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ずっと君に恋してる
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*
ただ泣くだけの私の背中を、瑛士は優しくなでてくれる。
身体の力が抜けていく。
安心してる。この腕の中が、一番心地いい。
「遠坂と結婚したくないなら、そう言えばいいんだよ。返事は決まってるなんて言われたら、俺だって否定できない」
「このままじゃいけないって思って」
「もちろんそうだよ。今のままの俺をずっと好きでいても仕方ないよね」
好きでいることすら許してくれない彼は、私をそっと引き離すと、涙で濡れたほおを手のひらでぬぐってくれる。
「どうして俺のこと好きか、つぐみはわからないって言ったけど、どうして俺が受け入れられないかはわかってるんだよ」
「どうして……ダメなの?」
ずっと私はそれが知りたかった。
好きなことに理由はなくても、ダメなことに理由は必ずあるから。
瑛士はなぜか、顔を近づけてきた。
あっ、と思ったときには、唇が重なっていた。
ただ、しっとりと重なり続ける唇からは、愛しさと優しさしか感じられない。
「なんで……?」
「こうしないと、泣きやまないだろう? つぐみは頑張りすぎだよ」
「そんなことない」
「そんなことあるよ。俺はね、そういうの好きだと思ってたよ」
目を合わせたら、瑛士はひどく優しくほほえむ。
「何でも一生懸命にやるつぐみが好きだったよ。純粋だから、どんなことも飲み込むように吸収する。でもね、純粋すぎたんだ。それが怖かった」
前にも、瑛士は私を怖いと言ったんだった。
「怖いって言ったのは、俺の弱さにだよ。強くて清いつぐみに俺は劣等感があった」
「高輪さん……」
そんなことない。彼はずっと完璧だった。
私の思いが伝わったのか、彼は自嘲気味に笑う。
「過大評価って怖いよね。それを隠すために俺は努力してきたよ。それでも、つぐみは追いかけてきた。俺に釣り合う女性になりたかった? 違うよ。俺が釣り合う男になれなかったんだ」
「そんなこと思ったことない」
「つぐみはまっすぐだからだよ。俺を斜めから見たことある? 俺はね、ずっとつぐみの純粋なところが重荷だった。いつかつぐみをダメにする。俺じゃダメだ。そう思う毎日が負担だった」
瑛士は頭をふって、ぼうぜんとする私に、ごめん、とつぶやく。
「別れたのは、劣等感からだよ。覚悟が足りてなかったから、逃げ出したんだ。大人になって再会するなんて思ってもなかった。逃げ出したことがバレないように振る舞うのはもう、疲れたよ」
「私といると、高輪さんが壊れるの?」
頼りなげに、彼は眉をさげる。
「そうじゃないよ。俺はまだ、つぐみに釣り合う男になれてない。でも時間が足りない。いつならなれる? そう思ってるうちに、あの男がつぐみをさらいに来た」
「だから……?」
「ああ、そうだよ。彼ならつぐみを幸せにできるよね。身を引くなんて綺麗事に見せかけて、俺はまた逃げ出そうとした。みっともないだろう?」
失笑する彼の手を恐る恐る握りしめる。さっきまで震えていたのは私なのに、今は彼が泣き出しそうに震えてる。
これが、本当の瑛士?
