記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

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禁じられた恋

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***


 美帆から真中の連絡先を教えてもらったのは、再会から二日後の夜だった。拓海は早速、その番号に電話をかけ、1時間ほど話し込んでいた。

 拓海の話によると、真中は端山駅に近い総合病院の神経内科に勤務しているとのことだった。偶然にも、拓海が入院していたのは、真中の勤務する病院だったようだ。

 真中は彼が記憶喪失だと知ると、診察してやるから来いよ、と気軽に声をかけてくれて、早速、翌日ふたりで病院を訪ねていた。

「悪いな。診察、最後に回して」

 診察室に入ると、白衣姿の真中が穏やかな笑顔で出迎えてくれる。下手に馴れ馴れしくない、久しぶりに会う知人への気づかいが感じられる知的な笑みだ。

「全然いいよ。ゆっくり話せた方がいいしな」

 拓海が椅子に座ると、光莉も並んで腰かける。すると、真中がどことなくうれしそうに交互に顔を眺めてくる。

「それにしても懐かしいな。下手すりゃ、大学以来か? 本田さんは高校以来だしな」
「うん、久しぶりだね。また会えるなんて思ってなかった」

 光莉がそう言うと、真中はうなずいて目を細める。

「こうやってふたり一緒にいるところ見ると、懐かしさが増すよ」
「お似合いだろ?」
「相変わらずだな、おまえは。付き合ってるの? ふたり」
「まあな。記憶喪失になっても、光莉のことだけは覚えてるんだよ。光莉がいてくれたらそれだけでいいっていうか」

 思い切り、拓海はのろける。学生時代、杉谷とふざけてばかりいた彼は、真面目な悩みとなると真中に相談していたが、今でもやっぱり、相談しやすいのだろう。

「へえ、本田さんのことだけ。興味深いね」
「遠慮なく調べてくれよ。荒療治で光莉を忘れさせたら容赦しないけどな」
「そんなことするかよ」

 真中はくすりと笑うと、パソコンに向かい、拓海のカルテを開く。

「担当医に相談してさ、これからは俺がおまえを診ることになったよ。って言っても、MRI、記憶検査、視覚検査等、全部異常なし。前回の診察で心療内科を勧めたみたいだけど、まだ?」
「ああ、まだ。最近、忙しくてさ。来月には行こうと思ってるよ」

 拓海は治療を放棄してるわけじゃないんだと、恥じ入るように後ろ頭をかく。

「忙しいって、仕事?」
「いや、仕事は来週から。昨日、電話で話しただろ? 松村の事件が気になってさ」
「ああ、松村さんな。ずっと会ってなかったけど、彼女のことは印象に残ってるよ」
「真中くんたちは理乃とは全然交流ないんだよね?」

 光莉が尋ねると、真中は腕を組んで天井を見上げる。

「ないね。たぶん、高校時代の同級生はみんな、疎遠じゃないか? 田沢の話だと、松村さんって、連絡先とかも誰とも交換してなかったらしいしな」
「じゃあ、同級生と付き合ってるって話もないのか?」

 拓海が興味津々に身を乗り出す。理乃とは付き合ってない気がすると言いつつも、やはりまだ気になってるのだろう。

「ああ、それ、警察にも聞かれたよ。腕時計の持ち主探しに躍起みたいだな」
「腕時計?」
「知らないか?」
「いや、知ってる。警察は真中にも聞きにきた?」
「カタログ見せられたよ。松村の恋人のものらしいな。知らないって言ったらさ、誰かがつけてるのも見たことないか? って聞かれたよ」
「それで?」
「もちろん、知らないさ。ああいう時計は俺の趣味じゃないからな。目に入っても記憶には残らないさ。いかにも、成金が好む時計だよ」
「ひどい言い方だな」

 拓海は苦笑する。

「まあ、わかりやすいブランドにこだわったのは、松村さんかもしれないけどな。値段と愛情は比例してるんだってアピールしたのかもな」

 真中の言い分には妙に納得してしまう。拓海も同様のようで、感心しながら言う。

「松村の方がぞっこんみたいだ」
「きっとそうだろう。腕時計をプレゼントする時点でお察しだ」
「束縛タイプか、松村は」
「そういうこと」

 やはり、時計をプレゼントするとなると特別な意味を持つのだろうか。もしかしたら理乃は、結婚を意識するほどに相手の男が好きだったのかもしれない。

「束縛に耐えきれなくて、別れ話のもつれで……って可能性が高そうだな」
「さあ、俺はそこまではわからないよ。ただ、警察はかなり腕時計の持ち主を疑ってるだろうな」

 首をすくめる真中に、拓海は神妙に切り出す。

「……それがさ、真中」
「どうした?」
「真中のことは信用してる」
「ああ、なんだ、急に。まあ、なんだかんだの腐れ縁。裏切らないって約束できるけどな」

 軽い口調だが、彼の言葉には説得力と重みがある。だからこそ、拓海は話す気になったのだろう。

「実はさ、あの腕時計、俺が持ってたんだ」
「おまえが? なんで」
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