記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

文字の大きさ
49 / 75
禁じられた恋

10

しおりを挟む
 冷静な真中も、さすがに驚いた様子で目を丸くする。

「それがわかったら苦労しないよ」
「付き合ってたのか? って、そんな記憶もないか」

 不可解そうに真中は腕を組む。何やら考え込むが、程なくして首を振る。

「いやー、おまえと松村さんは考えにくいよ。だいたい、松村さんはミステリアスで、駆け引きが苦手なおまえのタイプじゃない。本田さんみたいに素直でわかりやすいタイプが好きだよな」
「だよな。そんな気がする。腕時計からもさ、俺の指紋しか出なくてさ、おかしいんだよな」
「ということは、考えられるのは、一つだよな?」

 真中は人差し指を立てて拓海の顔をのぞき込む。

「一つって?」
「だからさ、その腕時計の持ち主が犯人だとするなら、罪をおまえになすりつけようとしたってことだろ? おまえが記憶障害なのをいいことに」

 ハッと息を飲み、光莉と目を合わせる拓海を見て、真中はあきれる。

「なんだよ。その可能性、考えてなかったのか?」
「まあ」
「で、その腕時計、どこにあったんだ?」
「どこって……。ああそうだ。バッグの中だよ」

 拓海は愛用しているボディバッグを軽く叩く。

「いつも使ってるバッグか?」
「ここのところは、ずっと。入院中に母親が買ってきたんだよ。前のやつは、びしょ濡れでダメになったからさ」
「びしょ濡れ?」
「川に落ちたから」
「ああ、そうか。じゃあ、例の腕時計は間違いなく、転落事故以降に入れられたってことだな。じゃあ、そのバッグに腕時計を入れるチャンスがあったのは、誰だ?」

 真中と目が合うが、光莉は首を横に振る。光莉が拓海と再会したときにはきっともう、あの腕時計は拓海のもとにあった。

 ふたりで拓海を見守っていると、彼は思い出しながら話す。

「そうだなー。バッグは病室にずっと置いてあったから、まず、うちの両親だろ? 次に、看護師と医者か」
「病室は個室だったか?」
「そう。部屋には常に誰かいたし、ほかの患者が入れたとかは考えにくいかな」
「お見舞いには誰が来た?」
「誰って、警察と会社の同僚ぐらいだな。ああ、あと、シオンの店長」
「シオン?」
「アパート近くのバー。よく行くんだよ。シオンの帰り道で川に落ちたからさ、店長が申し訳ないって毎日のように顔出してくれてさー」

 それ以外に来た人はいないと思う、と拓海は補足する。

「退院後はそのバッグ持って出かけたか?」
「もちろん。って言っても、腕時計に気づいたのは、退院して1週間後ぐらいかな。それまでに会ったのは、やっぱり、両親と警察の前山さん、シオンの基哉さんたちぐらいかな。コンビニは毎日行ってたけど、そこで入れられたなら、お手上げだ」
「まずはわかる範囲で潰していこう。とりあえず、今あげた中で、松村さんと接点がありそうなのは?」
「……全然わからない」

 拓海は悩んだ挙句、そう答える。

「まあ、そうだよな。ご両親には腕時計のこと話したのか?」
「いや、まだ。聞いた方がいいか?」
「ああ。もしかしたら、おまえの部屋にあったものを、気をきかせて入れたかもしれないからな」

 真中はいろんな可能性を考えているようだ。次々と拓海に指示を出す姿には頼もしさを感じる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

7歳の侯爵夫人

凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。 自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。 どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。 目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。 王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー? 見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。 23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

雪とともに消えた記憶~冬に起きた奇跡~

梅雨の人
恋愛
記憶が戻らないままだったら…そうつぶやく私にあなたは 「忘れるだけ忘れてしまったままでいい。君は私の指のごつごつした指の感触だけは思い出してくれた。それがすべてだ。」 そういって抱きしめてくれた暖かなあなたのぬくもりが好きよ。 雪と共に、私の夫だった人の記憶も、全て溶けて消えてしまった私はあなたと共に生きていく。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

処理中です...