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佐鳥姫の憂鬱 〜朝日を羨む夜の月〜
あなたの声が聞こえない 4
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「ねぇ、華南。華南って御簾路駅から来るんでしょ? 神計大学って御簾路駅の真反対にあるけど、家から通うの?」
石灰深春は駅の改札前で足を止めて、私にそう尋ねる。
彼女は徒歩で高校まで通っているらしい。私とおしゃべりしたくてついてきたようだ。さすがにホームの中まではついてこれないから、今度は私が彼女の立ち話に付き合うことになる。
神計大学は四月から私たちが通う大学名だ。神の計らい、なんて面白いネーミングの大学だと思って選んだ。
生まれながらにある私の能力も天の意思で、大学名に惹かれたこともまた運命かもしれない。
運命に逆らうことなく粛々と生きる。今までそうしてきたように、これから先もずっとそうありたいと思っている。
「一人暮らしをしようと思っているの」
私は真摯に彼女の質問に答える。
「華南がひとり暮らしっ?」
尋ねておきながら、深春はひどくあからさまに驚く。
「六年も通うのだから普通の流れね」
「華南ってお嬢様だから、ひとり暮らしなんて絶対許してもらえないと思ってた」
「誰がお嬢様だって言ったの?」
「違うの?」
「違わないわ」
深春の目が文字通り点になる。そして、スローモーションを見ているかのように、ゆっくりと口元を開いて大笑いする。
そんな彼女を私は静かに見つめる。面白くもないことで笑える彼女は、きっと純情で良い人だ。
「あーっははっ、華南って天然だねっ。そういうところもお嬢様って感じ。じゃあじゃあ、御簾路のお嬢様っていうのも本当なんだ?」
「よく知ってるのね。御簾路駅のみすじからそう言われてるわね。駅前から屋敷までは一里ほどあるわ。その周囲すべてが先祖代々伝わる土地。地名がそのまま駅名になったとも言えるけど、先祖が御簾路の領主だったのは事実」
「本物のお嬢様だね!」
深春はどこかのアイドルを眺めるかのように目をキラキラとさせて私を見つめる。
「本物なのは、先祖である御簾路の殿だけよ。私は殿が愛した女が産んだ子供の末裔でしかないわ」
「複雑な言い方しなくていいって。先祖がすごい殿様だってことも才能の一つなんだから。ね、ねぇ、華南。華南の赤茶の瞳、綺麗だね。それも殿様ゆずり?」
次から次へと好奇心をむき出しにする深春を、特に不快に感じることもなく受け止める。それは彼女に裏がないからだ。ただ純粋に私を知ろうとするその姿勢には好感すらある。
「深春のキラキラした目も綺麗よ。綺麗っていうのは、色彩だけでは測れないわね」
言葉を失ってきょとんとする深春から目をそらす。遠くから電車が近づいてくる音がする。
「行くわ」
つま先の向きを変えようとした時、深春が「あっ!」と声をあげて私の腕をつかむ。
「華南っ、ひとり暮らしするなら同じアパートに住まない? 私も初めてのひとり暮らしで、ほんとはちょっと不安だったんだよね」
ぺろりと舌を見せる深春が目元に恥じらいを浮かべるから、彼女の清さに胸を打たれる。だから私は目を細め、初めて出来た純粋な友人を、微笑ましく無言で見つめ返した。
石灰深春は駅の改札前で足を止めて、私にそう尋ねる。
彼女は徒歩で高校まで通っているらしい。私とおしゃべりしたくてついてきたようだ。さすがにホームの中まではついてこれないから、今度は私が彼女の立ち話に付き合うことになる。
神計大学は四月から私たちが通う大学名だ。神の計らい、なんて面白いネーミングの大学だと思って選んだ。
生まれながらにある私の能力も天の意思で、大学名に惹かれたこともまた運命かもしれない。
運命に逆らうことなく粛々と生きる。今までそうしてきたように、これから先もずっとそうありたいと思っている。
「一人暮らしをしようと思っているの」
私は真摯に彼女の質問に答える。
「華南がひとり暮らしっ?」
尋ねておきながら、深春はひどくあからさまに驚く。
「六年も通うのだから普通の流れね」
「華南ってお嬢様だから、ひとり暮らしなんて絶対許してもらえないと思ってた」
「誰がお嬢様だって言ったの?」
「違うの?」
「違わないわ」
深春の目が文字通り点になる。そして、スローモーションを見ているかのように、ゆっくりと口元を開いて大笑いする。
そんな彼女を私は静かに見つめる。面白くもないことで笑える彼女は、きっと純情で良い人だ。
「あーっははっ、華南って天然だねっ。そういうところもお嬢様って感じ。じゃあじゃあ、御簾路のお嬢様っていうのも本当なんだ?」
「よく知ってるのね。御簾路駅のみすじからそう言われてるわね。駅前から屋敷までは一里ほどあるわ。その周囲すべてが先祖代々伝わる土地。地名がそのまま駅名になったとも言えるけど、先祖が御簾路の領主だったのは事実」
「本物のお嬢様だね!」
深春はどこかのアイドルを眺めるかのように目をキラキラとさせて私を見つめる。
「本物なのは、先祖である御簾路の殿だけよ。私は殿が愛した女が産んだ子供の末裔でしかないわ」
「複雑な言い方しなくていいって。先祖がすごい殿様だってことも才能の一つなんだから。ね、ねぇ、華南。華南の赤茶の瞳、綺麗だね。それも殿様ゆずり?」
次から次へと好奇心をむき出しにする深春を、特に不快に感じることもなく受け止める。それは彼女に裏がないからだ。ただ純粋に私を知ろうとするその姿勢には好感すらある。
「深春のキラキラした目も綺麗よ。綺麗っていうのは、色彩だけでは測れないわね」
言葉を失ってきょとんとする深春から目をそらす。遠くから電車が近づいてくる音がする。
「行くわ」
つま先の向きを変えようとした時、深春が「あっ!」と声をあげて私の腕をつかむ。
「華南っ、ひとり暮らしするなら同じアパートに住まない? 私も初めてのひとり暮らしで、ほんとはちょっと不安だったんだよね」
ぺろりと舌を見せる深春が目元に恥じらいを浮かべるから、彼女の清さに胸を打たれる。だから私は目を細め、初めて出来た純粋な友人を、微笑ましく無言で見つめ返した。
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