記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ

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10年後の約束

21

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***


 基哉と千華は逮捕された。初めは黙秘していた基哉も、今は事情聴取に素直に応じていると、前山はわざわざ拓海のアパートにやってきて教えてくれた。

 千華を守るために黙秘を貫くのではと気になっていた光莉は、ひとまず安堵した。これで、安心して母の待つロサンゼルスへ帰れる。

「ただいま」

 前山と入れちがうようにして帰宅した拓海は、疲れた顔に笑顔を浮かべる。このところ、連日の残業でずいぶんとまいっているようだった。

 以前も、こんな生活をしていたのだろう。仕事に打ち込む毎日は充実していたかもしれないが、心のよりどころはあったのだろうか。あったとするなら、シオンで飲む酒だったかもしれない。

 その居場所も失ったいま、彼の支えは光莉だけだろうか。明日の便でロサンゼルスへ帰宅すると言ったら、彼はどんな顔をするだろう。

 すぐにはアメリカに帰るなんて言い出せなくて、「おかえり」と光莉は笑顔で答えた。

「若村さんから連絡あったよ」

 リビングに入るなり、彼はそう言う。

「なんて?」
「基哉さんが契約する貸し倉庫から俺のカメラが見つかったって。処分に困って捨てずに置いてあったんだろうってさ」
「じゃあ、データは?」
「それは消されてるらしい。復元できるだろうけどね」
「そっか。……本当に基哉さんなんだね。いい人だったから、ショックだよね」

 拓海は無言でうなずくと、優しいまなざしをして、光莉の頭にそっと手を乗せる。大丈夫だって言ったみたいに。

「まだパソコン、見てなかったよな。カメラも見つかったし、証拠の写真は消そうと思うよ」
「消すの?」
「その方がいいだろ?」
「でも、理乃の最期の写真だから」

 父は理乃の姿を見たいんじゃないだろうか。そんなふうに思えて、そう言う。

「松村が映るところだけ切り取ろうか」
「うん、そうする」
「早速、やるか」

 拓海は腕まくりすると、テレビラックの中からノートパソコンを引っ張り出す。

「パスワード、なんだった? それにしても、よくわかったよな」

 パソコンを立ち上げて、感心する拓海の横に座り、光莉は気まずくなりながら言う。

「拓海が絶対忘れないものを教えてくれたからだよ」
「そんな話したっけ?」

 酔っていたから覚えてないみたい。

「で、なんだった?」
「hikari0803」

 ぶっきらぼうに答える。

「ひかり?」
「私の誕生日、8月3日なの」
「なんだそれ」

 あきれ顔でパスワードを打ち込む拓海は、あっさりロックが外れると照れくさそうに笑う。

「俺、めちゃくちゃ好きだよな、光莉のこと」
「好きでいてくれるのはうれしいけど、再会できてなかったら、全然笑えないよ」
「松村のことがなくても、絶対、光莉に会えてたと思う」

 やけに自信満々に言うのだ。きっと根拠のない自信だろうけれど。

 嬉々としてパソコンを眺める拓海の横顔をあきれながら見つめていると、彼が急に真顔になる。

「なあ、光莉、松村からの伝言って、これじゃないか?」
「え?」
「覚えてないか? 基哉さんが言ってただろ。あの日、松村は俺にある人への伝言を頼んだって」
「千華さんも、理乃が拓海のスマホを借りて何かしてたって言ってたね」
「俺のスマホにはそれらしい伝言なんて残ってなかったんだけどさ……これ、見てみろよ」

 ノートパソコンの画面をこちらの方へ向けてくる。開いてあるファイルはWordで作成した文章で、文頭には日付が入っている。

「9月11日の日記?」
「ああ。松村と会ったときの様子が書かれてる。松村は俺に、光莉への伝言を頼んだんだな」
「私への伝言?」

 光莉は驚くと、神妙にうなずく拓海からファイルへと視線を移した。
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