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元彼は記憶喪失
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今日も松村理乃は留守だった。
ドアの奥で鳴る玄関チャイムの音を聞くのは、これで三度目だ。誰も反応しないその音の響きが収まると、光莉ははじめてドアノブに触れた。
ゆっくりと手首を押し下げる。しかし、ドアノブはすぐに抵抗を見せ、回転を許さない。
やっぱり、開いてるわけないか。光莉はため息をつく。理乃はどこへ行ってしまったのだろう。
改めて、アパートのドアを眺める。重厚感のある栗色のドアに表札はなく、101号室のプレートだけがつけられている。
一人暮らしにしては立派なアパートのように感じるが、長く日本から離れていた光莉は、30手前の女一人暮らしの相場がわからず、今時はこんなものなのだろう、と違和感を受け流し、ドアから離れた。
そして、少しでも理乃の形跡が見つけられないかと、101号室の集合ポストの中をのぞき込もうとしたとき、光莉はこちらをじっと見つめている女の人に気づいた。
その女の人は駐車場に立っていた。細かな花柄のワンピースは茶色で、高級ブランドバッグと綺麗に磨かれたパンプスで、秋の装いを品よくまとめている。とてもおしゃれで上品な人だ。
このアパートに暮らしている人だろうか。そう思って、小さく頭をさげようとした光莉は、いきなり間合いをつめてきた彼女に驚いて、身を引いた。
「この泥棒猫っ!」
しかし、そのかいもなく、叫び声とともに突然横から飛んできた衝撃をよけることはできなかったようだ。
この令和の時代にドラマでしか聞かないようなセリフを聞くとは思わなかった。光莉はどこか、他人事のようにそう考えながら、平手打ちされたほおに手を当てた。
「いきなり、なんですか?」
思ったより、冷静な声が出た。それは、怒髪天をつく勢いでこちらをにらみつけている彼女に、まったく見覚えがなかったからだろう。
「しらばくれないで。知ってるんですよっ! あなたが主人と不倫してるって」
「不倫……」
つぶやいて、光莉はすぐさま思案した。
この女の人は光莉を理乃と間違えている。誤解を解こうか。いや、誤解されたままの方が、理乃の情報を得られるだろうか。
悩む光莉が無言だからか、図星ととらえたのであろう彼女はますます怒りをにじませた目を向けてくる。
「あなた、主人の部下だそうね。松村理乃さんを異動させるよう、会社には電話しましたから」
あなたの素性はバレているのだと言わないばかりに、わざとらしくフルネームを口にする。
「え……」
「あたりまえです。もう二度と主人には会わないで」
「会社にって、本当に?」
それは、いつ?
理乃が行方不明になった理由と関係があるだろうか。
「騒いでも無駄よ。証拠はすべて握ってますから」
ぎゅっとハンドバッグを握りしめた彼女は、光莉の質問には答えず、怒りを鎮める様子もなくかかとをひるがえす。
「待ってっ」
あわてて光莉は呼び止めた。
もっと話を聞かせてほしい。もしかしたら、理乃の行方を知る手がかりになるかもしれない。
しかし、光莉の祈りもむなしく、彼女は立ち去った。
ドアの奥で鳴る玄関チャイムの音を聞くのは、これで三度目だ。誰も反応しないその音の響きが収まると、光莉ははじめてドアノブに触れた。
ゆっくりと手首を押し下げる。しかし、ドアノブはすぐに抵抗を見せ、回転を許さない。
やっぱり、開いてるわけないか。光莉はため息をつく。理乃はどこへ行ってしまったのだろう。
改めて、アパートのドアを眺める。重厚感のある栗色のドアに表札はなく、101号室のプレートだけがつけられている。
一人暮らしにしては立派なアパートのように感じるが、長く日本から離れていた光莉は、30手前の女一人暮らしの相場がわからず、今時はこんなものなのだろう、と違和感を受け流し、ドアから離れた。
そして、少しでも理乃の形跡が見つけられないかと、101号室の集合ポストの中をのぞき込もうとしたとき、光莉はこちらをじっと見つめている女の人に気づいた。
その女の人は駐車場に立っていた。細かな花柄のワンピースは茶色で、高級ブランドバッグと綺麗に磨かれたパンプスで、秋の装いを品よくまとめている。とてもおしゃれで上品な人だ。
このアパートに暮らしている人だろうか。そう思って、小さく頭をさげようとした光莉は、いきなり間合いをつめてきた彼女に驚いて、身を引いた。
「この泥棒猫っ!」
しかし、そのかいもなく、叫び声とともに突然横から飛んできた衝撃をよけることはできなかったようだ。
この令和の時代にドラマでしか聞かないようなセリフを聞くとは思わなかった。光莉はどこか、他人事のようにそう考えながら、平手打ちされたほおに手を当てた。
「いきなり、なんですか?」
思ったより、冷静な声が出た。それは、怒髪天をつく勢いでこちらをにらみつけている彼女に、まったく見覚えがなかったからだろう。
「しらばくれないで。知ってるんですよっ! あなたが主人と不倫してるって」
「不倫……」
つぶやいて、光莉はすぐさま思案した。
この女の人は光莉を理乃と間違えている。誤解を解こうか。いや、誤解されたままの方が、理乃の情報を得られるだろうか。
悩む光莉が無言だからか、図星ととらえたのであろう彼女はますます怒りをにじませた目を向けてくる。
「あなた、主人の部下だそうね。松村理乃さんを異動させるよう、会社には電話しましたから」
あなたの素性はバレているのだと言わないばかりに、わざとらしくフルネームを口にする。
「え……」
「あたりまえです。もう二度と主人には会わないで」
「会社にって、本当に?」
それは、いつ?
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「騒いでも無駄よ。証拠はすべて握ってますから」
ぎゅっとハンドバッグを握りしめた彼女は、光莉の質問には答えず、怒りを鎮める様子もなくかかとをひるがえす。
「待ってっ」
あわてて光莉は呼び止めた。
もっと話を聞かせてほしい。もしかしたら、理乃の行方を知る手がかりになるかもしれない。
しかし、光莉の祈りもむなしく、彼女は立ち去った。
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