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佐鳥姫の憂鬱 〜朝日を羨む夜の月〜
二番目の恋 1
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***
「華南、夏休みは家に帰るー?」
研究室から夜間瀬先生が出ていくとすぐ、デスクにじっと顔を伏せていた深春が顔を上げて尋ねてきた。
夏休み前のゼミは、今日が最終日だ。結局、薬学自主研究ゼミナールの受講生は増えず、私と深春、柚樹くんの三人のまま夏休みに突入する。
「私はたまに。ほとんどマンションにいるわ」
「そうなの? 私はずっと親のところ。華南がいるならマンションにいようかなぁー。ねー、柚樹は? 柚樹は夏休みどうするの?」
パソコンとにらめっこしている柚樹くんに、深春はそう尋ねる。
「え、なんて?」
聞いていなかったのだろう。彼はきょとんとする。
「私がせっかく大事な話してあげてるのにー。華南は夏休みもずっとこっちにいるんだって。柚樹はどうするのかなって話してたの」
「あ、華南はこっちなんだ。俺も特に用事ないから、一緒に勉強できるといいよな」
「はー? なにそれ。遠回しに図書館デートに誘ってるの? 海ぐらい誘いなよっ」
「海っ? 華南は海とか興味ある?」
柚樹くんはわずかに赤くなりながら、海に興味なんてないだろう?という目をしながら尋ねてくる。だから、私も期待に応える。
「ないわ」
肩をすくめる柚樹くんの隣で、深春は口に手を当てて笑いをこらえている。それほど面白いことを言ったつもりはないのにだ。
「華南は日焼けとか苦手そうだもんな。俺も色白の子の方が好きだし」
ちらりと深春に視線を移して彼はそう言う。
「私の日焼けと柚樹くんの好みのどこに共通点があるの?」
「あー、……まあそれはいいけどさ、今日さ、このままカフェにでも行かないか?」
柚樹くんは気まずそうに話をそらす。
「予定があるの」
「そ、そっか。華南はいつも忙しいよな」
髪をかき乱す彼を見てにやつく深春は、ふと思い出したように言う。
「華南っていっつもマンションにいるよねー? 予定があるって、なんの?」
「無駄話をする暇があるなら帰ってもかまわない」
突然、研究室のドアが開いて、夜間瀬先生が戻ってくる。出ていった時には持っていなかった薄っぺらなファイルを腕に抱えている。
「あっ! む、無駄話なんてっ」
言い訳しようと立ち上がる深春の前を、先生は無表情で素通りしていく。
深春は苛立ちをぶつけるように柚樹くんを軽く小突くと、椅子にすとんと腰を落とす。
「柚樹、あとでパフェおごってよねー」
「なんで俺が。だいたい華南は行かないって言ってんのにさ」
こそこそと話す二人の会話は聞こえているのだろうが、窓際のソファーへ腰掛けた先生は、薄っぺらなファイルを開いて熱心に視線を落としていた。
「華南、夏休みは家に帰るー?」
研究室から夜間瀬先生が出ていくとすぐ、デスクにじっと顔を伏せていた深春が顔を上げて尋ねてきた。
夏休み前のゼミは、今日が最終日だ。結局、薬学自主研究ゼミナールの受講生は増えず、私と深春、柚樹くんの三人のまま夏休みに突入する。
「私はたまに。ほとんどマンションにいるわ」
「そうなの? 私はずっと親のところ。華南がいるならマンションにいようかなぁー。ねー、柚樹は? 柚樹は夏休みどうするの?」
パソコンとにらめっこしている柚樹くんに、深春はそう尋ねる。
「え、なんて?」
聞いていなかったのだろう。彼はきょとんとする。
「私がせっかく大事な話してあげてるのにー。華南は夏休みもずっとこっちにいるんだって。柚樹はどうするのかなって話してたの」
「あ、華南はこっちなんだ。俺も特に用事ないから、一緒に勉強できるといいよな」
「はー? なにそれ。遠回しに図書館デートに誘ってるの? 海ぐらい誘いなよっ」
「海っ? 華南は海とか興味ある?」
柚樹くんはわずかに赤くなりながら、海に興味なんてないだろう?という目をしながら尋ねてくる。だから、私も期待に応える。
「ないわ」
肩をすくめる柚樹くんの隣で、深春は口に手を当てて笑いをこらえている。それほど面白いことを言ったつもりはないのにだ。
「華南は日焼けとか苦手そうだもんな。俺も色白の子の方が好きだし」
ちらりと深春に視線を移して彼はそう言う。
「私の日焼けと柚樹くんの好みのどこに共通点があるの?」
「あー、……まあそれはいいけどさ、今日さ、このままカフェにでも行かないか?」
柚樹くんは気まずそうに話をそらす。
「予定があるの」
「そ、そっか。華南はいつも忙しいよな」
髪をかき乱す彼を見てにやつく深春は、ふと思い出したように言う。
「華南っていっつもマンションにいるよねー? 予定があるって、なんの?」
「無駄話をする暇があるなら帰ってもかまわない」
突然、研究室のドアが開いて、夜間瀬先生が戻ってくる。出ていった時には持っていなかった薄っぺらなファイルを腕に抱えている。
「あっ! む、無駄話なんてっ」
言い訳しようと立ち上がる深春の前を、先生は無表情で素通りしていく。
深春は苛立ちをぶつけるように柚樹くんを軽く小突くと、椅子にすとんと腰を落とす。
「柚樹、あとでパフェおごってよねー」
「なんで俺が。だいたい華南は行かないって言ってんのにさ」
こそこそと話す二人の会話は聞こえているのだろうが、窓際のソファーへ腰掛けた先生は、薄っぺらなファイルを開いて熱心に視線を落としていた。
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