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10年後の約束
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「どうしても、理乃さんが許せなかったんです。ベンチに座る理乃さんの後ろに近づいて、ナイフで刺しました。スマホを触っていた彼女は全然私に気づいてなかったけど、あのとき、本田さんに連絡しようとしていたんですね。助けて……なんて、私が刺す前から殺されることがわかってたみたい」
「え……」
光莉は驚く。
刺される前から、理乃は助けを求めようとしていた?
「冷静になれたのは、兄が来てからです。警察に行くって言ったけど、兄は自分のやったことにするからって。私たちはキャリーバッグに理乃さんを入れて、東京湾へと運びました。兄は私をかばっただけで、何も悪くありません」
「千華……、違う。全部、俺のせいだ。千華を追い詰めたのは、俺だよ」
千華に近づく基哉が、地面に落ちる写真を蹴った。それに気づいて、彼は写真を拾いあげる。
「どうして、これが……。カメラは処分したのに」
「拓海がパソコンに保存していました」
「光莉……、パスワードがわかったのか?」
驚く拓海に光莉はうなずく。
「あの写真には、ナイフを持つ千華さんが映ってる。あれを見た拓海は、理乃を刺したのが千華さんだって気づいたんじゃないかな。だから、基哉さんを説得しにシオンへ行ったんだと思う」
「拓海くんはカメラの中にしかデータはないって言ってたけどね。大嘘だったんだな。信じた俺もうかつだったよ」
「拓海も信じていたんだと思います。千華さんに自首をすすめてくれるって」
うなだれる基哉と、彼に寄り添う千華に、光莉は尋ねる。
「理乃は殺されなきゃいけないほど、あなたたちを苦しめましたか?」
「……理乃さんはいい人でした」
千華は消え入りそうな声でそう言う。
「いい人……?」
「はい。最初は、いい人でした。お兄さんと結婚してもかまわないと思うぐらい。でも、見てしまったんです。お兄さん以外の男の人が理乃さんのアパートに入っていくところ……」
赤村だろう。基哉と付き合い始めてからも、理乃は赤村と時折、会っていたはずだ。
「理乃さんがシオンへ来た帰り、どういうことかと問い詰めました。お兄さんを苦しめる人とは付き合ってほしくなかったんです」
「理乃はなんて?」
「あの人とはもう別れるんだって言ってました。そんなの信用できないって言ったら、言い返してきたんです。お兄さんだって浮気してるじゃないって」
千華は悔しそうにこぶしを握る。
「図星でしょ、って。私、知ってるんだからって。妹だから結婚できないのは残念ねって」
挑戦的に鼻で笑う理乃が思い浮かぶ。ちょっとしたひとことで、誰かを傷つけるのは簡単だ。理乃は一番言ってはいけないことを言ったのだ。彼女を慕っていた千華はショックを受けると同時に、憎しみを増幅させたのだろう。
「兄をそんなふうに言うなんて許せなくて、階段でもみ合ううちに私が落ちてしまったんです。突き落とされたわけじゃありません。私が勝手に足を滑らせて……」
「そうだとしても、基哉さんに相談しなかったんですか?」
相談していたら、千華は理乃を殺さずにすんだかもしれないのに。
「理乃さんに別の恋人がいるなんて、兄に知られたくなかったんです」
「千華が気に病む必要はなかったんだ。理乃が不倫してたのは知ってたし、それを承知で俺は付き合ってた。……千華をこれ以上愛したらいけない。そう思うあまり、全部わかってて付き合ってくれる理乃は救いだった。それなのに、理乃は千華を苦しめた。だから、別れたんだ。別れたんだから、千華はもう憎む必要なんてなかったんだよ」
「お兄さん……」
基哉は千華の肩を抱き、「ごめん……」とつぶやく。
ふたりは惹かれ合っていたのだ。兄妹の垣根を越えた時間がふたりの間にはあったかもしれない。しかし、ふたりが出した結論は、兄妹の関係を保つことだった。そんな複雑で繊細な気持ちを、理乃は簡単に踏みにじった。だからって、理乃が殺されて当然だとは思わない。
「拓海を助けてくれたのは、どうして?」
その優しさをほんの少しでいいから、理乃に向けてほしかった。
「兄を殺人犯にしたくなかったんです。兄を助けるためなら捕まってもかまわない。そう思ってたけど……」
「拓海が記憶を失っていたから、自首するチャンスを逃してしまったんですね」
「記憶喪失になってると知って、兄が腕時計を月島さんのバッグに入れたのは、自分に疑いの目が向くようにです。全部、私のためにしたことです。私が自首しなかったばっかりに……」
千華は両手で顔を覆う。すすり泣きが悲しく、夜の闇に響いた。
「え……」
光莉は驚く。
刺される前から、理乃は助けを求めようとしていた?
