記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

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10年後の約束

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 アパートに帰るとすぐ、リビング横の部屋へと入った。

 以前と様子はまったく変わっていない。メイキングされていないベッドと、クローゼットの前から動かした形跡のない、カメラを保管する収納ケース。

 収納ケースの中が空であるのを確認した光莉は思案する。どうにも、見つからないカメラが気になっている。

 カメラ好きの拓海が、カメラをなくすはずがない。だとしたら、誰かに盗まれた可能性はないだろうか。それも、最近に。

 ドックス社製のXNV2000は最新の高性能カメラで、高級品だ。もし、盗難被害にあったのなら、拓海は必ず警察に届け出るだろう。しかし、前山は盗難届は出されていないと言った。だとしたら、カメラがなくなったのは記憶をなくす直前で、拓海はまだ、カメラを盗まれたことにすら、気づいていない可能性がある。

 拓海が川に転落したのは、9月12日の夜。あの日、彼はカメラを持って出かけた。シオンで泥酔するほどに酒を飲み、帰宅途中、何者かに襲われてカメラを奪われた。そのとき、もみ合いになって川へ落ちたのではないだろうか。

 盗まれたのは、高性能カメラだったからだろうか。しかし、光莉はそれは違うように感じている。

 拓海はそのカメラで、何者かにとって都合の悪いもの……言ってしまえば、理乃の事件に関する何かを撮影したのではないだろうか。だから、何者かはカメラを奪い、拓海を殺すつもりで川に突き落とした。

 しかし、拓海は通報のおかげで助かった。何者かは彼が生きていることに驚いただろう。だから、何食わぬ顔で病院へ見舞いに現れた。そして、記憶喪失になっていると知り、今度は理乃殺害の犯人に仕立て上げようと、あの腕時計を彼のバッグに入れた。

 それができる何者かは、腕時計をプレゼントされた、赤村ではない理乃の恋人だけだ。

 しかし、ここでまた、光莉は悩む。

 拓海の転落を目撃し、通報者した女性は、理乃の名を語って12日の朝に丸山商事へ電話をしている。

 光莉へ理乃から『助けて』とメールが届いたのは、11日。とすると、理乃は11日に殺害された可能性が高い。

 そして翌日、女性は理乃の行方不明を隠すために会社へ電話をした。つまり、彼女は理乃の恋人の協力者と考えていい。

 そんな女性が、拓海を助けるために通報したのなら、彼らに都合の悪いものを撮影したわけじゃないということになる。

 じゃあ、拓海は何を撮影したのか。理乃の事件に関わる何かではないのか。

 わからない。そもそも、この仮定が間違っているのか。

 拓海の転落はただの事故で、カメラがなくなったのも、たまたま。彼は事件に関することは何も知らない。だったらなぜ、拓海は腕時計をバッグに入れられ、事件に巻き込まれたのだろう。そう考えると、結局、行き詰まってしまう。

「拓海が何を撮影したのかわかれば……」

 光莉はつぶやいて、部屋を出る。

 写真部にいた頃、拓海はカメラの構造を語ってばかりいたが、撮影が苦手だったわけではない。今だって、時々撮影に出かけている。購入するほど気に入ったカメラで、何も撮影しなかったとは考えにくい。
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