記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

文字の大きさ
21 / 75
君を守りたくて

2

しおりを挟む
「連絡取れなくて……か。お姉さん、亡くなったんだよな。……ごめん。なんか俺、ダメだな。光莉がショック受けてるのに、自分の気持ち押しつけた」

 後悔するように拓海が天を仰いだとき、駐車場に車が入ってくる。

 住人が帰ってきたようだ。運転席に乗る中年の男が、駐車場で何しゃべってるんだ、って言いたげに凝視してくるから気まずい。

「ここじゃ、邪魔になるよな。俺の部屋に来いよ」
「もう行くから、大丈夫だよ。理乃のことに拓海を巻き込みたくない」
「気にするな。話ぐらい聞くよ。俺だってまだ気になってることあるし」

 拓海はそう言うと、運転席から降りてきた男に、「こんにちはー」と愛想よくあいさつすると、そそくさと駐車場を出ていく。光莉もちょこんと男に頭を下げ、あわてて彼を追いかける。

「気になることって?」

 拓海の部屋に入るなり、光莉は尋ねる。

「お姉さんって、同じ高校だったよな?」
「理乃を覚えてるの?」
「あー、違う。昨日、光莉さ、卒業アルバム見てただろ? ひとりだけ、やけにじっと見てるなぁって気になってた。あの女の子の名前、確か、松村理乃だったよなって思い出してさ」

 彼はキャリーバッグをリビングに運ぶと、ローテーブルの上に出しっぱなしになっていた卒業アルバムを開く。

「ああ、やっぱりそうだ。光莉のお姉さんって、この人?」

 人差し指で理乃を差す彼に、光莉はうなずく。

「理乃は高2の時に転校してきた。私たちと同じクラスに」
「俺と光莉、同じクラスだったんだな」
「1年の時から一緒。拓海がひとめぼれしたって告白してくれたのも、1年の時」
「えー、それ、マジかよ。俺、そんなふうに光莉に言ったわけ?」
「うん。それまで私は拓海を意識したことなかったけど」
「なんだよそれ。恥ずかしいな」

 照れくさそうにする彼の笑顔は昔と変わらない。あの頃に戻れたらいいのに、と思ってしまう。

「同じ写真部に入って、カメラを語る拓海を見て、カッコいいなって思って付き合うことにしたんだ。本当は別れたくなかったし、同じ大学にも行きたかった。でも……、できなくなった」

 言葉に悔しさがにじんでしまう。理乃は突然現れ、光莉の幸せを根こそぎ奪う。だから、奪われる前に逃げる道を選んだ。

 それは拓海を信頼していないことの裏返しでもあった。卑怯だったのは自分で、理乃だけを責められない。

 まぶたを伏せると、拓海は途端に神妙になる。

「光莉が引っ越したのは、お姉さんが転校してきたことと何か関係がある?」
「お姉さんって呼び方、ちょっと気まずい。私は理乃を姉だなんて思ったことないし、彼女だってそうだったと思う」
「まあ、複雑だよな、きっと」

 そう言う拓海が複雑そうな表情をしている。仲の良い両親の結婚は、実は不倫の末の略奪婚でしたなんて、本当に笑えない。

「理乃は私に嫉妬してた。だから、私に会いに来たんだと思う」
「嫉妬してるのに、会いに来る?」
「理乃はそういう子だから。父のいる私が羨ましくて、私になりたかったんじゃないかな」

 理乃は両親のそろった家庭に憧れていたんじゃないだろうか。両親だけでなく、信頼できる友だち、優しい彼氏……、はたから見たら、羨ましいぐらいの幸せを手にしている光莉になりたくて、すべてを奪い取るために転校してきたんじゃないだろうか。

 しかし、これはただの想像でしかない。理乃は死んでしまった。彼女の真意が聞ける日はもう二度と来ない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

7歳の侯爵夫人

凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。 自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。 どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。 目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。 王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー? 見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。 23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

雪とともに消えた記憶~冬に起きた奇跡~

梅雨の人
恋愛
記憶が戻らないままだったら…そうつぶやく私にあなたは 「忘れるだけ忘れてしまったままでいい。君は私の指のごつごつした指の感触だけは思い出してくれた。それがすべてだ。」 そういって抱きしめてくれた暖かなあなたのぬくもりが好きよ。 雪と共に、私の夫だった人の記憶も、全て溶けて消えてしまった私はあなたと共に生きていく。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

処理中です...