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強欲な甘い誘惑
ウェディングドレス試着会(4)
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「おやおや、そちらに美しいお嬢さんがいらっしゃるではないですか。私は引き立て役ですよ」
派手なシルバーのタキシードを嫌味なく着こなす青年は、スタッフの歓喜の声を受けて、穏やかに微笑でさとす。
彼が、天ヶ瀬さん。なんて優雅な人だろう。長身で、目鼻立ちはくっきりしている。物腰柔らかな彼を包み込む空気が優しくて、一気に疲労感も緊張感も溶けていくみたい。
「天ヶ瀬です、よろしくお願いしますね」
私の方へ歩み寄ってきた彼は、うやうやしく頭をさげた。
「あの、はじめまして、西川つばさです」
「はい、はじめまして」
彼はそう言うだけで、私についての質問はしなかった。
どこの誰で、どうして写真撮影をしてるのかなんて、彼にとって大した関心事ではないのだろう。
楽しそうだから参加した。その程度かもしれない。それならそれで、こちらも気楽にかまえていていいのかもしれないけれど。
「高山さんはご一緒では?」
天ヶ瀬さんしかスタジオに入ってこないから、スタッフが尋ねる。
「私の代わりにロビーで待っています。打ち合わせはすぐには終わらないでしょうし、大丈夫だと言ったんですが、律儀な方です。さあ、撮影の続きを始めましょうか。私はどうしたら?」
すぐに辺りを見回して、撮影の空気に溶け込む。さすがというのか、動きにそつがない。
スタッフもあわてて、立ち位置を指し示す。
「あっ、では、天ヶ瀬さんは階段の下で、つばささんをエスコートする感じで」
「わかりました。手に振れても?」
スタッフの指示に一つうなずくと、天ヶ瀬さんは私ににこりと微笑みかける。
「あ、はい。お願いします」
すんなりと、手を伸ばす。
男の人に優しくされるのも、触れるのも初めてで緊張する。でも、手を重ねたら緊張がほどけるから、やっぱりふしぎな人だ。男を意識させない、スマートな人なのだと思う。
階段を数段あがり、寄り添うようにして顔を合わせる。恥ずかしがってる時間もなく、ポーズの指示が来るから、天ヶ瀬さんも楽しそうに私を優しくエスコートしてくれる。
シャッターを切る音がおさまると、次は窓辺、その次は暖炉の前へと移動して、さまざまなポーズで撮影した。
「なかなか大変ですね。お疲れではないですか?」
天ヶ瀬さんは私を気遣う。
「はい、大丈夫です。天ヶ瀬さんこそ」
「私はこの通り、楽しんでおりますので」
さわやかに微笑むから、本当に楽しんでるように思える。気さくで話しやすい人だ。だから、聞いてみてもいいかなと、尋ねた。
「お写真が出来上がったら、海堂さんにもお見せになるんでしょうか?」
「ああ、そうですね。自慢するのも悪くありませんね」
「自慢って……」
そうじゃなくて、いくらでも美しい人たちに出会ってきたであろう大企業の御曹司に見られるなんて、恥ずかしくてたまらないから尋ねたのだけど。
私では自慢にならないだろう。天ヶ瀬さんは素敵な紳士だし、私とはやっぱり全然釣り合わない。
恥じて、ほおが赤らむと、何を誤解したのか、彼は笑む。
「おや、佑磨さんが本命でしたか。そういうことでしたら、この撮影は内密に」
「あっ、ほんとに全然、そういう話じゃなくて……」
誤解を解こうとしたとき、スタジオの外がざわついた。
「佑磨さん、お待ちくださいっ」
高山さんの悲鳴に近い叫び声が聞こえたと同時に、勢いよくドアが開く。乱暴ではないけど、無遠慮だった。
「何をしてる、かず……」
姿を見せるなり声をあげた青年は、天ヶ瀬さんに向けていた視線を私に移し、絶句した。
まさか、仕事の合間に、部下がウェディングドレスの見知らぬ女と写真を撮ってるなんて思ってなかったのだろう。
入り口でおろおろする高山さんの様子から察するに、ろくに説明も聞かず、油を売る部下を叱責に来たというところだろうか。
彼が、海堂佑磨なのだ。
あまりしげしげと眺めるわけにもいかず、目を伏せる。それでも、とてもカッコいい人だということは一目でわかった。
凛とした佇まいと、頼りがいのある強さは、今まで出会ってきたどんな男性よりも雄々しく、雅やかだった。
「もう、そんなお時間でしたか。楽しい時間はあっという間に過ぎるものですね」
ひょうひょうと言い切った天ヶ瀬さんは、ふたたび、私にうやうやしく頭をさげると、「またお会いできますことを」とささやいて、佑磨さんに駆け寄っていく。
「何をごちゃごちゃと……。まあいい、行くぞ」
