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永遠の誓いは摩天楼で
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「なんで、花嫁がいないのっ?」
ブライズルームの入り口の方から、女性の叫び声が聞こえた。
あの声は、愛莉ちゃんだろう。
たまに、いたずら好きの患者さんにからかわれて、猛烈に機嫌を悪くしたフリをする時に上げる声に似てる。
「いなくなっちゃう花嫁さんなんているんだ」
そうつぶやいて、目を閉じる。
身体をすっぽりと包んでくれる、椅子型のマッサージ機からは、マッサージを終えても、なかなか立ち上がれない。
「RIKUZENって最高ー」
ゆったりと身体を預けていると、廊下をバタバタッと走る足音が聞こえる。
せわしない人だなぁ、なんて思ってると、悲鳴に似た金切り声が、部屋中に響いた。
「沙月ちゃん、いたっ! なんで、こっちのルームにいるのよーっ」
びっくりして、マッサージ機から飛び上がる。目をつり上げた愛莉ちゃんが、仁王立ちして私を見下ろしてる。
「どうしたの?」
「どうしたじゃないよー。花嫁さんがいなくなったら、みんなびっくりするでしょー?」
いなくなった花嫁って、まさか、私っ?
……それはそうだ。愛莉ちゃんが探してる花嫁がいるとしたら、私しかいない。
「だって、あっちのブライズルームのマッサージ機、RIKUZENのじゃなかったから」
「それは、わざとでしょ? RIKUZENのマシーンは花嫁に見せるなって厳戒態勢なんだから」
「なーに、それー」
「それが、この結果でしょうよ。沙月ちゃん、もう急がないと時間なくなるよー」
愛莉ちゃんは私の手を取り、立ち上がらせる。
「このRIKUZENのマッサージ機、めちゃくちゃいいよ。身体の隅々までマッサージしてくれるって感じ。緊張が一瞬で、吹き飛んじゃった」
マッサージ機に後ろ髪を引かれながらも、愛莉ちゃんに性能を伝えるが、彼女はあきれ顔で、向かい側のブライズルームへ私を連れていく。
ルームには、血相を変えた係の女性が待っていた。時計を確認して、ハッとする。式まで、あと1時間しかない。3時間も前に来てたのに。
「ご、ごめんなさいっ。つい……」
「もー、いいからいいから。陸斗さんには先に行ってもらうから。式場で、綺麗なウェディング姿見せてあげて」
あやまる私の肩を押し、愛莉ちゃんは私を椅子に座らせた。
そこからの準備は凄かった。何人か係の人がやってきて、ヘアメイクとネイル、メイクが同時進行。途中、母もやってきたけど、あきれるばかりで、感動も何もない。
あわただしく準備は進み、完成したのは5分前。ドレスのすそを持ち上げて、ヴァージンロードまで走っていきたい。
「ほんと、ごめんねー」
付き添ってくれる愛莉ちゃんに、両手を合わせて謝罪する。
「あとで、陸斗さんにたっぷり、愛のお仕置きされちゃってください」
「や、やだ、怖い……」
「愛されすぎちゃうのも、怖いよね、何かと」
んふふって、含み笑いする愛莉ちゃんは、一足先にチャペルへ案内されていく。
入れ違いに、ヴァージンロードの前で待機していた父がやってくる。
「あー、沙月。間に合ったか。おまえはほんとに、しっかり者のわりにうっかりしてるなぁ」