「冷静になれたのは、兄が来てからです。警察に行くって言ったけど、兄は自分のやったことにするからって。私たちはキャリーバッグに理乃さんを入れて、東京湾へと運びました。兄は私をかばっただけで、何も悪くありません」
「千華……、違う。全部、俺のせいだ。千華を追い詰めたのは、俺だよ」
千華に近づく基哉が、地面に落ちる写真を蹴った。それに気づいて、彼は写真を拾いあげる。
「どうして、これが……。カメラは処分したのに」
「拓海がパソコンに保存していました」
「光莉……、パスワードがわかったのか?」
驚く拓海に光莉はうなずく。
「あの写真には、ナイフを持つ千華さんが映ってる。あれを見た拓海は、理乃を刺したのが千華さんだって気づいたんじゃないかな。だから、基哉さんを説得しにシオンへ行ったんだと思う」
「拓海くんはカメラの中にしかデータはないって言ってたけどね。大嘘だったんだな。信じた俺もうかつだったよ」
「拓海も信じていたんだと思います。千華さんに自首をすすめてくれるって」
うなだれる基哉と、彼に寄り添う千華に、光莉は尋ねる。
「理乃は殺されなきゃいけないほど、あなたたちを苦しめましたか?」
「……理乃さんはいい人でした」
千華は消え入りそうな声でそう言う。
「いい人……?」
「はい。最初は、いい人でした。お兄さんと結婚してもかまわないと思うぐらい。でも、見てしまったんです。お兄さん以外の男の人が理乃さんのアパートに入っていくところ……」
赤村だろう。基哉と付き合い始めてからも、理乃は赤村と時折、会っていたはずだ。
「理乃さんがシオンへ来た帰り、どういうことかと問い詰めました。お兄さんを苦しめる人とは付き合ってほしくなかったんです」
「理乃はなんて?」
「あの人とはもう別れるんだって言ってました。そんなの信用できないって言ったら、言い返してきたんです。お兄さんだって浮気してるじゃないって」
千華は悔しそうにこぶしを握る。
「図星でしょ、って。私、知ってるんだからって。妹だから結婚できないのは残念ねって」
挑戦的に鼻で笑う理乃が思い浮かぶ。ちょっとしたひとことで、誰かを傷つけるのは簡単だ。理乃は一番言ってはいけないことを言ったのだ。彼女を慕っていた千華はショックを受けると同時に、憎しみを増幅させたのだろう。
「兄をそんなふうに言うなんて許せなくて、階段でもみ合ううちに私が落ちてしまったんです。突き落とされたわけじゃありません。私が勝手に足を滑らせて……」
「そうだとしても、基哉さんに相談しなかったんですか?」
相談していたら、千華は理乃を殺さずにすんだかもしれないのに。
「理乃さんに別の恋人がいるなんて、兄に知られたくなかったんです」
「千華が気に病む必要はなかったんだ。理乃が不倫してたのは知ってたし、それを承知で俺は付き合ってた。……千華をこれ以上愛したらいけない。そう思うあまり、全部わかってて付き合ってくれる理乃は救いだった。それなのに、理乃は千華を苦しめた。だから、別れたんだ。別れたんだから、千華はもう憎む必要なんてなかったんだよ」
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