俺は君の秘密を知ってる

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 学校へ到着すると、クラス内は井坂先生の件で持ちきりだった。しかし、すでにこの一件の一部始終を知っている麻里は、騒ぐ生徒たちを横目に、別の話を始める。

「ねぇ、加奈子。最近流行ってる、恋のおまじない、知ってる?」
「おまじない?」

 女子たちはこの手の話が好きだ。
 私だって嫌いじゃないけど、どうせ叶わない恋だから興味ないって思ってる。

 予知能力なんかなくたって、わかる。
 学校一イケメンの先輩が私に振り向いてくれるはずはないってこと。

「消しゴムのおまじないだって」
「消しゴム? 好きなひとの名前書いて、祈りながら消すとか?」

 あてずっぽうを言うと、「それ、ありそう!」って麻里はケラケラ笑う。予想はどうやら違うようだ。

「消しゴムで消すんじゃなくて、必要なのは消しゴムのカバーの方」
「カバー?」

 まったくどんなおまじないだか想像つかなくて、怪訝に眉をひそめてしまう。

「カバーの内側に好きなひとの名前書いて、それを好きなひとに触ってもらうと恋が叶うって」
「えー」

 そんな単純なことで両思いになれるおまじないなんてないと思っちゃうけど、すっかり信じてる麻里はそのおまじないの効果を語り出す。

 それは、隣のクラスのアヤカちゃんが、ずっと片思いしてたリョウヘイくんに、まじないをかけた消しゴムを貸したら、すぐに付き合うようになったって話。

 最初から両思いだったんでしょ、って思う私はひねくれてるかもしれない。

「あー、その顔、全然信じてないね?」

 麻里はおかしそうにクスクス笑う。

「だってー」

 いつのまにか、麻里が私の消しゴムを手に取り、カバーを外して中をのぞいてる。もちろんそんなおまじない、してない。中は真っ白のまま。

綾人あやと先輩の名前、書いちゃう?」
「やだっ、それはナシ」

 綾人先輩は三年生で、陸上部のエース。
 ずっとあこがれてる先輩だけど、付き合うどころか、片思いでいることすら図々しいなんて言われかねないぐらいモテモテの先輩なのだ。

「加奈子はかわいいんだから、自信持てばいいのにー」
「かわいくなんかないよー」

 特に予知能力なんて、ほんとかわいくない。先輩にだけは絶対知られたくない。変な子だって思われたくもないのだ。

 麻里が「そんなことないって」って、にやにや笑ったとき、始業を知らせるチャイムが鳴る。

 井坂先生の話題で盛り上がっていたクラスメイトもばらばらと席に着き始める中、前の席の麻里も教卓の方を向く。

 そして、先生が教室へ入ってくると振り返り、「いけないっ、まだ持ってたわ」と、消しゴムを私のペンケースへ戻した。
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