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10年後の約束
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「帰ってきたら、外食でもしようか」
ネクタイを絞めながら、拓海が明るい笑顔でそう言う。
職場復帰して1週間。記憶を失う前のように仕事ができるだろうかと心配していたのは杞憂で、拓海の復帰に前向きな同僚の支えもあり、通常の業務は難なく行えているらしい。
ただ、得意先の顧客の顔と名前まで忘れてしまっているから、担当が変更になりそうだと、悩みを打ち明けてくれることはあった。とはいえ、拓海は前向きだ。持ち前の明るさと誠実さで、周囲の理解を確実に得られている様子に、光莉はほっとしていた。
「外食なんて、久しぶりだね。ここのところ、ずっと自炊だったしね」
「最近、シオンにも行けてないよなぁ。近いうちに顔出すか」
「そうだね」
あれから、光莉もシオンへは行っていない。行ったことも、拓海には話していなかった。
「じゃあ、行ってくる。残業はしないから、光莉はここで待ってて」
「うん」
玄関先で、仕事へ出かける拓海を見送ったあと、光莉もクライアントと会うために身支度を整えるとアパートを出た。
電車を乗り継いで、東京駅へやってきた光莉が約束のカフェを訪れると、クライアントはすでに先に来て待っていた。
「透子さん、お待たせしちゃって、すみません。だいぶ、待ちました?」
光莉は席につくなり、頭を下げる。
ショートボブがよく似合う透子は、光莉より8歳年上の雑誌編集長だ。以前、父の紹介で旅行雑誌の写真を担当させてもらい、それがご縁で時々、仕事をもらっている。
「私もさっき、来たところ。私の方こそ、ごめんね。長期休暇中に仕事のお誘いしちゃって」
「長期休暇? 誰に聞いたんですか?」
いつの間にか、そんな話になっていたようだ。
「本田さんよ」
「父ですか?」
「そう。先週、偶然会って。光莉ちゃんも日本に来てるっていうから、ぜひ、仕事をお願いしたいって言ったら、休暇中だからって」
「そうだったんですか」
父が気を利かせてそう言ってくれたようだ。納得する光莉を見て、透子が身を乗り出す。
「いつまで休み? ロスに帰る前に仕事してもらえないかなぁって期待してるんだけど」
「全然、大丈夫です。むしろ、やらせてください」
「やった! 特集記事に光莉ちゃんの写真使うと評判いいのよ。詳しくは編集から連絡させるわね」
「わかりました。明日からでも大丈夫ですから、お願いします」
「本当? よかった、連絡して。コーヒー、おごらせて」
そう言うと、透子は早速、コーヒーを2つ注文する。
「あ、ねぇ、光莉ちゃん。東京湾のニュース、知ってる?」
唐突に、透子がそう切り出す。
「東京湾って、大きなニュースになってる?」
「そうっ、キャリーバッグのニュース」
「そのニュースがどうかしたんですか?」
光莉は冷静に尋ねる。
透子は出版社の人間だ。何をどこまで知っているのかわからない。しかし、彼女のことは信頼している。ただの世間話程度なら答えられることもあるだろうか。
そう思案していると、透子は意外なことを言う。
「あの事件の被害者に私、会ったことあるのよね」
「え? 本当ですか?」
「帰ってきたら、外食でもしようか」
ネクタイを絞めながら、拓海が明るい笑顔でそう言う。
職場復帰して1週間。記憶を失う前のように仕事ができるだろうかと心配していたのは杞憂で、拓海の復帰に前向きな同僚の支えもあり、通常の業務は難なく行えているらしい。
ただ、得意先の顧客の顔と名前まで忘れてしまっているから、担当が変更になりそうだと、悩みを打ち明けてくれることはあった。とはいえ、拓海は前向きだ。持ち前の明るさと誠実さで、周囲の理解を確実に得られている様子に、光莉はほっとしていた。
「外食なんて、久しぶりだね。ここのところ、ずっと自炊だったしね」
「最近、シオンにも行けてないよなぁ。近いうちに顔出すか」
「そうだね」
あれから、光莉もシオンへは行っていない。行ったことも、拓海には話していなかった。
「じゃあ、行ってくる。残業はしないから、光莉はここで待ってて」
「うん」
玄関先で、仕事へ出かける拓海を見送ったあと、光莉もクライアントと会うために身支度を整えるとアパートを出た。
電車を乗り継いで、東京駅へやってきた光莉が約束のカフェを訪れると、クライアントはすでに先に来て待っていた。
「透子さん、お待たせしちゃって、すみません。だいぶ、待ちました?」
光莉は席につくなり、頭を下げる。
ショートボブがよく似合う透子は、光莉より8歳年上の雑誌編集長だ。以前、父の紹介で旅行雑誌の写真を担当させてもらい、それがご縁で時々、仕事をもらっている。
「私もさっき、来たところ。私の方こそ、ごめんね。長期休暇中に仕事のお誘いしちゃって」
「長期休暇? 誰に聞いたんですか?」
いつの間にか、そんな話になっていたようだ。
「本田さんよ」
「父ですか?」
「そう。先週、偶然会って。光莉ちゃんも日本に来てるっていうから、ぜひ、仕事をお願いしたいって言ったら、休暇中だからって」
「そうだったんですか」
父が気を利かせてそう言ってくれたようだ。納得する光莉を見て、透子が身を乗り出す。
「いつまで休み? ロスに帰る前に仕事してもらえないかなぁって期待してるんだけど」
「全然、大丈夫です。むしろ、やらせてください」
「やった! 特集記事に光莉ちゃんの写真使うと評判いいのよ。詳しくは編集から連絡させるわね」
「わかりました。明日からでも大丈夫ですから、お願いします」
「本当? よかった、連絡して。コーヒー、おごらせて」
そう言うと、透子は早速、コーヒーを2つ注文する。
「あ、ねぇ、光莉ちゃん。東京湾のニュース、知ってる?」
唐突に、透子がそう切り出す。
「東京湾って、大きなニュースになってる?」
「そうっ、キャリーバッグのニュース」
「そのニュースがどうかしたんですか?」
光莉は冷静に尋ねる。
透子は出版社の人間だ。何をどこまで知っているのかわからない。しかし、彼女のことは信頼している。ただの世間話程度なら答えられることもあるだろうか。
そう思案していると、透子は意外なことを言う。
「あの事件の被害者に私、会ったことあるのよね」
「え? 本当ですか?」
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