あなたと恋ができるまで

水城ひさぎ

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何年ぶり?

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「みんな結婚しちゃったね。結局、残ったのは私と千秋ちあきかー」

 ハイボール片手に、大げさに手をひらひらふって笑うのは、唯一の独身の友人、小島こじま絵美えみ。ずいぶんと、酔っ払ってるみたい。

 絵美は会社の同期で、32歳、同い年。下着開発会社の開発部門でともに勤務してる。考え方も似てるから、入社当時から意気投合して、もう10年近い付き合いになる。

「残ってるんじゃないの。まだそのタイミングじゃないだけ」
「ごめん、ごめん。タイミング大事だよねー。でもさ、千秋なら、仕事もできるし、若い男ひとりぐらい面倒見れちゃうでしょ。すぐに相手見つかるってー」
「なんで面倒見なきゃいけないのよー」
「そりゃそうだ」

 顔を突き出して、絵美はぎゃははと笑う。
 昔から明るくて、ハキハキしてる彼女だけど、最近はちょっとだけ女らしさを忘れてきてる気がして心配になる。

「絵美は彼氏いないの?」
「彼氏? んー、別れた」
「えっ、いつ? 彼氏いたなんて知らない」

 今度は私が前のめりになる。

「なんの、いつを聞いてるのよ。付き合ったのは、去年。別れたのはー、ほら、千秋がマッチングアプリの男とデートするって言ってたー……三ヶ月ぐらい前?」
「春に別れたの?」
「そう。冬に付き合ってね。肌が人恋しかったのよ」

 両手で身体を抱きしめるしぐさをして、絵美は左右に小さく身体を振る。

「あんまり本気じゃなかったの?」
「カッコよかったのよー。あっ、千秋だって、昔言ってなかった? はじめての男は、カッコいい男がいいって思って選んだって」
「んぐ……」

 言葉につまって、変な声がもれた。

「カッコいいっていうか、テクニックのある男っていうの? やっぱり女の子のカラダのこと考えたら、扱い慣れてる男の方が安心だもんねー」
「話、それてない?」
「あ、それた。だからさ、たまには、シたくなっちゃったの。千秋はないの? そういうこと」
「ないわよ」
「ないの? マッチングアプリの男とヤっちゃったのかと思ってた。千秋に惚れない男なんていないでしょ」

 顔をしかめてしまう。
 私はどちらかというと、身体の関係だけっていうのは、見た目に反して抵抗がある方。自分で言うのもなんだけど。軽い女に見られやすいから、この年になるまで多少の苦労はあった。

あきらさんとは連絡取り合うぐらい。友人みたいなもの」
「そうそう、彰さんって言ってたね。まだ連絡はしてるんだ?」
「それこそ、春に3回会って、こっちに結婚願望がないってわかったら、しばらく音信不通。1ヶ月ぐらい前からかなぁ、またメールが来て。たまにやりとりするぐらい」
「へー。いいお付き合いって感じ。どう? 恋に発展しそう?」
「さあ、わかんない」

 肩をすくめる。

 マッチングアプリに登録するようにしつこく言ってきたのは、兄の勇一ゆういち。4歳年上の兄は3年前に結婚して、子どももいる。

 結婚はいいぞ、なんて私をそそのかそうとしたのが、ことのはじまり。兄がうるさいから登録したけど、少しぐらいは興味があった。たまたまマッチングした彰さんと食事はしたけど、ものすごく前向きだったわけじゃない。

 彰さんは大手企業勤務の32歳。同い年だし、話もあった。それにカッコよかった。でも、結婚となるとやっぱり何か違った。

「メル友ぐらいでちょうどいい感じ」
「まあ、話せる男がいれば、なんかちょっと余裕できるよね」

 なんの余裕? と思ったけど、私が思うより、絵美は結婚したいって思ってるのかもしれない。

「絵美もマッチングアプリ使ってみたら? 結婚系だから、真剣に相手探してる人、多いしね」
「結婚系? なのに、結婚願望ないとか言っちゃったら、商談不成立になるわ」
「どうせ会うなら真面目な人がいいじゃない?」
「ま、それもそっか。どんなアプリだっけ?」

 絵美も乗り気になって、スマホを取り出す。

「リンクスっていうの。会員数も多いし、まあまあ使い勝手もいいかな」
「了解。わかんないことあったら、また聞くわ」

 早速、彼女はアプリをインストールする。ログインの登録画面を見ると、めんどくさくなったのか、すぐにアプリを閉じて、かばんへしまい、ついでに財布を取り出す。

「そろそろ帰ろっか」
「そうだね。ずいぶん飲んだけど、大丈夫?」
「このぐらいで酔ってらんないわよ。千秋も気をつけて帰りなさいよー」
「私は近いから、大丈夫」

 一人暮らしのアパートまでは、歩いて帰れる。

 絵美を地下鉄の駅まで送り、酔いを覚ますにはちょうどいい、涼しい夏の夜を感じながら、私はひとり、アパートへと向かった。
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