あなたと恋ができるまで

つづき綴

文字の大きさ
上 下
14 / 20
本当の恋人になれる日

4

しおりを挟む



 お風呂あがりに和室へ入ると、二枚並べられた布団の上に、大知くんは横になっていた。
 私に気づくと、うれしそうに手招きする。身体を起こしてられないぐらいには、酔ってるんだろう。

 彼のそばにひざをつくと、私の太ももの上に頭を乗せてくる。子どもみたい。
 まだ少ししけった髪をなでると、とろんとまぶたを落とす。

「優ちゃん、かわいいですね。人見知りで、目を合わせると逃げちゃいましたけど」

 子どもが好きなんだろうか。楽しそうに話す。

「大知くん、お兄さんがいるって言ってたわね。結婚されてるの?」
「……あー、してないですよ」

 変な間をおいて、彼はそう言う。聞いちゃいけなかったのかなって、ちょっと不安になる。

「あっ、別に兄に問題があるわけじゃないですよ。千秋さんに迷惑かける人じゃないです」
「大知くんに、甥っ子くんとか姪っ子ちゃんはいないのかな? って思っただけ」

 聞いてもないのにあわてるから、おかしくなってしまう。

「それは、いないです。親戚には小さい子いますけど、そんなに会わないし」
「子ども、ほしかったりするの?」
「ん、まあ。憧れたりはしますよね」

 大知くんは、彼の髪をなでる私の手を取り、そっと握りしめてくる。

「千秋さんがいてくれることが一番です。もし、千秋さんが子どもがほしいっていうなら、甘えてみようかな」
「……うん。いいよ」

 どうしてか、すんなりとうなずいていた。

 大知くんはハッと身体を起こし、私の顔をまじまじと眺める。お化粧してないから、ちょっと恥ずかしい。何度も見られてるけど、彼の瞳は綺麗だから、そこに映り込むのはとても恥ずかしい。

 うつむこうとする私を、彼は下からのぞき込む。

「司法試験受かる前に、結婚してもいいんですか?」
「それでもいいよって言ってるの」
「ほんとですか? じゃあ……、週末以外も会ってくれますか?」
「あ、うん」

 うなずくと、彼の瞳はますます開く。そして、私をぎゅっと抱きしめてくる。

「めちゃくちゃうれしいです。千秋さんが俺を……? うわぁ、なんか顔がヤバい……」

 ゆるゆるとゆるむ口もとやほおを、手のひらで覆い隠した彼は、私と目を合わせると、やや正気を取り戻す。

「キスしたいです」
「うん」
「このまま抱きたいです」
「……それは、だめ」
「じゃあ、明日、帰ったらすぐに抱きたいです」
「酔いがさめても、覚えてたらね」

 近づく唇を受け止める。いつもよりずっと優しいキスは、ほんのちょっとお酒の匂いがした。
しおりを挟む

処理中です...