俺は君の秘密を知ってる

つづき綴

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 カメラのシャッターを切るように、まばたきをした瞬間、目に焼きつくものがある。

 それは、言い知れない不安と不幸な出来事が起きるのではないかという不快感を起こさせる、情景。

 その情景を目にするたび、生まれもった予知能力を憂えてしまう私は、いつも目立たないようにしなきゃと戒めて生活している。

 ほんとうは、恋を楽しみたいと思ってる高校二年生なんだけど。




 冬服から夏服へと切り替わる衣がえの季節。高校へと向かう坂道に差し掛かったところで、嫌な予感がした私は足を止めた。

 延々と続くのではないかと感じるほどに長い登り坂の途中で、パトカーと、不自然に歩道へ乗り出した乗用車が見える。どうやら事故があったようだ。

 パトカーを遠巻きに眺めている数人の女子高生がいる。その中のひとりが私に気づくと、長い髪を揺らして坂道を駆け下りてくる。私の唯一の親友である、麻里まりだった。

加奈子かなこっ、事故事故っ!」

 私の名を呼ぶ麻里が、ちょっとちょっとと大げさに手を振る。

「先生だってっ! 3年の担任の井坂いさか先生っ」
「まさか」

 そう言いながら、きっとそうかなと思ってた。

 そう思ったことはひた隠しにして、驚く素振りを見せる。

 私にある予知能力のことは、親友と言えども話していない。

「ほんとだって! 救急車に運ばれるの、私見たもん!」
「見たの?」
「うん、見た! 先生、意識はあるって。右腕が折れてるらしいって聞いたけど、たぶん大丈夫って」

 ほっと安堵で胸をなで下ろすが、心は痛む。

 私は井坂先生が事故に遭うかもしれないことを知っていた。昨日、職員室を訪れたとき、井坂先生の右腕が半透明になっているのを見たから。あの情景は今でも目に焼き付いてる。

 私の持つ予知能力は限定的だ。身体の一部、もしくは全身が透けてみえるとき、その人物は近いうちに事故に遭い、大けがをする。透けてみえる部分がけがを負う箇所。

 井坂先生が右腕にけがをするだろうことは気づけても、私にはどうすることもできなかった。いつどこでけがをするかまでは予知できないのだから。

 役に立たない能力なんてなければいいのにと、予知が当たるたびに思う。

 この秘密が発覚してしまったら、気味が悪いと嫌われてしまうだけだろう。

 だから、大切なひとには絶対知られたくないって思ってる。
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