あなたと恋ができるまで

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本当の恋人になれる日

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 あれは、どういう意味だったのだろう。
 会いたくても会えないときに、メールしたいだなんて。結婚相手としてキープしてる。そう言われたんだろうか。

「千秋さんっ」

 大知くんに声をかけられて、ハッとする。紙コップの中のコーヒーが揺れた。

「何買ったんですか?」

 混雑するパーキングエリアを歩く人々の間を抜けてやってきた大知くんが、紙コップの中をのぞく。

 私たちは、実家に帰省する途中、休憩がてら、パーキングエリアに立ち寄っていた。

「ブラックよ。大知くんは何飲む?」
「俺も、ブラックで」

 財布をポケットから取り出し、自動販売機にお金を入れ、ボタンを押す。一連の動作を、彼は素早くこなし、にこっとほほえむ。私が難しい顔してたの、気づいたかもしれない。

 大知くんが側にいてくれないと、彰さんの不可解な言動に思い悩んでしまう。逆に言うと、彼といる時は、余計なこと考えたりしないでいられる。

 出来上がったコーヒーを自動販売機から取り出す大知くんの袖をつかむ。
 自分でも意外だった。不安だから、彼を頼ろうとしたみたいで。いつの間にか、私の中で、彼が大切な存在にふくれ上がってたみたい。

「千秋さんのご両親、どんな方か楽しみです」

 そう言いながら、彼はさりげなく手をつないでくれる。

「普通よ」
「でも、美男美女そうです」
「それほどじゃないと思うわ」
「それは家族だからそう思うんですよ。俺も、千秋さんの家族になりたいな」

 さらっと、大胆なことを言う。
 もしかしたら、本当にそう思っただけで、具体的な結婚プランなんて、なんにもないかもしれないけど。

「千秋さんとのお付き合い、認めてもらえるかな」
「反対しないと思うけど。かえって安心するかも」

 そんなもんなんだ? って気の抜けた表情をする大知くんは、すぐに穏やかに目を細める。

「それより、千秋さんに認めてもらうのが、先でしたね」
「認めるっていうか……」
「会いたいときに会える存在になりたいです」

 あんまりまっすぐな目で見つめるのは、やめてほしい。彼の足手まといになったらいけないって気持ちが強くなる。

「そうね……。考えておくわ」
「迷うぐらい、頼りないですか? 俺」
「そうじゃないわ。勉強の邪魔したらいけないでしょう? 支えてあげられるほど、器用じゃないわ」

 私は私、彼は彼。お互いに自立しながら、一緒に過ごせる時間は癒してあげられるような、そんな関係を望める相手を探してたんじゃなかったか。
 
「千秋さんが邪魔になるわけないじゃないですか。絶対、大丈夫です」
「どうしてそう思うの?」
「千秋さんが、尊敬できる人だからです。だから俺も、尊敬される人になります」
「……もう、じゅうぶんよ」

 大知くんは立派な青年に成長するだろう。そのとき、彼の隣にいていいのか、まだ自信が持てない。

「千秋さんがダメだって言うなら、がまんします。でも俺は、ダメだなんて言わないから、会いたくなったら会いに来てほしいです」

 そんな日が来るのを、彼は待ち焦がれてる。私が会いたいって言わないから、愛されてないんじゃないかって傷ついて、遠慮してる。

「大知くん、両親に会ったら、何か気持ちが変わるかもしれないわ、私」
「どういう意味ですか?」
「それは、会ってからのお楽しみ」
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