佐鳥姫の憂鬱

水城ひさぎ

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佐鳥姫の憂鬱 〜貞華の愛した幻の桜〜

定められた恋に散った華 4

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***


「吉継様は私のどこが好き?」
「貞華の全てが好きだよ。それをずるいって言うなら、そうだな……、貞華に初めて会った時、君の瞳に惹かれたよ。とても珍しい赤茶の瞳だろう? 可愛らしくて綺麗な君が許嫁だと知らされてとても嬉しかった」

 吉継様はそう言って、私の素肌に指を滑らせる。

 彼は夜な夜な忍んできては私を抱く。

 父である佐鳥尚秀の死後、二代目佐鳥家当主として生きる私の前に現れたのは桜内吉継様だった。

 両親もおらず、何かと世話を焼いてくれた夜月も昨年亡くなった。

 吉継様の存在は、広大な土地を有する佐鳥家にたった一人で生きる私の心のよりどころだった。

 父はいつか私がひとりぼっちになってしまう日が来ることを見越して、吉継様との縁談を計らってくれたのだろう。

 さみしいけれど、私は幸せ者だ。

 吉継様がいてくれるから。

 けれど、ただ一つだけ疑念が浮かんでいる。

『君はとても珍しい赤茶の瞳をしてるね』

 吉継様はそう言った。

 夜月の瞳も赤茶だった。澄んだ黒い瞳を持つ彼には、この瞳はそれほど珍しい色に映るのだろうかと。

「最近、源助が来てる?」

 吉継様の腕の中でうとうととする私に、彼は何気なく尋ねてくる。

 堤源助は吉継様の隣の屋敷に暮らす青年だ。

 初めは吉継様と共にここへ来ていたが、最近は一人でも来る。

 私たちは幼い頃から仲良く育ったわけではないが、同い年だからすぐに打ち解けることができた。

「二日ほど前に来たと思う……」

 あいまいな記憶を口にすると、吉継様は「そう……」とだけつぶやいて、私の背を優しくなでた。
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