記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

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10年後の約束

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「どうしてそんなことわかるんですか?」
「理乃から私に、『助けて』というメールが届いたのが、11日の夜なんです。翌日の12日は、理乃の勤める会社へ、理乃ではない女性から電話がかかってきています。だから、そのときにはもう理乃は殺されていたんだと思います」
「電話が理乃さんじゃないって言うなら、誰なんですか?」
「私は千華さんだと思ってます。理乃の事件に基哉さんは間違いなく関わってる。だったら、協力するのはあなたしかいない」

 千華は無言だった。静かにこちらを見つめている。

「拓海が川に落ちたとき、公衆電話から救急車を呼んでくれた女性がいます。そのときの音声と、理乃を装って会社へ電話をかけた人物の音声が、同じ女性のものと判明しています。つまり、拓海を助けた女性も千華さんです。拓海を川へ突き落としたのは千華さん、あなたですか? 怖くなって通報したんですか?」
「それは、ちが……」

 違う、と言いかけて、彼女は口をつぐむ。

「本当は、基哉さんが突き落とすのを目撃して、通報したんですよね? だから、あなたは名乗れず、公衆電話から通報した」
「兄が突き落としたって、証拠はあるんですか?」
「証拠はないです。でも、目撃者は千華さんです。千華さんがすべての真実を知っています。必ず、真実を話さなきゃいけないときは来ます」

 光莉は振り返り、ベンチから見える夜景に視線を移す。

 小さな街の一角の、華々しくはない夜景。だけれど、小さな幸せを眺めているような気分になれる。

 理乃はこの夜景を見ながら、何を思っていただろう。そして、拓海はどんな夜景を撮ろうとしていただろう。

「拓海のカメラ、どこにやったんですか?」

 振り返ると、千華はわずかに肩を震わせた。カメラの存在には気づいてないと思ってたんだろう。

「拓海を川に突き落としたとき、奪ったんですよね?」
「何も知りません」
「ここに、拓海の撮影した写真があります。これを見ても、知らないって言えますか?」

 光莉は一枚の写真を千華の前に差し出す。

「11日の夜、つかさ公園で撮影されたものです。ベンチにいるのは、理乃です。見てほしいのは、理乃の奥にある桜の木の陰にいる人物です。手に、ナイフを持っているのが見えますよね?」

 千華はじっと写真を見つめる。逃れられない証拠を前に、ただ息をつめているようだった。

「あのカメラにはすべての証拠がありました。だからあなたたちは、何がなんでもカメラを奪わないといけなかった」
「月島さんが悪いんです」

 ぽつりと、目を伏せる千華はつぶやく。

「悪い?」
「あなたみたいに、探ろうとしたから」

 千華が顔をあげた瞬間、同時に伸びてきた腕に押され、光莉の身体は突き飛ばされていた。

 思わず手放した写真が地面に落ちる。それへ手を伸ばそうとすると、目の前で何かがキラリと光る。それがナイフだと気づいたときには、切先はまっすぐに光莉へ向かって突き出されていた。

 ナイフを握る千華を、にらむようにして見上げる。

「こうやって、理乃も殺したんですか?」
「それは違うっ。理乃は俺がやったんだ」
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