「間に合ってます?」
「5分ほど開始時間が遅れるってアナウンスかかってたぞ。まあ、許容範囲だ。問題ない」
あっけらかんと、父は言う。
「そう思ってるの、お父さんだけかも」
「沙月の今の姿見たら、みんな、待たされたことなんてすっかり忘れるさ」
「変じゃない?」
「見慣れないからなぁ、変といえば変だが、陸斗さんなら、ますます惚れるぐらいには綺麗なんじゃないか?」
「褒められてるかわかんない」
差し出される父の手に、手を重ねる。
真っ白なオーガンジーレースのグローブ。大胆に背中のあいたスレンダーなドレス。陸斗さんがデザインしてくれた、オーダーメイドのティアラ。
そのどれもが、私には夢のような出来事。
陸斗さんとはじめて出会った一年前は、こんな風に結婚式を迎えるなんて思ってもみなかった。
チャペルのドアがゆっくりと開く。
緊張ぎみに歩き出す父が、愛おしい。
そして、私はベールの向こうに見える、青年へと目を向ける。
天空の摩天楼とも呼ばれる展望台チャペルには、天空から舞い降りたような立派な紳士がひとり、多くの参列者に見守られ、たたずんでいた。
一歩ずつ、陸斗さんに近づく。
彼と過ごす人生の、新たな一歩。
陸斗さんにようやくたどり着く。
穏やかな表情で、陸斗さんが父と交わす握手に、つい、涙が出そうになる。
いつくしみふかきの斉唱。聖書の朗読。そして、結婚の誓約。流れるように執り行われる、神聖な儀式。
指輪が、薬指にするりと通っていく。陸斗さんと結婚するんだって実感が、私の心を震わせる。
「沙月」
彼が、ベールをあげた。
きれいだよ、って唇が動く。そういう陸斗さんも、いつも以上に素敵。
誓いのキスを、彼から受け取る。おでこにそっとかわいらしいキスが落ちる。まぶたをあげたら、ほほえんだ彼が、唇にキスをした。
会場がほんの少しざわつく。
キスって、一回じゃないの?
それに、とても長くて……。
待たせたお仕置きなのかしら? って、思わなくもなくて、ようやく離れた彼を見上げたら、目の奥が笑ってた。
愛してるよ。
ふたたび、彼の唇が動く。
愛してる。
私も彼にそう伝えて、手を重ねたまま、澄み切った青空へと視線を移す。
私と彼との結婚を祝福するかのような虹が、大きく弧を描いていた。
【完】
「なんで、花嫁がいないのっ?」
ブライズルームの入り口の方から、女性の叫び声が聞こえた。
あの声は、愛莉ちゃんだろう。
たまに、いたずら好きの患者さんにからかわれて、猛烈に機嫌を悪くしたフリをする時に上げる声に似てる。
「いなくなっちゃう花嫁さんなんているんだ」
そうつぶやいて、目を閉じる。
身体をすっぽりと包んでくれる、椅子型のマッサージ機からは、マッサージを終えても、なかなか立ち上がれない。
「RIKUZENって最高ー」
ゆったりと身体を預けていると、廊下をバタバタッと走る足音が聞こえる。
せわしない人だなぁ、なんて思ってると、悲鳴に似た金切り声が、部屋中に響いた。
「沙月ちゃん、いたっ! なんで、こっちのルームにいるのよーっ」
びっくりして、マッサージ機から飛び上がる。目をつり上げた愛莉ちゃんが、仁王立ちして私を見下ろしてる。
「どうしたの?」
「どうしたじゃないよー。花嫁さんがいなくなったら、みんなびっくりするでしょー?」
いなくなった花嫁って、まさか、私っ?
