強欲御曹司の溺愛

水城ひさぎ

文字の大きさ
3 / 44
強欲な甘い誘惑

ウェディングドレス試着会(1)

しおりを挟む
***


「ウェディングドレスの試着会ですかー?」

 美梨さんの差し出すチラシを受け取って、真っ先に目に飛び込んできた文字に食いついた。

 恋人はいないし、ウェディングドレスを着る日が来るのは夢のまた夢だけれど、仲のいい両親に憧れる私は、結婚願望が強い方だと思う。

「そうなの。知り合いの衣裳屋さんがね、新作ドレスがたくさん入荷されるから、ぜひ見に来てって。どう? つばさちゃんも一緒に行かない?」

 興味津々になる私は予想がついていたのだろう。美梨さんは満足げに誘ってくれる。

「知り合いの衣裳屋さんって、もしかして」
「もちろん、本宮もとみやブライダルさんよ。ハルカ・モトミヤの新作ドレスは目玉商品ね」
「わあ、素敵っ! 私、絶対、ウェディングドレスはハルカ・モトミヤがいいって思ってるんです」

 嬉々として、改めて、チラシを眺める。

 そこには、ハルカ・モトミヤデザインのドレスに身を包むモデルが載っている。私もこんなドレスを着てみたい、と憧れるような華麗で繊細なデザインだ。

 本宮ブライダルは毎年、11月にウェディングドレス試着会を開催している。取り扱いブランドはさまざまだが、本宮ブライダル社長の娘、本宮遥香はるかがデザインしたドレスは目玉中の目玉だ。

 ハルカ・モトミヤといえば、世界的に有名な女性デザイナー。ハリウッド俳優と事実婚をしていて、今はパートナーとひとり娘の三人で海外暮らしと聞いている。

「その様子だと、行くわよね?」
「はいっ、行きたいです。ハルカ・モトミヤのドレス着るまで帰りませんから」

 意気込む私に、美梨さんはウィンクする。

「じゃあ、決まり。週末は私とドライブね」




 週末になると、美梨さんの運転する車で、湘南にある本宮ブライダルへ向かった。

 真っ赤な高級スポーツカーのハンドルを握る美梨さんはカッコよくて、私の憧れだ。

 どちらかというと内向的な私とタイプは全然違うけど、40代とは思えないぐらい綺麗でクール。美意識の高さは母よりも上で、努力でつちかってきた美しさに尊敬してる。

 そういう母は、華奢な美女。天性のものってあるんだと思う。それほど努力してないように見えるのに、少女のように可憐な人。

 それはそれで羨ましいって思うけど、残念ながら私は、くまさんのような体格の穏やかな父に似てる。

 お父さん似の美人ね、とはよく言われるけれど、美梨さんや母というとびきりの美女を毎日見ていると自信もあまり持てない。だから、二人とも私の憧れ。

「もうすぐ着くわよ。楽しみね」

 海沿いの道に入ると、心なしか、美梨さんの声も弾む。

「ドキドキしますねっ。ドレスの試着、できるといいですけど」

 何時間待ってもいいから着てみたいと思うけど、ハルカ・モトミヤの人気度はかなり高いだろう。

 不安がる私に、美梨さんが言う。

「言い忘れてたけど、昨日、本宮さんに連絡したのよ。イベントが始まる前に来てくれるなら、一番乗りの試着、大丈夫ですって」
「本当ですかー?」

 だから、ずいぶん早めの出発だったのだ。テンションがあがる。

「本宮さんは打ち合わせがあるからいらっしゃらないけど、スタッフの方にお願いしてくださるそうよ。1着なら問題ないっておっしゃってたわ」
「1着でも充分ですっ。ハルカ・モトミヤの新作ドレスが着れるなんて夢みたい。試着したら、結婚したくなっちゃいそう」

 想像するだけでうっとりしちゃう。

「誰かいい人いないのー? つばさちゃんは」
「女子高から女子短大に行ったので、出会いなんて全然なんです」

 ファッションアドバイザーになりたくて服飾関係の短大へ進み、短大卒業後は、夢が叶って、リトルグレイスへ就職した。

 就職した頃はアルバイトの女の子がいたが、今は美梨さんと私だけ。男性との出会いはほとんどない。

「うちのお客さまも、彼女のいない独身の方は来られないものねぇ。合コンは行ったりしないの?」
「友だちは行ってるみたいだけど、私はお誘いがなくて」

 合コンと無縁なのがなんだか恥ずかしくて、肩をすくめる。

 短大時代に仲良くなった友人とは、休日になれば、電話もするし、ランチに行ったりもする。

 恋の話はするけれど、お互いにあまりがっついてる感じにはならなくて、合コンでいい人に出会えるなんて奇跡かも、結婚はしたいから出会いが欲しいよねー、なんてひとごとのように言ってるぐらい。

「あー、つばさちゃん、かわいいものね。無双されちゃうから呼ばれないのよ」

 何を勘違いしたのか、美梨さんは見当違いに茶化してくる。

「そんなんじゃないですよ。合コン向きじゃないって言われるんです」
「たしかにねー、つばさちゃんなら結婚前提のお見合い向きかも」

 やっぱり、美梨さんも私は合コン向きじゃないって思ってるみたい。結婚願望はあるのに、積極的な行動が起こせないタイプだって見透かされてるのだろう。

「それはそうと、今日の試着会は豪華なお客さまもいらしてるみたいだし、素敵な出会いがあるといいわね」
「豪華なお客さま?」

 試着会は初めてだから、想像もつかない。

「本宮ブライダルは大手のリゾート会社と業務提携してるの。ハルカ・モトミヤのドレスが借りられるホテルウェディングはかなり人気なのよ」
「試着会に、リゾート関係の方がたくさんいらっしゃるんですか?」
「それもとびきり級のね。ドレスより、セレブ目当てのお客さまもいるとかいないとか」
「すごい世界。私はドレスが着れたらそれでいいかな」

 気後れしながら言うと、美梨さんは欲がないのねと、くすりと笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...