強欲御曹司の溺愛

水城ひさぎ

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強欲な甘い誘惑

ウェディングドレス試着会(2)

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 欲ならきっと、人並みにある。

 両親のように、愛情の続く仲のいい夫婦になりたいっていう憧れがある。

 長野県ののどかな田舎町で育った母は、親の決めた婚約者がいたけれど、父と出会って、駆け落ちして東京に出てきた。

 中学生になった年、母方の祖父が亡くなり、母と一緒に長野の実家を訪ねたことがある。

 広大な土地に大きな屋敷がぽつりと立つ、いわゆる、旧家と呼ばれる名家だった。

 祖母は十数年ぶりに会う我が子に涙して、結婚を反対して申し訳なかったと泣いたそうだ。私は屋敷へは入らず、何もない田んぼ道で母を待っていた。

 今考えると、母は生まれ育った家を知っていてほしいという思いと、関わらせたくないという思いの両方を持っていたように思う。

 だからせめて私は、両親が祝福してくれる結婚がしたいなって思ってる。

 イベント会場へ続く道筋は、次第に混雑し始めた。ほとんどが、本宮ブライダルのイベントへ向かう車だろう。

 こじんまりとした衣裳屋さんで、いくつかドレスを見比べて試着するつもりの感覚でいたけれど、大手企業の役員がやってくるぐらいなのだから、思っているよりも大きなイベントなのだろう。

 イベント会場の入り口に近づくと、名札を下げたスーツ姿の案内係が運転席にやってきた。

 美梨さんが本宮さんから招待されてる旨を伝えると、すぐにわかってくれて、関係者用の駐車場へと案内された。

 イベント会場の裏手にある駐車場へ到着すると、すでに十数台の車が停車していた。中には、車にうとい私でもわかる超高級車がある。美梨さんの言っていた、とびきり級のセレブももう到着してるみたいだ。

「裏口から入れるみたい」

 駐車場で立ち話をしている、商談に訪れたのであろうスーツ姿の男女を横目に、美梨さんと一緒に裏口へ向かう。

 中へ入ると、スタッフとおぼしき女性が駆けつけてきた。

「美梨さん、お久しぶりです。今日も素敵な装い。いらっしゃるの楽しみにしてたんですよ」

 おしゃれなパンツルックの美梨さんをひとしきり褒め倒した女性は、本宮ブライダル広報担当の高山たかやまと名乗り、早速、私たちを試着室へ案内してくれた。

 試着室には、高山さんとは別に、二人の女性スタッフがいた。どうやら、試着を手伝ってくれるらしい。

 自己紹介もそこそこに、高山さんがドレス用のハンガーラックから、おすすめの1着を運んできてくれる。

「ハルカ・モトミヤと言えば、やっぱりクラシカルなプリンセスラインですよね。つばささんはボリュームのあるタイプがお似合いになりそう」

 いかがですか? と目の前に差し出されるドレスを眺める。

「わあ、素敵。レースもたくさんですね」

 胸もとが大きく開いたデザインだけれど、オフショルダーの部分はふんわりと可愛らしい。

 シンプルな胸もとと、レースをふんだんに使ったスカートとのバランスが絶妙で、エレガントとキュートが共存してるみたい。

 高山さんはほかのデザインも見せてくれたけれど、やっぱり最初のドレスが印象的で、すぐに心は決まった。

「プリンセスラインのドレスにします。着てみていいですか?」
「もちろんです。ヘアメイクもしますね。お任せください」
「ヘアメイクも? 楽しみですっ」

 試着室の真ん中にある鏡の前へ移動すると、スタッフに手伝ってもらってドレスに袖を通す。

 サイズもぴったりで、キュッと締まったウエストラインからふんわりと広がるスカートは可愛らしく、お姫様になったみたい。

「お胸がおありだから、形もきれいね。上品なネックレスがいいかしら」

 デコルテを眺めながら高山さんはそう言って、貸し出し用のネックレスを見せてくれる。

「アクセサリーまで?」
「せっかくだから、ティアラもつけて、写真撮影しない? ねー、美梨さんもそう思うでしょ?」
「つばさちゃんなら、素敵なサンプル写真が撮れそうよね」

 同意を求める高山さんに、美梨さんもすぐに乗り気になる。

 そうか。高山さんは広報担当だから、これも特別な計らいなんだろう。

 今日は何から何まで特別扱いだから、写真撮影を望まれるなら、受け入れるのが感謝の示し方かもしれない。

 ドレッサーの前へ移動すると、スタッフの女性ふたりがかりで、メイクとヘアメイクが同時進行していく。

 ドレスにボリュームがあるから、ヘアスタイルはタイトに、メイクは上品かつ華やかに。お肌がきれいだからメイクのノリがいいわー、なんて会話が弾んでいく。

 テキパキとこなすスタッフたちの横で、高山さんと美梨さんがパンフレットを見ながら、どんなポーズで撮影するか話し合いを始める。

「あんまり大掛かりな撮影はできないから、隣のスタジオで撮影しましょうか。せっかくだから、お相手がいると雰囲気が出ていいんだけど」
「どなたか、男性スタッフで手の空いてる方はいるの?」

 美梨さんが尋ねると、高山さんはしばらく腕を組んで考え込む。

 それはそうだろう。試着会が始まれば、私の写真撮影なんて二の次で、大忙しになる。

「あっ、そう言えばっ!」

 高山さんは、名案が浮かんだとばかりにスタッフの女性に声をかける。

「さっき、海堂さんがいらしてたわよね? オーナーと打ち合わせ中かしら?」
「海堂社長でしたら、ご子息の佑磨さんと一緒に会議室へ入られたと聞きましたよー。もしかして、佑磨さんと写真を?」

 スタッフの声のトーンが高くなる。

 目がキラキラと輝くから、写真におさめたくなるような男性なんだろうと思うけど、海堂佑磨って誰だろう?

「ダメよ、さすがに佑磨さんは」
「やっぱりそうですよねー。佑磨さんをサンプル写真にはできませんよね」

 高山さんが否定すると、スタッフは心底残念そうに肩を下げた。

「そう、がっかりしないの。佑磨さんじゃなくて、天ヶ瀬さんにお願いするって、どう? ロビーで見かけたけれど、まだいらっしゃるかしら」

 また知らない名前が出てきた。きょろきょろする私なんておかまいなしに、どんどん話が進んでいく。

「それ、いいですね。いつも会議が終わるまでロビーで待たれてるから、いらっしゃると思いますよ」
「じゃあ、そうと決まれば善は急げね。天ヶ瀬さん呼んでくるから、タキシードの準備お願いねーっ」

 高山さんはせっかちなのだろう。決まるが早いか、あわただしく試着室を飛び出していった。
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