記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

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10年後の約束

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 千華の背後に駆け寄る男が、彼女からナイフを取り上げる。基哉だ。崩れ落ちそうになる彼女の身体を支える彼の腕は、優しくも力強い。

 ふたりが付き合っていないなんて信じられない。いや、もし本当に恋人関係にないなら、それ以上の深い絆で結ばれた兄妹なんじゃないだろうか。理乃が嫉妬するほどに。

「どうして、拓海を犯人に仕立てようとしたんですか? 記憶喪失になった拓海に親切にしていたのは、監視するためでしたか?」

 光莉は責めるように尋ねる。

「……ああ、そうだよ。腕時計をバッグにいれたのは、拓海くんに罪をなすりつけるため。記憶喪失なら、真実は生涯明るみにならないと思ったんだ」

 基哉は苦しげに眉をひそめるが、彼のしたことは拓海への裏切り行為でしかない。どんな弁明もできない。

 この真実を拓海が知ったら、傷つく。記憶をなくし、心細い思いをしながら、彼らを慕っていたのに。

「それ……、本当ですか?」

 基哉たちの後ろから声がする。

「拓海? どうして」

 光莉が地面に手をついて立ちあがろうとすると、「大丈夫かっ?」と、こちらに駆け寄ってくる拓海が、抱き起こしてくれる。

「若村さんから連絡もらって、急いでアパートに帰ったんだ。光莉がいないから、シオンへ行こうとしたら、途中で前山さんに会って、もしかしたら、つかさ公園にいるかもしれないって」

 拓海は早口でそう言うと、つかさ公園の入り口へ視線を移す。厳しい表情の前山がこちらを見守っている。

「警察はもう、つかさ公園を取り囲んでいます。基哉さん、ナイフを離してください。俺たちを殺したって、犯した罪は消せないです」
「殺す気はないよ、もう。あの日、俺は拓海くんを一度殺したんだ。二度目はないよ」
「それじゃあ、本当に基哉さんなんですね? 俺を川に突き落としたのは」

 落胆を隠せない様子で拓海は尋ねる。

「拓海くんを殺そうとしたのは事実だよ。……あの日ね、理乃を殺したのか? って、拓海くんが言いに来るから」

 千華と同じく、まるで、拓海が悪い、そう責めるような口調だ。その言葉で、拓海はあきらめに似たため息をつくと、落ち着いた声音で問う。

「俺は松村が殺されるのを目撃してましたか?」
「いや。シオンを訪ねてきた拓海くんは、こう言ってたよ。高校の同級生に久しぶりにつかさ公園で会ったって。まさか、理乃と拓海くんが知り合いだなんて知らなかったな」
「俺と松村はたまたま会った?」
「そうみたいだね。夜景を撮りに行ったら理乃がいて、こんな偶然は二度とないだろうって浮かれた彼女から、ある人への伝言を頼まれたと言ってたよ」
「ある人って?」
「さあ、それは聞いてない。理乃は伝言を頼むだけ頼んで、拓海くんに自分の連絡先を教えなかったらしいよ。そういう不親切なところは理乃らしいよね。いや、伝言するかどうかは拓海くんの親切心に任せて、その伝言が相手に伝わったかどうかの確認なんていらなかったのかもしれないな」

 基哉はさみしげにくすりと笑う。
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