記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

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10年後の約束

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 前山と別れると、教えてもらった目印を頼りに、つかさ公園へと向かった。

 シオンからは二十分ほどの距離だ。ペンタプリズムからでも同様だろう。ふらっと散歩に出かけるにはちょうどいい距離のように感じる。

 つかさ公園と彫られた銘板を確認して石段を上がると、小さな広場があった。公園と名はつくが遊具はなく、ひと気もない。今は花も葉もない桜の木が広場を囲うように植えられていて、ベンチが一つ置かれているだけ。春になれば、満開の桜を見に近所の人が集まるのだろうと思える公園だ。

 光莉は申し訳なさそうに置かれているベンチに近づいた。なるほど。つかさ公園は丘の上にあるようだ。ベンチに座って、端山の街の一端が眺められるようになっている。

 今はまだ明るいが、夜になれば、駅前にあるビルの光と夜空のコントラストが楽しめるかもしれない。しかし、絶景の夜景スポットとしておすすめするには物足りない。とはいえ、夜景の試し撮りをするにはちょうどいい場所だろう。

 足もとへ視線を落とす。熱心に整備されてはいないようで、雑草はむやみに伸び、石ころも転がっている。頻繁に人の出入りがある公園ではないようだ。

 光莉はベンチに腰掛け、ぼんやりと端山の街を見下ろす。理乃の死因は、腹部への刺し傷によるショック死だった。彼女はどこで、誰に殺され、東京湾へ運ばれたのか。想像しようとすると憂鬱になる。

 理乃の死の真相を追うのは間違っているだろうか。

 さっきから、基哉の言葉がずっしりと胸にのしかかっている。理乃が死んで、ホッとしてるんじゃないか。彼はそう言った。そうかもしれないという残酷な思いと向き合いたくない気持ちはいまだにある。その気持ちを隠すために発した自身の言葉は、彼の言う通り、綺麗事でしかなかっただろう。

 自分は理乃から逃げ出した高校生の頃から何も変わっていない。被害者ぶって、立ち向かうこともせず、誰かを傷つけていた卑怯者の自分はまだいる。

 きっと、自分は救われたいのだ。理乃が助けを求めてきたとき、メールを無視しないですぐに動いていたら、彼女を助けられたかもしれない。その可能性を否定したくて、犯人を探している。

「理乃に嫌われて、当然だよね……」

 ぽつりとつぶやいた言葉は黄昏に溶ける。それでも、近くに理乃がいるような気がして、語りかける。

「私、犯人見つけるよ。私がしたいから、そうするんだよ。いいよね?」

 基哉に話したことは嘘じゃない。犯人に心あたりがある。だけれど、証拠がない。なんとかして見つけなきゃいけない。

 綺麗事だろうがなんだろうが、光莉が理乃にできることはもうそれしかない。彼女は返事をすることすらできないのだから。

 だけど、理乃はきっと笑ってくれる。それは、あざ笑うというたぐいのものかもしれないけれど、かまわない。

 人生は自分のためにある。彼女の生き方は間違っていると、誰かが終わらせていい人生ではなかったはずだ。それが醜くて歪んでいようとも。

 彼女は誰よりもまっすぐに自分の人生を生きようとした人だから、光莉が誰かの人生を傷つけようとも、それでいいよって、きっと言ってくれる。

 それでもまだ、光莉には傷つけたくない人がいる。往生際が悪いと、理乃に笑われてもいい。傷つけたくないという気持ちも光莉の人生だから。そして、この気持ちが自分と理乃の決定的な違いなのだと信じている。

 ほかに見て回るような場所もなく、光莉は広場を一周すると、階段を下った。じきに、日が落ちる。拓海が帰宅するまでに、やらなきゃいけないことはまだある。
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