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本当の恋人になれる日
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生家を訪れるのは、三ヶ月ぶり。あらかじめ、彼氏を連れていくって連絡してたから、私たちを出迎えた母は、すんなりと大知くんを受け入れて、客間へ通してくれた。
母はすぐに父を呼び、茶菓を用意した。四人がようやく顔をそろえると、私が口を開く。
「父の兼義と母の真澄です。兄はまだ来てないみたいだから、後で紹介するね」
「はじめまして。千葉大知と言います」
両親を紹介すると、大知くんは正座して頭を下げた。
「彼、弁護士目指してるんだって。まだ26歳の学生さん」
「ほう」
「26歳! 若いわねー」
母の驚きの声が、静かに感心する父の声をかき消す。「お母さん」と父にたしなめられて、「あらやだ」って母は口もとに手を当てる。
「弁護士を志してるんだね」
父は再度確かめるように、言う。
「はい。父が会社を経営してるので、企業弁護士になりたいって思ってます。今はまだ学生ですけど、千秋さんとの交際は真剣に考えてます」
「まあ、そう堅苦しくなく。千秋も、好きなように生きて、この年だからね。結婚するもしないも、千秋と相談したらいい」
予想外の反応だったのか、大知くんは戸惑いながら私に視線を向ける。
「大知くん、話してなかったけど、父も弁護士なのよ。父は学生結婚したの。母は働いてたんだけどね」
「えぇ……そうだったんですか」
驚く大知くんに、母がここぞとばかりに話しかける。話したくてたまらないみたい。
「そうよ、大変だったんだから。結婚したての頃は、私の実家に暮らしてもらって、なんとか。いろんな人に助けてもらってね。大知さんも迷惑かけないように、なんて思わなくて大丈夫よ」
「ああ、はい。あの、結婚なんてまだ全然考えてなかったんですけど、……というか、弁護士になってから結婚すると、千秋さんはいくつになるのかなって正直悩んだりはしました」
家族になりたいって言ったのは本気だったの? って驚いたけど、真面目な大知くんが何にも考えないわけなかったんだとも思う。
「そうねー。千秋、もう32でしょ? あなたの場合はちゃんと稼いでるから大丈夫でしょうけど。困ったことがあったら言いなさいね」
「ありがとう。でも、ほんとにまだなんにも。今日はね、大知くんを紹介したかっただけ。お父さんと話が合うかなって思って」
そう言うと、父も満更でもない様子でほおをゆるめる。
「今夜は泊まれるのかな? 付き合ってもらえるとうれしいよ」
おちょこを口に傾ける仕草をして、父は誘う。
「強くはないですけど」
後ろ頭に手を置いて、大知くんは照れくさそうにうなずく。
「泊まっていいの?」
そのつもりもなかったから、泊まる準備なんてしてきてない。
「勇一は夜ご飯食べたら帰るって連絡あったし、着替えぐらい、なんとかなるわ」
「じゃあ、泊まろうかな。大知くんもいい?」
断り切れないだろうと思いつつ、彼に尋ねる。
「はい。ご迷惑でなければ」
大知くんはうれしそうにする。そうだった。彼はなんでも受け入れる前向きな子だった。本当に迷惑だなんて思ってないし、純粋にこの状況を楽しんでるのだろう。
ようやく、父がお茶を口にする。母もお茶うけの菓子を大知くんに勧める。
そのとき、玄関のチャイムが遠くで鳴った。
「あら、勇一かしら」
そうつぶやいて、母は腰を上げた。
生家を訪れるのは、三ヶ月ぶり。あらかじめ、彼氏を連れていくって連絡してたから、私たちを出迎えた母は、すんなりと大知くんを受け入れて、客間へ通してくれた。
母はすぐに父を呼び、茶菓を用意した。四人がようやく顔をそろえると、私が口を開く。
「父の兼義と母の真澄です。兄はまだ来てないみたいだから、後で紹介するね」
「はじめまして。千葉大知と言います」
両親を紹介すると、大知くんは正座して頭を下げた。
「彼、弁護士目指してるんだって。まだ26歳の学生さん」
「ほう」
「26歳! 若いわねー」
母の驚きの声が、静かに感心する父の声をかき消す。「お母さん」と父にたしなめられて、「あらやだ」って母は口もとに手を当てる。
「弁護士を志してるんだね」
父は再度確かめるように、言う。
「はい。父が会社を経営してるので、企業弁護士になりたいって思ってます。今はまだ学生ですけど、千秋さんとの交際は真剣に考えてます」
「まあ、そう堅苦しくなく。千秋も、好きなように生きて、この年だからね。結婚するもしないも、千秋と相談したらいい」
予想外の反応だったのか、大知くんは戸惑いながら私に視線を向ける。
「大知くん、話してなかったけど、父も弁護士なのよ。父は学生結婚したの。母は働いてたんだけどね」
「えぇ……そうだったんですか」
驚く大知くんに、母がここぞとばかりに話しかける。話したくてたまらないみたい。
「そうよ、大変だったんだから。結婚したての頃は、私の実家に暮らしてもらって、なんとか。いろんな人に助けてもらってね。大知さんも迷惑かけないように、なんて思わなくて大丈夫よ」
「ああ、はい。あの、結婚なんてまだ全然考えてなかったんですけど、……というか、弁護士になってから結婚すると、千秋さんはいくつになるのかなって正直悩んだりはしました」
家族になりたいって言ったのは本気だったの? って驚いたけど、真面目な大知くんが何にも考えないわけなかったんだとも思う。
「そうねー。千秋、もう32でしょ? あなたの場合はちゃんと稼いでるから大丈夫でしょうけど。困ったことがあったら言いなさいね」
「ありがとう。でも、ほんとにまだなんにも。今日はね、大知くんを紹介したかっただけ。お父さんと話が合うかなって思って」
そう言うと、父も満更でもない様子でほおをゆるめる。
「今夜は泊まれるのかな? 付き合ってもらえるとうれしいよ」
おちょこを口に傾ける仕草をして、父は誘う。
「強くはないですけど」
後ろ頭に手を置いて、大知くんは照れくさそうにうなずく。
「泊まっていいの?」
そのつもりもなかったから、泊まる準備なんてしてきてない。
「勇一は夜ご飯食べたら帰るって連絡あったし、着替えぐらい、なんとかなるわ」
「じゃあ、泊まろうかな。大知くんもいい?」
断り切れないだろうと思いつつ、彼に尋ねる。
「はい。ご迷惑でなければ」
大知くんはうれしそうにする。そうだった。彼はなんでも受け入れる前向きな子だった。本当に迷惑だなんて思ってないし、純粋にこの状況を楽しんでるのだろう。
ようやく、父がお茶を口にする。母もお茶うけの菓子を大知くんに勧める。
そのとき、玄関のチャイムが遠くで鳴った。
「あら、勇一かしら」
そうつぶやいて、母は腰を上げた。
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