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禁じられた恋
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夕食を作り終えても、拓海は帰って来なかった。何度も玄関を見に行ってはリビングに戻り、しばらくうろうろしていたが、一旦落ち着こうと、ソファーにすとんと座る。
光莉がここに泊まるようになった頃はひと目を気にして綺麗にしていたリビングも、今となっては日常がこうであったのだろうと想像してしまうほどに雑然としていた。
拓海のものには必要以上に触れないできたけれど、洗濯物ぐらい畳んでも大丈夫だろうと、ソファーの背に引っかけてある彼の衣類に手を伸ばす。
ひざの上でシャツを畳んで、ローテーブルの上に重ねていく。すぐに畳み終えてしまうと、手持ち無沙汰になる。彼が時折そうしているように、洗濯物をクローゼットの中へ片付けようと、畳んだ衣類を抱えて隣の部屋のドアを開く。
カーテンの引かれた室内は薄暗い。照明をつけて、床に置かれたいくつものカメラの収納ケースの間を縫うようにして中へ進む。そのとき、クローゼットの前に置かれた空のケースに気づいた。部屋を整えるということに関しては無頓着な彼だが、カメラをケースに片付け忘れるというのはおかしい。
もしかしたら、使っていないケースかもしれない。そうは思ったが、ケースに貼られたラベルが気になって近づく。
そこには、ドックスXNV2000というモデル名と、製造年だろうか、半年前の日付が書かれていた。改めて、辺りを見回してみるが、行き場のないカメラはなく、どれも几帳面に片付けられている。
クローゼットをそっと開けてみる。カメラの箱がいくつも積み上げられている。上から順に見ていくと、XNV2000の箱はすぐに見つかった。
夜景の撮影に強いデジタル一眼レフカメラという謳い文句が箱には書かれている。手に取ってみるが、とても軽い。中身は入ってなさそうだ。
それにしても、どこに行ってしまったのだろう。今年発売された高性能の一眼レフをなくすなんてありえないだろう。首をかしげたとき、玄関チャイムの音が鳴った。
拓海が帰ってきたのかも。そう直感すると、あわててリビングに走り出て、インターフォンを押す。
「はい」
「光莉、俺」
聞き慣れた声が聞こえてくる。やっぱり、拓海だ。
「すぐに開けるっ」
言うが早いか、光莉はリビングを飛び出して、鍵をあける時間すらもどかしく思いながら、ドアを押し開く。その先に立つのは、気まずそうな笑みを浮かべた拓海だ。
「もう二度と帰れないみたいな勢いで鍵預けたけどさ、思ったよりはやく帰れたよ」
そう恥ずかしげに言う彼に、光莉はすぐさま両腕を伸ばす。
「あっ、おい」
驚いた拓海は後ろへさがりかけたが、片腕を背中に回して光莉を抱きとめる。
「よかった、帰ってこれて」
「どうしたんだよ、急に」
彼の胸にひたいを押し当てて、シャツをぎゅっと握りしめる。
「私、間違ってた」
美帆の言う通りだった。アメリカ行きは母の意向だったが、光莉が望まなければ、転校は取りやめになっていただろう。
理乃から逃げ出して、美帆と友だちをやめて、拓海から離れたのは、光莉の意思だった。あのときはそれでいいと信じていたけれど、拓海が自分の知らない人生を歩んでいたと知って後悔するぐらいなら、離れたらいけなかった。
「俺がいない間に、何かあった?」
「拓海がそばにいてくれるの、あたりまえに思ってた。全然、あたりまえじゃなかったのに」
夕食を作り終えても、拓海は帰って来なかった。何度も玄関を見に行ってはリビングに戻り、しばらくうろうろしていたが、一旦落ち着こうと、ソファーにすとんと座る。
光莉がここに泊まるようになった頃はひと目を気にして綺麗にしていたリビングも、今となっては日常がこうであったのだろうと想像してしまうほどに雑然としていた。
拓海のものには必要以上に触れないできたけれど、洗濯物ぐらい畳んでも大丈夫だろうと、ソファーの背に引っかけてある彼の衣類に手を伸ばす。
ひざの上でシャツを畳んで、ローテーブルの上に重ねていく。すぐに畳み終えてしまうと、手持ち無沙汰になる。彼が時折そうしているように、洗濯物をクローゼットの中へ片付けようと、畳んだ衣類を抱えて隣の部屋のドアを開く。
カーテンの引かれた室内は薄暗い。照明をつけて、床に置かれたいくつものカメラの収納ケースの間を縫うようにして中へ進む。そのとき、クローゼットの前に置かれた空のケースに気づいた。部屋を整えるということに関しては無頓着な彼だが、カメラをケースに片付け忘れるというのはおかしい。
もしかしたら、使っていないケースかもしれない。そうは思ったが、ケースに貼られたラベルが気になって近づく。
そこには、ドックスXNV2000というモデル名と、製造年だろうか、半年前の日付が書かれていた。改めて、辺りを見回してみるが、行き場のないカメラはなく、どれも几帳面に片付けられている。
クローゼットをそっと開けてみる。カメラの箱がいくつも積み上げられている。上から順に見ていくと、XNV2000の箱はすぐに見つかった。
夜景の撮影に強いデジタル一眼レフカメラという謳い文句が箱には書かれている。手に取ってみるが、とても軽い。中身は入ってなさそうだ。
それにしても、どこに行ってしまったのだろう。今年発売された高性能の一眼レフをなくすなんてありえないだろう。首をかしげたとき、玄関チャイムの音が鳴った。
拓海が帰ってきたのかも。そう直感すると、あわててリビングに走り出て、インターフォンを押す。
「はい」
「光莉、俺」
聞き慣れた声が聞こえてくる。やっぱり、拓海だ。
「すぐに開けるっ」
言うが早いか、光莉はリビングを飛び出して、鍵をあける時間すらもどかしく思いながら、ドアを押し開く。その先に立つのは、気まずそうな笑みを浮かべた拓海だ。
「もう二度と帰れないみたいな勢いで鍵預けたけどさ、思ったよりはやく帰れたよ」
そう恥ずかしげに言う彼に、光莉はすぐさま両腕を伸ばす。
「あっ、おい」
驚いた拓海は後ろへさがりかけたが、片腕を背中に回して光莉を抱きとめる。
「よかった、帰ってこれて」
「どうしたんだよ、急に」
彼の胸にひたいを押し当てて、シャツをぎゅっと握りしめる。
「私、間違ってた」
美帆の言う通りだった。アメリカ行きは母の意向だったが、光莉が望まなければ、転校は取りやめになっていただろう。
理乃から逃げ出して、美帆と友だちをやめて、拓海から離れたのは、光莉の意思だった。あのときはそれでいいと信じていたけれど、拓海が自分の知らない人生を歩んでいたと知って後悔するぐらいなら、離れたらいけなかった。
「俺がいない間に、何かあった?」
「拓海がそばにいてくれるの、あたりまえに思ってた。全然、あたりまえじゃなかったのに」
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