そう言った佑磨さんが、私をじっと見ていたことに気づいた。
怒られるかもと、たじろいだけれど、彼はすぐに目をそらし、天ヶ瀬さんを連れてスタジオを出ていった。
派手なシルバーのタキシードを嫌味なく着こなす青年は、スタッフの歓喜の声を受けて、穏やかに微笑でさとす。
彼が、天ヶ瀬さん。なんて優雅な人だろう。長身で、目鼻立ちはくっきりしている。物腰柔らかな彼を包み込む空気が優しくて、一気に疲労感も緊張感も溶けていくみたい。
「天ヶ瀬です、よろしくお願いしますね」
私の方へ歩み寄ってきた彼は、うやうやしく頭をさげた。
「あの、はじめまして、西川つばさです」
「はい、はじめまして」
彼はそう言うだけで、私についての質問はしなかった。
どこの誰で、どうして写真撮影をしてるのかなんて、彼にとって大した関心事ではないのだろう。
楽しそうだから参加した。その程度かもしれない。それならそれで、こちらも気楽にかまえていていいのかもしれないけれど。
「高山さんはご一緒では?」
天ヶ瀬さんしかスタジオに入ってこないから、スタッフが尋ねる。
「私の代わりにロビーで待っています。打ち合わせはすぐには終わらないでしょうし、大丈夫だと言ったんですが、律儀な方です。さあ、撮影の続きを始めましょうか。私はどうしたら?」
すぐに辺りを見回して、撮影の空気に溶け込む。さすがというのか、動きにそつがない。
スタッフもあわてて、立ち位置を指し示す。
「あっ、では、天ヶ瀬さんは階段の下で、つばささんをエスコートする感じで」
「わかりました。手に振れても?」
スタッフの指示に一つうなずくと、天ヶ瀬さんは私ににこりと微笑みかける。
「あ、はい。お願いします」
すんなりと、手を伸ばす。
男の人に優しくされるのも、触れるのも初めてで緊張する。でも、手を重ねたら緊張がほどけるから、やっぱりふしぎな人だ。男を意識させない、スマートな人なのだと思う。
階段を数段あがり、寄り添うようにして顔を合わせる。恥ずかしがってる時間もなく、ポーズの指示が来るから、天ヶ瀬さんも楽しそうに私を優しくエスコートしてくれる。
シャッターを切る音がおさまると、次は窓辺、その次は暖炉の前へと移動して、さまざまなポーズで撮影した。
「なかなか大変ですね。お疲れではないですか?」
天ヶ瀬さんは私を気遣う。
「はい、大丈夫です。天ヶ瀬さんこそ」
「私はこの通り、楽しんでおりますので」
さわやかに微笑むから、本当に楽しんでるように思える。気さくで話しやすい人だ。だから、聞いてみてもいいかなと、尋ねた。
「お写真が出来上がったら、海堂さんにもお見せになるんでしょうか?」
「ああ、そうですね。自慢するのも悪くありませんね」
「自慢って……」
そうじゃなくて、いくらでも美しい人たちに出会ってきたであろう大企業の御曹司に見られるなんて、恥ずかしくてたまらないから尋ねたのだけど。
私では自慢にならないだろう。天ヶ瀬さんは素敵な紳士だし、私とはやっぱり全然釣り合わない。
恥じて、ほおが赤らむと、何を誤解したのか、彼は笑む。
「おや、佑磨さんが本命でしたか。そういうことでしたら、この撮影は内密に」
「あっ、ほんとに全然、そういう話じゃなくて……」
誤解を解こうとしたとき、スタジオの外がざわついた。
「佑磨さん、お待ちくださいっ」
高山さんの悲鳴に近い叫び声が聞こえたと同時に、勢いよくドアが開く。乱暴ではないけど、無遠慮だった。
「何をしてる、かず……」
姿を見せるなり声をあげた青年は、天ヶ瀬さんに向けていた視線を私に移し、絶句した。
まさか、仕事の合間に、部下がウェディングドレスの見知らぬ女と写真を撮ってるなんて思ってなかったのだろう。
入り口でおろおろする高山さんの様子から察するに、ろくに説明も聞かず、油を売る部下を叱責に来たというところだろうか。
彼が、海堂佑磨なのだ。
あまりしげしげと眺めるわけにもいかず、目を伏せる。それでも、とてもカッコいい人だということは一目でわかった。
凛とした佇まいと、頼りがいのある強さは、今まで出会ってきたどんな男性よりも雄々しく、雅やかだった。
「もう、そんなお時間でしたか。楽しい時間はあっという間に過ぎるものですね」
ひょうひょうと言い切った天ヶ瀬さんは、ふたたび、私にうやうやしく頭をさげると、「またお会いできますことを」とささやいて、佑磨さんに駆け寄っていく。
「何をごちゃごちゃと……。まあいい、行くぞ」
そう言った佑磨さんが、私をじっと見ていたことに気づいた。
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