ううん、違う。
これも、本当の瑛士だろう。
初めて瑛士が、私に心を開いてくれた。
「まだ間に合うかな? つぐみ」
私の腰に両手を添えて、ひたいを重ねてくる彼の方へあごをあげる。
「何も手遅れになんてなってない」
「今度こそ、幸せにするよ。俺はきっと、つぐみが幸せになる可能性を全部つぶした。でもつぐみは、俺が幸せにする可能性にかけてくれたんだから」
「もう幸せなのに」
「まだ、もっと幸せになれるよ」
うん、ってうなずこうとする私の唇に、そっとキスが落ちてくる。
まぶたを閉じたら、瑛士との未来が見えた気がした。
私は、あの日からずっと、これからもずっと、あなたに恋してる____
【完】
ただ泣くだけの私の背中を、瑛士は優しくなでてくれる。
身体の力が抜けていく。
安心してる。この腕の中が、一番心地いい。
「遠坂と結婚したくないなら、そう言えばいいんだよ。返事は決まってるなんて言われたら、俺だって否定できない」
「このままじゃいけないって思って」
「もちろんそうだよ。今のままの俺をずっと好きでいても仕方ないよね」
好きでいることすら許してくれない彼は、私をそっと引き離すと、涙で濡れたほおを手のひらでぬぐってくれる。
「どうして俺のこと好きか、つぐみはわからないって言ったけど、どうして俺が受け入れられないかはわかってるんだよ」
「どうして……ダメなの?」
ずっと私はそれが知りたかった。
好きなことに理由はなくても、ダメなことに理由は必ずあるから。
瑛士はなぜか、顔を近づけてきた。
あっ、と思ったときには、唇が重なっていた。
ただ、しっとりと重なり続ける唇からは、愛しさと優しさしか感じられない。
「なんで……?」
「こうしないと、泣きやまないだろう? つぐみは頑張りすぎだよ」
「そんなことない」
「そんなことあるよ。俺はね、そういうの好きだと思ってたよ」
目を合わせたら、瑛士はひどく優しくほほえむ。
「何でも一生懸命にやるつぐみが好きだったよ。純粋だから、どんなことも飲み込むように吸収する。でもね、純粋すぎたんだ。それが怖かった」
前にも、瑛士は私を怖いと言ったんだった。
「怖いって言ったのは、俺の弱さにだよ。強くて清いつぐみに俺は劣等感があった」
「高輪さん……」
そんなことない。彼はずっと完璧だった。
私の思いが伝わったのか、彼は自嘲気味に笑う。
「過大評価って怖いよね。それを隠すために俺は努力してきたよ。それでも、つぐみは追いかけてきた。俺に釣り合う女性になりたかった? 違うよ。俺が釣り合う男になれなかったんだ」
「そんなこと思ったことない」
「つぐみはまっすぐだからだよ。俺を斜めから見たことある? 俺はね、ずっとつぐみの純粋なところが重荷だった。いつかつぐみをダメにする。俺じゃダメだ。そう思う毎日が負担だった」
瑛士は頭をふって、ぼうぜんとする私に、ごめん、とつぶやく。
「別れたのは、劣等感からだよ。覚悟が足りてなかったから、逃げ出したんだ。大人になって再会するなんて思ってもなかった。逃げ出したことがバレないように振る舞うのはもう、疲れたよ」
「私といると、高輪さんが壊れるの?」
頼りなげに、彼は眉をさげる。
「そうじゃないよ。俺はまだ、つぐみに釣り合う男になれてない。でも時間が足りない。いつならなれる? そう思ってるうちに、あの男がつぐみをさらいに来た」
「だから……?」
「ああ、そうだよ。彼ならつぐみを幸せにできるよね。身を引くなんて綺麗事に見せかけて、俺はまた逃げ出そうとした。みっともないだろう?」
失笑する彼の手を恐る恐る握りしめる。さっきまで震えていたのは私なのに、今は彼が泣き出しそうに震えてる。
これが、本当の瑛士?
ううん、違う。
これも、本当の瑛士だろう。
初めて瑛士が、私に心を開いてくれた。
「まだ間に合うかな? つぐみ」
私の腰に両手を添えて、ひたいを重ねてくる彼の方へあごをあげる。
「何も手遅れになんてなってない」
「今度こそ、幸せにするよ。俺はきっと、つぐみが幸せになる可能性を全部つぶした。でもつぐみは、俺が幸せにする可能性にかけてくれたんだから」
「もう幸せなのに」
「まだ、もっと幸せになれるよ」
うん、ってうなずこうとする私の唇に、そっとキスが落ちてくる。
まぶたを閉じたら、瑛士との未来が見えた気がした。
私は、あの日からずっと、これからもずっと、あなたに恋してる____
【完】
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