29 / 29
ずっと君に恋してる
6
しおりを挟む
*
ただ泣くだけの私の背中を、瑛士は優しくなでてくれる。
身体の力が抜けていく。
安心してる。この腕の中が、一番心地いい。
「遠坂と結婚したくないなら、そう言えばいいんだよ。返事は決まってるなんて言われたら、俺だって否定できない」
「このままじゃいけないって思って」
「もちろんそうだよ。今のままの俺をずっと好きでいても仕方ないよね」
好きでいることすら許してくれない彼は、私をそっと引き離すと、涙で濡れたほおを手のひらでぬぐってくれる。
「どうして俺のこと好きか、つぐみはわからないって言ったけど、どうして俺が受け入れられないかはわかってるんだよ」
「どうして……ダメなの?」
ずっと私はそれが知りたかった。
好きなことに理由はなくても、ダメなことに理由は必ずあるから。
瑛士はなぜか、顔を近づけてきた。
あっ、と思ったときには、唇が重なっていた。
ただ、しっとりと重なり続ける唇からは、愛しさと優しさしか感じられない。
「なんで……?」
「こうしないと、泣きやまないだろう? つぐみは頑張りすぎだよ」
「そんなことない」
「そんなことあるよ。俺はね、そういうの好きだと思ってたよ」
目を合わせたら、瑛士はひどく優しくほほえむ。
「何でも一生懸命にやるつぐみが好きだったよ。純粋だから、どんなことも飲み込むように吸収する。でもね、純粋すぎたんだ。それが怖かった」
前にも、瑛士は私を怖いと言ったんだった。
「怖いって言ったのは、俺の弱さにだよ。強くて清いつぐみに俺は劣等感があった」
「高輪さん……」
そんなことない。彼はずっと完璧だった。
私の思いが伝わったのか、彼は自嘲気味に笑う。
「過大評価って怖いよね。それを隠すために俺は努力してきたよ。それでも、つぐみは追いかけてきた。俺に釣り合う女性になりたかった? 違うよ。俺が釣り合う男になれなかったんだ」
「そんなこと思ったことない」
「つぐみはまっすぐだからだよ。俺を斜めから見たことある? 俺はね、ずっとつぐみの純粋なところが重荷だった。いつかつぐみをダメにする。俺じゃダメだ。そう思う毎日が負担だった」
瑛士は頭をふって、ぼうぜんとする私に、ごめん、とつぶやく。
「別れたのは、劣等感からだよ。覚悟が足りてなかったから、逃げ出したんだ。大人になって再会するなんて思ってもなかった。逃げ出したことがバレないように振る舞うのはもう、疲れたよ」
「私といると、高輪さんが壊れるの?」
頼りなげに、彼は眉をさげる。
「そうじゃないよ。俺はまだ、つぐみに釣り合う男になれてない。でも時間が足りない。いつならなれる? そう思ってるうちに、あの男がつぐみをさらいに来た」
「だから……?」
「ああ、そうだよ。彼ならつぐみを幸せにできるよね。身を引くなんて綺麗事に見せかけて、俺はまた逃げ出そうとした。みっともないだろう?」
失笑する彼の手を恐る恐る握りしめる。さっきまで震えていたのは私なのに、今は彼が泣き出しそうに震えてる。
これが、本当の瑛士?
