プラトニックな事実婚から始めませんか?

水城ひさぎ

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相談

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 滑り台を数回楽しんだのんちゃんが、駆け戻ってくると、芹奈の足にしがみつく。そうして、「次、あっち」と、滑り台の奥を指差す。次は砂場へ行きたいようだ。

 私たちはのんちゃんを挟むようにして並んで歩きながら、砂場へと向かう。

「啓介から何か聞いてる?」

 私は大学卒業後、旅行代理店に就職し、すぐに東京勤務になった。

 東京に憧れ、上京を志願していたから、念願叶って舞い上がっていた時期、芹奈も啓介も地元にとどまっていた。その間、高校を卒業してから疎遠になっていたはずの彼らがどういう交流を重ねていたのか、よく知らない。

 啓介は私を好きだと言ってくれたけど、芹奈とは友人なのか、それ以上に信頼できる関係でいるのかも、知らないのだ。

「なんにも。むしろ、次はいつ会う? って連絡したけど、返信ないし。だからなんとなく、何かあったのかなって思ってた」

 芹奈がそう答える。

 意外な返事だったから、正直、驚いた。啓介は芹奈に相談していると思っていた。

「本当に何も聞いてないの?」
「聞いてないよ。あっ、でも、想像はつくよ。啓介、祥子に告白したんじゃない?」
「わかる?」
「わかるよ、わかる。とうとう言ったんだって感じ」

 芹奈はにやにやすると、手提げバッグからスコップを取り出し、砂場にしゃがみ込むのんちゃんに手渡す。

 のんちゃんはすぐに夢中になって、砂を集めて山を作り始める。近くにいた、のんちゃんと同い年ぐらい女の子がそっと近づいてきて、ふたりは無言で見つめ合い、意思の疎通を図ると一緒になって遊び出す。

「とうとうって、気づいてたの?」

 砂場のそばにあるベンチに芹奈と並んで座り、私は尋ねる。

「あたりまえじゃない。祥子がこっちに帰ってくるって知った途端、頻繁に連絡してくるんだもん。気づかない方がおかしいって」

 おかしそうに芹奈は笑う。

 啓介の気持ちに全然気づかなかったのは、私だけみたいで恥ずかしい。

「本当に、相談されたとかじゃないの?」

 往生際悪く尋ねてしまうのは、どことなく気まずいからだ。

 芹奈とは高校で出会ってからの親友だけど、恋の話で盛り上がった記憶はほとんどない。

 離婚が決まったときも、芹奈は黙って話を聞いてくれて、将司を不必要に悪くは言わなかった。だから、言わなくていいような不満までは話さずに済んだ。

 彼女の恋の悩みも、私はあまり聞いたことがない。話したい時は話してくれるだろう。そう思って、ずっと過ごしてきた。

「相談なんてないよ、本当に。でも、嫌じゃない? 私と啓介がつながってて、祥子の話してるなんて。何かあるたびに筒抜けで、いちいち親友に相談されてるとか、私だったら嫌」

 芹奈はきっぱりとそう言う。

「だよね。私も嫌かも……」
「祥子と啓介が付き合ってたりしたらさ、余計にだよね。啓介もそういうの、気づかってくれてるんだよ」

 私の知らないところで芹奈とはつながってないんだって、こうやって知ることができる。啓介はそこまで考えてくれてるんだろうか。

「優しいよね、啓介って」

 ため息をつくように言う。

「優しい男はダメ?」
「ダメっていうか……」
「付き合うか迷ってる?」
「それは、迷うよ。一度、結婚失敗してるから、次に付き合う人は慎重に決めたいし」

 頼りなく眉が下がったのがわかる。そんな情けない顔に気づいた芹奈が、優しさで包み込むような笑顔を見せる。

「前向きではあるんだね?」
「わかんない。啓介のことは嫌いじゃないよ。高校のときは気づかなかったけど、こんなに優しい人だったんだって思うこともあるし」
「うん、わかる」
「でも……、どうして私なのかなって」
「そっか。啓介に限っては、体目当てじゃなさそうだけどね」
「そ、そういう話じゃなくて」

 年甲斐もなく、ほおが赤らんだのがわかる。純愛なんて期待してないけど、啓介とそういう関係になるなんて考えたら、胸がどきどきしてしまった。

 私、啓介が好きなのかな。それでもやっぱり、彼と付き合う先の未来までまだ描く勇気がない。

「そういう話じゃないの? じゃあ、結婚の心配してる? 啓介はバツイチとか気にしないと思うけど、祥子はどう? また結婚したい?」
「この先、結婚しない未来はあんまり考えてないかも。誰かと一緒にいたい気はするんだよ。将司との結婚生活だって、全部が全部、最低だったわけじゃないから」

 もう全部が全部、裏切りによって薄汚れてしまった思い出だけれど、誰かと過ごす安心感は常にあったし、結婚生活自体に不満はなかったはずだ。

「わかる。好きな人とずっと一緒にいたいって思う気持ち、わかるよ。啓介だってね、結婚願望あると思う。付き合ったら、結婚も視野にって話になりそうだよね。啓介が今後、祥子みたいな顔も性格もいい女性に出会える確率はほぼないもん」
「そんなことないとは思うけど……」

 苦笑いしつつ、私はしばらく考え込む。

 あのこと、話そうか。芹奈なら、親身になって聞いてくれるだろう。

 芹奈の方へ目を移すと、私が何か言い出すのを辛抱強く待つような表情の彼女に気づく。今なら話せるだろうと、思い切って口を開く。

「あのね、芹奈、ちょっと心配してることがあって」
「啓介のことで?」

 私は首を横に振ると、バッグから白い封筒を取り出す。

「……この間ね、これがポストに入ってたんだ」
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