……それはそうだ。愛莉ちゃんが探してる花嫁がいるとしたら、私しかいない。
「だって、あっちのブライズルームのマッサージ機、RIKUZENのじゃなかったから」
「それは、わざとでしょ? RIKUZENのマシーンは花嫁に見せるなって厳戒態勢なんだから」
「なーに、それー」
「それが、この結果でしょうよ。沙月ちゃん、もう急がないと時間なくなるよー」
愛莉ちゃんは私の手を取り、立ち上がらせる。
「このRIKUZENのマッサージ機、めちゃくちゃいいよ。身体の隅々までマッサージしてくれるって感じ。緊張が一瞬で、吹き飛んじゃった」
マッサージ機に後ろ髪を引かれながらも、愛莉ちゃんに性能を伝えるが、彼女はあきれ顔で、向かい側のブライズルームへ私を連れていく。
ルームには、血相を変えた係の女性が待っていた。時計を確認して、ハッとする。式まで、あと1時間しかない。3時間も前に来てたのに。
「ご、ごめんなさいっ。つい……」
「もー、いいからいいから。陸斗さんには先に行ってもらうから。式場で、綺麗なウェディング姿見せてあげて」
あやまる私の肩を押し、愛莉ちゃんは私を椅子に座らせた。
そこからの準備は凄かった。何人か係の人がやってきて、ヘアメイクとネイル、メイクが同時進行。途中、母もやってきたけど、あきれるばかりで、感動も何もない。
あわただしく準備は進み、完成したのは5分前。ドレスのすそを持ち上げて、ヴァージンロードまで走っていきたい。
「ほんと、ごめんねー」
付き添ってくれる愛莉ちゃんに、両手を合わせて謝罪する。
「あとで、陸斗さんにたっぷり、愛のお仕置きされちゃってください」
「や、やだ、怖い……」
「愛されすぎちゃうのも、怖いよね、何かと」
んふふって、含み笑いする愛莉ちゃんは、一足先にチャペルへ案内されていく。
入れ違いに、ヴァージンロードの前で待機していた父がやってくる。
「あー、沙月。間に合ったか。おまえはほんとに、しっかり者のわりにうっかりしてるなぁ」
「間に合ってます?」
「5分ほど開始時間が遅れるってアナウンスかかってたぞ。まあ、許容範囲だ。問題ない」
あっけらかんと、父は言う。
「そう思ってるの、お父さんだけかも」
「沙月の今の姿見たら、みんな、待たされたことなんてすっかり忘れるさ」
「変じゃない?」
「見慣れないからなぁ、変といえば変だが、陸斗さんなら、ますます惚れるぐらいには綺麗なんじゃないか?」
「褒められてるかわかんない」
差し出される父の手に、手を重ねる。
真っ白なオーガンジーレースのグローブ。大胆に背中のあいたスレンダーなドレス。陸斗さんがデザインしてくれた、オーダーメイドのティアラ。
そのどれもが、私には夢のような出来事。
陸斗さんとはじめて出会った一年前は、こんな風に結婚式を迎えるなんて思ってもみなかった。
チャペルのドアがゆっくりと開く。
緊張ぎみに歩き出す父が、愛おしい。
そして、私はベールの向こうに見える、青年へと目を向ける。
天空の摩天楼とも呼ばれる展望台チャペルには、天空から舞い降りたような立派な紳士がひとり、多くの参列者に見守られ、たたずんでいた。
一歩ずつ、陸斗さんに近づく。
彼と過ごす人生の、新たな一歩。
陸斗さんにようやくたどり着く。
穏やかな表情で、陸斗さんが父と交わす握手に、つい、涙が出そうになる。
いつくしみふかきの斉唱。聖書の朗読。そして、結婚の誓約。流れるように執り行われる、神聖な儀式。
指輪が、薬指にするりと通っていく。陸斗さんと結婚するんだって実感が、私の心を震わせる。
「沙月」
彼が、ベールをあげた。
きれいだよ、って唇が動く。そういう陸斗さんも、いつも以上に素敵。
誓いのキスを、彼から受け取る。おでこにそっとかわいらしいキスが落ちる。まぶたをあげたら、ほほえんだ彼が、唇にキスをした。
会場がほんの少しざわつく。
キスって、一回じゃないの?
それに、とても長くて……。
待たせたお仕置きなのかしら? って、思わなくもなくて、ようやく離れた彼を見上げたら、目の奥が笑ってた。
愛してるよ。
ふたたび、彼の唇が動く。
愛してる。
私も彼にそう伝えて、手を重ねたまま、澄み切った青空へと視線を移す。
私と彼との結婚を祝福するかのような虹が、大きく弧を描いていた。
【完】
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