の到来。
カレンダーの月は12を示す。
早朝の寒さは言うまでもなく、日中も日の照りが弱く終始寒い。
手がかじかみ、吐く息も白く凍える。
苦手な季節だ。
寒いのは勿論そうだけど、また別の事でも嫌な季節になる。
一人の私には全く関係のない話。
別に一人が嫌なわけじゃない、周囲がこれ見よがしにアピールしてくるのが嫌だ。
心の中で大きなため息が出る。
最近、自分の中で変化があった。
本を読むのが遅くなってきた。
一週間かければ数冊読めていたのに、今は一冊読めるかどうか。
スラスラ読めていたのに、何が原因なのかよくわからない。
今日もいつも通り図書室へ出勤。
本格的に寒くなると、図書室では暖房が付く。
他の生徒もそれを目当てに昼休みはごった返すが、放課後は暖房という餌には
そっぽを向いて自分の家という大きな餌に食らいつく。
だから今の時期でも人はいない。私以外――――じゃなかった。
もう一人いたんだった。
扉を開けると、そこに彼の姿があった。
今日は起きているようだが、彼に対して妙に変な感じを覚えた。
心なしか、何時もよりもニコニコしている気がした。
一抹の不安を感じながらも、めぼしい本を手に取り、席に着く。
彼の屈託のない笑顔がこちらに向けられる。いい加減、その原因が何なのか知りたくなった。
「あの、柳君。気のせいかもしれないですけど、今日はやけに機嫌が良さそうで」
「え? 分かる?」
「何となく。で、何かありました?」
「実は、今日は僕の誕生日なんだ」
素直に驚いた。
聞いたことが無いから当たり前ではあるけど、今日が誕生日なんて。
分かっていれば、こっちも何か用意ぐらいはしていたのに。
「それは……おめでとうございます」
「ありがとう、小宮さん」
それで会話は終わり。
視線を本に向けるのだけど、彼は一向に私から視線を外さない。
流石に気になって本を伏せた。
「何か?」
「実は小宮さんにお願いがあるんだ」
「それはどういう事で?」
「君から誕生日プレゼントをもらいたいんだ」
白ける。
そういう事は人に強要するべきではない、と私は思う。
ただ、まあ。柳君なら考えても良いかな。
「分かりました。後日で良いですか? 何か買ってきます」
「ああ、買わなくていいよ」
「? 誕生日プレゼントなのに?」
「僕が欲しいのは小宮さんからしかもらえないから」
それを聞いて心臓が一瞬跳ね上がる。
私からしかもらえない物?
不安と同時に何か違うものが一緒に込みあがってくる。
「それで、その……なんですか?」
彼は顔を近づけてくる。優しく愛想の良い笑みを零す。
「今度、僕が寝ている時に手を握って欲しいんだ」
「……え? 手を握る?」
「そう。僕が起きるまでの間、小宮さんが僕の手を握ってて欲しいんだ」
「まさかそれが誕生日に欲しいものですか?」
「そうだよ」
心中、安堵と落胆のため息が渦巻く。
何時も変わった人だとは思っていたけど、まさかこんなことを言い出すとは思わなかった。
お返しとばかりに微笑み返し。
「嫌です。別に私じゃなくても良いじゃないですか」
「小宮さんの手が良い」
「お断りします」
「ダメなの?」
「ダメです」
きょとん、とした顔の柳君。
おそらく、断られるとは思っていなかったのだろう。
馬鹿馬鹿しい。もっと違う事を頼めばいいのに。
それから数秒の間が訪れた後。
「ねぇ、小宮さん」
「何ですか?」
「小宮さんは、もしかして僕の事嫌い?」
「――――っ!」
その一言が無性に腹が立った。
立ち上がり、鞄を持つ。
本をしまわず、そのまま彼の方を見ずに教室を出た。
言えなかった。
冗談でも、私は嫌いとは言えなかった。
カレンダーの月は12を示す。