ううん、違う。
これも、本当の瑛士だろう。
初めて瑛士が、私に心を開いてくれた。
「まだ間に合うかな? つぐみ」
私の腰に両手を添えて、ひたいを重ねてくる彼の方へあごをあげる。
「何も手遅れになんてなってない」
「今度こそ、幸せにするよ。俺はきっと、つぐみが幸せになる可能性を全部つぶした。でもつぐみは、俺が幸せにする可能性にかけてくれたんだから」
「もう幸せなのに」
「まだ、もっと幸せになれるよ」
うん、ってうなずこうとする私の唇に、そっとキスが落ちてくる。
まぶたを閉じたら、瑛士との未来が見えた気がした。
私は、あの日からずっと、これからもずっと、あなたに恋してる____
【完】
ただ泣くだけの私の背中を、瑛士は優しくなでてくれる。
身体の力が抜けていく。
安心してる。この腕の中が、一番心地いい。
「遠坂と結婚したくないなら、そう言えばいいんだよ。返事は決まってるなんて言われたら、俺だって否定できない」
「このままじゃいけないって思って」
「もちろんそうだよ。今のままの俺をずっと好きでいても仕方ないよね」
好きでいることすら許してくれない彼は、私をそっと引き離すと、涙で濡れたほおを手のひらでぬぐってくれる。
「どうして俺のこと好きか、つぐみはわからないって言ったけど、どうして俺が受け入れられないかはわかってるんだよ」
「どうして……ダメなの?」
ずっと私はそれが知りたかった。
好きなことに理由はなくても、ダメなことに理由は必ずあるから。
瑛士はなぜか、顔を近づけてきた。
あっ、と思ったときには、唇が重なっていた。
ただ、しっとりと重なり続ける唇からは、愛しさと優しさしか感じられない。
「なんで……?」
「こうしないと、泣きやまないだろう? つぐみは頑張りすぎだよ」
「そんなことない」
「そんなことあるよ。俺はね、そういうの好きだと思ってたよ」
目を合わせたら、瑛士はひどく優しくほほえむ。
「何でも一生懸命にやるつぐみが好きだったよ。純粋だから、どんなことも飲み込むように吸収する。でもね、純粋すぎたんだ。それが怖かった」
前にも、瑛士は私を怖いと言ったんだった。
「怖いって言ったのは、俺の弱さにだよ。強くて清いつぐみに俺は劣等感があった」
「高輪さん……」
そんなことない。彼はずっと完璧だった。
私の思いが伝わったのか、彼は自嘲気味に笑う。
「過大評価って怖いよね。それを隠すために俺は努力してきたよ。それでも、つぐみは追いかけてきた。俺に釣り合う女性になりたかった? 違うよ。俺が釣り合う男になれなかったんだ」
「そんなこと思ったことない」
「つぐみはまっすぐだからだよ。俺を斜めから見たことある? 俺はね、ずっとつぐみの純粋なところが重荷だった。いつかつぐみをダメにする。俺じゃダメだ。そう思う毎日が負担だった」
瑛士は頭をふって、ぼうぜんとする私に、ごめん、とつぶやく。
「別れたのは、劣等感からだよ。覚悟が足りてなかったから、逃げ出したんだ。大人になって再会するなんて思ってもなかった。逃げ出したことがバレないように振る舞うのはもう、疲れたよ」
「私といると、高輪さんが壊れるの?」
頼りなげに、彼は眉をさげる。
「そうじゃないよ。俺はまだ、つぐみに釣り合う男になれてない。でも時間が足りない。いつならなれる? そう思ってるうちに、あの男がつぐみをさらいに来た」
「だから……?」
「ああ、そうだよ。彼ならつぐみを幸せにできるよね。身を引くなんて綺麗事に見せかけて、俺はまた逃げ出そうとした。みっともないだろう?」
失笑する彼の手を恐る恐る握りしめる。さっきまで震えていたのは私なのに、今は彼が泣き出しそうに震えてる。
これが、本当の瑛士?
ううん、違う。
これも、本当の瑛士だろう。
初めて瑛士が、私に心を開いてくれた。
「まだ間に合うかな? つぐみ」
私の腰に両手を添えて、ひたいを重ねてくる彼の方へあごをあげる。
「何も手遅れになんてなってない」
「今度こそ、幸せにするよ。俺はきっと、つぐみが幸せになる可能性を全部つぶした。でもつぐみは、俺が幸せにする可能性にかけてくれたんだから」
「もう幸せなのに」
「まだ、もっと幸せになれるよ」
うん、ってうなずこうとする私の唇に、そっとキスが落ちてくる。
まぶたを閉じたら、瑛士との未来が見えた気がした。
私は、あの日からずっと、これからもずっと、あなたに恋してる____
【完】
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
姉の引き立て役の私は
ぴぴみ
恋愛
アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。
「どうしたら、お姉様のようになれるの?」
「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」
姉は優しい。でもあるとき気づいて─
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる