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強欲な甘い誘惑
ウェディングドレス試着会(1)
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***
「ウェディングドレスの試着会ですかー?」
美梨さんの差し出すチラシを受け取って、真っ先に目に飛び込んできた文字に食いついた。
恋人はいないし、ウェディングドレスを着る日が来るのは夢のまた夢だけれど、仲のいい両親に憧れる私は、結婚願望が強い方だと思う。
「そうなの。知り合いの衣裳屋さんがね、新作ドレスがたくさん入荷されるから、ぜひ見に来てって。どう? つばさちゃんも一緒に行かない?」
興味津々になる私は予想がついていたのだろう。美梨さんは満足げに誘ってくれる。
「知り合いの衣裳屋さんって、もしかして」
「もちろん、本宮ブライダルさんよ。ハルカ・モトミヤの新作ドレスは目玉商品ね」
「わあ、素敵っ! 私、絶対、ウェディングドレスはハルカ・モトミヤがいいって思ってるんです」
嬉々として、改めて、チラシを眺める。
そこには、ハルカ・モトミヤデザインのドレスに身を包むモデルが載っている。私もこんなドレスを着てみたい、と憧れるような華麗で繊細なデザインだ。
本宮ブライダルは毎年、11月にウェディングドレス試着会を開催している。取り扱いブランドはさまざまだが、本宮ブライダル社長の娘、本宮遥香がデザインしたドレスは目玉中の目玉だ。
ハルカ・モトミヤといえば、世界的に有名な女性デザイナー。ハリウッド俳優と事実婚をしていて、今はパートナーとひとり娘の三人で海外暮らしと聞いている。
「その様子だと、行くわよね?」
「はいっ、行きたいです。ハルカ・モトミヤのドレス着るまで帰りませんから」
意気込む私に、美梨さんはウィンクする。
「じゃあ、決まり。週末は私とドライブね」
週末になると、美梨さんの運転する車で、湘南にある本宮ブライダルへ向かった。
真っ赤な高級スポーツカーのハンドルを握る美梨さんはカッコよくて、私の憧れだ。
どちらかというと内向的な私とタイプは全然違うけど、40代とは思えないぐらい綺麗でクール。美意識の高さは母よりも上で、努力でつちかってきた美しさに尊敬してる。
そういう母は、華奢な美女。天性のものってあるんだと思う。それほど努力してないように見えるのに、少女のように可憐な人。
それはそれで羨ましいって思うけど、残念ながら私は、くまさんのような体格の穏やかな父に似てる。
お父さん似の美人ね、とはよく言われるけれど、美梨さんや母というとびきりの美女を毎日見ていると自信もあまり持てない。だから、二人とも私の憧れ。
「もうすぐ着くわよ。楽しみね」
海沿いの道に入ると、心なしか、美梨さんの声も弾む。
「ドキドキしますねっ。ドレスの試着、できるといいですけど」
何時間待ってもいいから着てみたいと思うけど、ハルカ・モトミヤの人気度はかなり高いだろう。
不安がる私に、美梨さんが言う。
「言い忘れてたけど、昨日、本宮さんに連絡したのよ。イベントが始まる前に来てくれるなら、一番乗りの試着、大丈夫ですって」
「本当ですかー?」
だから、ずいぶん早めの出発だったのだ。テンションがあがる。
「本宮さんは打ち合わせがあるからいらっしゃらないけど、スタッフの方にお願いしてくださるそうよ。1着なら問題ないっておっしゃってたわ」
「1着でも充分ですっ。ハルカ・モトミヤの新作ドレスが着れるなんて夢みたい。試着したら、結婚したくなっちゃいそう」
想像するだけでうっとりしちゃう。
「誰かいい人いないのー? つばさちゃんは」
「女子高から女子短大に行ったので、出会いなんて全然なんです」
ファッションアドバイザーになりたくて服飾関係の短大へ進み、短大卒業後は、夢が叶って、リトルグレイスへ就職した。
就職した頃はアルバイトの女の子がいたが、今は美梨さんと私だけ。男性との出会いはほとんどない。
「うちのお客さまも、彼女のいない独身の方は来られないものねぇ。合コンは行ったりしないの?」
「友だちは行ってるみたいだけど、私はお誘いがなくて」
合コンと無縁なのがなんだか恥ずかしくて、肩をすくめる。
短大時代に仲良くなった友人とは、休日になれば、電話もするし、ランチに行ったりもする。
恋の話はするけれど、お互いにあまりがっついてる感じにはならなくて、合コンでいい人に出会えるなんて奇跡かも、結婚はしたいから出会いが欲しいよねー、なんてひとごとのように言ってるぐらい。
「あー、つばさちゃん、かわいいものね。無双されちゃうから呼ばれないのよ」
何を勘違いしたのか、美梨さんは見当違いに茶化してくる。
「そんなんじゃないですよ。合コン向きじゃないって言われるんです」
「たしかにねー、つばさちゃんなら結婚前提のお見合い向きかも」
やっぱり、美梨さんも私は合コン向きじゃないって思ってるみたい。結婚願望はあるのに、積極的な行動が起こせないタイプだって見透かされてるのだろう。
「それはそうと、今日の試着会は豪華なお客さまもいらしてるみたいだし、素敵な出会いがあるといいわね」
「豪華なお客さま?」
試着会は初めてだから、想像もつかない。
「本宮ブライダルは大手のリゾート会社と業務提携してるの。ハルカ・モトミヤのドレスが借りられるホテルウェディングはかなり人気なのよ」
「試着会に、リゾート関係の方がたくさんいらっしゃるんですか?」
「それもとびきり級のね。ドレスより、セレブ目当てのお客さまもいるとかいないとか」
「すごい世界。私はドレスが着れたらそれでいいかな」
気後れしながら言うと、美梨さんは欲がないのねと、くすりと笑った。
「ウェディングドレスの試着会ですかー?」
美梨さんの差し出すチラシを受け取って、真っ先に目に飛び込んできた文字に食いついた。
恋人はいないし、ウェディングドレスを着る日が来るのは夢のまた夢だけれど、仲のいい両親に憧れる私は、結婚願望が強い方だと思う。
「そうなの。知り合いの衣裳屋さんがね、新作ドレスがたくさん入荷されるから、ぜひ見に来てって。どう? つばさちゃんも一緒に行かない?」
興味津々になる私は予想がついていたのだろう。美梨さんは満足げに誘ってくれる。
「知り合いの衣裳屋さんって、もしかして」
「もちろん、本宮ブライダルさんよ。ハルカ・モトミヤの新作ドレスは目玉商品ね」
「わあ、素敵っ! 私、絶対、ウェディングドレスはハルカ・モトミヤがいいって思ってるんです」
嬉々として、改めて、チラシを眺める。
そこには、ハルカ・モトミヤデザインのドレスに身を包むモデルが載っている。私もこんなドレスを着てみたい、と憧れるような華麗で繊細なデザインだ。
本宮ブライダルは毎年、11月にウェディングドレス試着会を開催している。取り扱いブランドはさまざまだが、本宮ブライダル社長の娘、本宮遥香がデザインしたドレスは目玉中の目玉だ。
ハルカ・モトミヤといえば、世界的に有名な女性デザイナー。ハリウッド俳優と事実婚をしていて、今はパートナーとひとり娘の三人で海外暮らしと聞いている。
「その様子だと、行くわよね?」
「はいっ、行きたいです。ハルカ・モトミヤのドレス着るまで帰りませんから」
意気込む私に、美梨さんはウィンクする。
「じゃあ、決まり。週末は私とドライブね」
週末になると、美梨さんの運転する車で、湘南にある本宮ブライダルへ向かった。
真っ赤な高級スポーツカーのハンドルを握る美梨さんはカッコよくて、私の憧れだ。
どちらかというと内向的な私とタイプは全然違うけど、40代とは思えないぐらい綺麗でクール。美意識の高さは母よりも上で、努力でつちかってきた美しさに尊敬してる。
そういう母は、華奢な美女。天性のものってあるんだと思う。それほど努力してないように見えるのに、少女のように可憐な人。
それはそれで羨ましいって思うけど、残念ながら私は、くまさんのような体格の穏やかな父に似てる。
お父さん似の美人ね、とはよく言われるけれど、美梨さんや母というとびきりの美女を毎日見ていると自信もあまり持てない。だから、二人とも私の憧れ。
「もうすぐ着くわよ。楽しみね」
海沿いの道に入ると、心なしか、美梨さんの声も弾む。
「ドキドキしますねっ。ドレスの試着、できるといいですけど」
何時間待ってもいいから着てみたいと思うけど、ハルカ・モトミヤの人気度はかなり高いだろう。
不安がる私に、美梨さんが言う。
「言い忘れてたけど、昨日、本宮さんに連絡したのよ。イベントが始まる前に来てくれるなら、一番乗りの試着、大丈夫ですって」
「本当ですかー?」
だから、ずいぶん早めの出発だったのだ。テンションがあがる。
「本宮さんは打ち合わせがあるからいらっしゃらないけど、スタッフの方にお願いしてくださるそうよ。1着なら問題ないっておっしゃってたわ」
「1着でも充分ですっ。ハルカ・モトミヤの新作ドレスが着れるなんて夢みたい。試着したら、結婚したくなっちゃいそう」
想像するだけでうっとりしちゃう。
「誰かいい人いないのー? つばさちゃんは」
「女子高から女子短大に行ったので、出会いなんて全然なんです」
ファッションアドバイザーになりたくて服飾関係の短大へ進み、短大卒業後は、夢が叶って、リトルグレイスへ就職した。
就職した頃はアルバイトの女の子がいたが、今は美梨さんと私だけ。男性との出会いはほとんどない。
「うちのお客さまも、彼女のいない独身の方は来られないものねぇ。合コンは行ったりしないの?」
「友だちは行ってるみたいだけど、私はお誘いがなくて」
合コンと無縁なのがなんだか恥ずかしくて、肩をすくめる。
短大時代に仲良くなった友人とは、休日になれば、電話もするし、ランチに行ったりもする。
恋の話はするけれど、お互いにあまりがっついてる感じにはならなくて、合コンでいい人に出会えるなんて奇跡かも、結婚はしたいから出会いが欲しいよねー、なんてひとごとのように言ってるぐらい。
「あー、つばさちゃん、かわいいものね。無双されちゃうから呼ばれないのよ」
何を勘違いしたのか、美梨さんは見当違いに茶化してくる。
「そんなんじゃないですよ。合コン向きじゃないって言われるんです」
「たしかにねー、つばさちゃんなら結婚前提のお見合い向きかも」
やっぱり、美梨さんも私は合コン向きじゃないって思ってるみたい。結婚願望はあるのに、積極的な行動が起こせないタイプだって見透かされてるのだろう。
「それはそうと、今日の試着会は豪華なお客さまもいらしてるみたいだし、素敵な出会いがあるといいわね」
「豪華なお客さま?」
試着会は初めてだから、想像もつかない。
「本宮ブライダルは大手のリゾート会社と業務提携してるの。ハルカ・モトミヤのドレスが借りられるホテルウェディングはかなり人気なのよ」
「試着会に、リゾート関係の方がたくさんいらっしゃるんですか?」
「それもとびきり級のね。ドレスより、セレブ目当てのお客さまもいるとかいないとか」
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