記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

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10年後の約束

19

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「理乃の連絡先を聞き忘れた拓海くんは公園に戻る途中、キャリーバッグを引く俺たちを見かけたと言ってた。旅行にでも行くのかなと思ったらしいけどね、夜遅いし、変だと思ったんだろう。公園に戻った拓海くんは、ベンチの血痕に気づいて、木の陰に隠れていたらしい。そんなことを知らない俺は、公園に戻ってベンチの血を片付けたんだ」
「それで、松村は殺されたかもしれないって、俺は疑った?」
「それだけじゃないよ。犯人が映る写真を偶然撮影していたんだ。自首しないなら、証拠を持って警察に行くって言うから、カメラを奪うしかないと思った」
「だから、俺をわざと酔わせましたか?」
「自首するよって言ったら、拓海くんは簡単に気を許すから。人がいいよね。これならカメラを奪うのはたやすいと思ったよ」
「俺は基哉さんを信じていたんだと思う」
「そうだね。まさか、俺が拓海くんを殺そうとするなんて思ってなかったんだろう。自首する前に一緒に酒を飲んでほしいと頼んで泥酔させて、川に突き落とすのは簡単だった。殺し切れなかったら、それも運命だって受け入れようと覚悟してたけどね、まさか、記憶喪失になるなんて思ってなかったよ」

 皮肉だね、と基哉は笑うと千華から離れ、前山へと向かう。

「刑事さん、松村理乃を殺したのは俺です。ここで殺して、東京湾に運びました。理乃が生きてると見せかけるために丸山商事へ電話をかけるよう千華に頼んだのは、俺です。全部、俺が計画してやりました」

 手に持つナイフを地面に投げ出す。前山は素早く駆け寄り、ナイフを拾い上げる。

「あとは警察署で聞きます」
「はい。すべてお話します」

 前山に向かって歩いていく基哉を千華が追いかける。

「待ってっ。違うんです。理乃さんを殺したのは私です」
「千華っ」

 叱咤するように基哉が名を呼ぶが、彼女は黙っていなかった。

「あの日……、理乃さんは兄をここに呼び出しました。別れたのに、まだ兄にしつこくしてるんだって思って、許せなくて、殺すつもりで会いに行きました」
「千華、やめるんだ」

 やめないとばかりに、彼女は首を振る。

「公園に着くと、理乃さんはひとりでベンチに座っていました。背後に近づこうとしたとき、月島さんが来たんです。あわてて木の陰に隠れたつもりだったのに、その姿を写真に撮られてしまいました」

 千華はうらめしそうに拓海を見つめる。

「理乃さんは月島さんと親しげに話をしていました」
「基哉さんの言う、頼まれごとをしてたのかな」
「そうだと思います。理乃さんが月島さんのスマホを借りて何かしていました。でも、月島さんはそのあと、すぐに帰ったんです。だから……」
「松村を殺す決意は変わらなかった?」
「今日殺さなければ、もうチャンスがないかもしれない。そんなふうに思い詰めていました」
「俺は引き返すチャンスにはならなかった?」

 痛ましそうに拓海に見つめられ、彼女は小さな息をつく。
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