早朝の寒さは言うまでもなく、日中も日の照りが弱く終始寒い。
手がかじかみ、吐く息も白く凍える。
苦手な季節だ。
寒いのは勿論そうだけど、また別の事でも嫌な季節になる。
一人の私には全く関係のない話。
別に一人が嫌なわけじゃない、周囲がこれ見よがしにアピールしてくるのが嫌だ。
心の中で大きなため息が出る。
最近、自分の中で変化があった。
本を読むのが遅くなってきた。
一週間かければ数冊読めていたのに、今は一冊読めるかどうか。
スラスラ読めていたのに、何が原因なのかよくわからない。
今日もいつも通り図書室へ出勤。
本格的に寒くなると、図書室では暖房が付く。
他の生徒もそれを目当てに昼休みはごった返すが、放課後は暖房という餌には
そっぽを向いて自分の家という大きな餌に食らいつく。
だから今の時期でも人はいない。私以外――――じゃなかった。
もう一人いたんだった。
扉を開けると、そこに彼の姿があった。
今日は起きているようだが、彼に対して妙に変な感じを覚えた。
心なしか、何時もよりもニコニコしている気がした。
一抹の不安を感じながらも、めぼしい本を手に取り、席に着く。
彼の屈託のない笑顔がこちらに向けられる。いい加減、その原因が何なのか知りたくなった。
「あの、柳君。気のせいかもしれないですけど、今日はやけに機嫌が良さそうで」
「え? 分かる?」
「何となく。で、何かありました?」
「実は、今日は僕の誕生日なんだ」
素直に驚いた。
聞いたことが無いから当たり前ではあるけど、今日が誕生日なんて。
分かっていれば、こっちも何か用意ぐらいはしていたのに。
「それは……おめでとうございます」
「ありがとう、小宮さん」
それで会話は終わり。
視線を本に向けるのだけど、彼は一向に私から視線を外さない。
流石に気になって本を伏せた。
「何か?」
「実は小宮さんにお願いがあるんだ」
「それはどういう事で?」
「君から誕生日プレゼントをもらいたいんだ」
白ける。
そういう事は人に強要するべきではない、と私は思う。
ただ、まあ。柳君なら考えても良いかな。
「分かりました。後日で良いですか? 何か買ってきます」
「ああ、買わなくていいよ」
「? 誕生日プレゼントなのに?」
「僕が欲しいのは小宮さんからしかもらえないから」
それを聞いて心臓が一瞬跳ね上がる。
私からしかもらえない物?
不安と同時に何か違うものが一緒に込みあがってくる。
「それで、その……なんですか?」
彼は顔を近づけてくる。優しく愛想の良い笑みを零す。
「今度、僕が寝ている時に手を握って欲しいんだ」
「……え? 手を握る?」
「そう。僕が起きるまでの間、小宮さんが僕の手を握ってて欲しいんだ」
「まさかそれが誕生日に欲しいものですか?」
「そうだよ」
心中、安堵と落胆のため息が渦巻く。
何時も変わった人だとは思っていたけど、まさかこんなことを言い出すとは思わなかった。
お返しとばかりに微笑み返し。
「嫌です。別に私じゃなくても良いじゃないですか」
「小宮さんの手が良い」
「お断りします」
「ダメなの?」
「ダメです」
きょとん、とした顔の柳君。
おそらく、断られるとは思っていなかったのだろう。
馬鹿馬鹿しい。もっと違う事を頼めばいいのに。
それから数秒の間が訪れた後。
「ねぇ、小宮さん」
「何ですか?」
「小宮さんは、もしかして僕の事嫌い?」
「――――っ!」
その一言が無性に腹が立った。
立ち上がり、鞄を持つ。
本をしまわず、そのまま彼の方を見ずに教室を出た。
言えなかった。
冗談でも、私は嫌いとは言えなかった。
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