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強欲な甘い初夜
疑う心
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新居となるマンションは、佑磨さんの勤務するオフィスに程近く、高層階にあるワンフロアマンションだった。
これまで通り、天ヶ瀬さんは秘書として出入りするため、玄関から直接ゲストルームに行け、ゲストルームからリビングなどへつながる扉はすべて施錠できるようになっていた。
私たちの生活におあつらえ向きのマンションがはやく見つかったのは、とても幸運だった。
「天ヶ瀬さん、佑磨さんのお手伝いは大丈夫なんですか?」
荷物を運び終えた引越屋さんが帰ると、様子を見に来てくれた天ヶ瀬さんにそう尋ねた。
「佑磨さんとは16時に約束しています。つばささんを連れて迎えに来るように、と。どこかでお食事でもなさりたいのでしょう。久しぶりに会うのですから」
「本当に。こんなに会えないなんて思ってませんでした」
佑磨さんのご両親に挨拶へうかがった日、海堂の邸宅でささやかな食事会が開かれた。
招待されていたのは、懇意にしている取引先の取締役や、親族が中心だった。結婚式は来年になってしまうから、それまでに顔合わせしておきたい方々を集め、ちょっとした披露宴のような会を開いてくれたのだ。
当然、佑磨さんはひっぱりだこで、夜遅くまで飲んでおり、あやめさんの計らいで、私は一足先に天ヶ瀬さんに送ってもらって帰宅したのだった。
あの日の翌日から佑磨さんは多忙で、なかなか会えずにいた。そうは言っても、会えなかったのは一週間ほどのことだったのだが。
「今日から毎日会えますよ」
「でも、明日から長野へ出張なんですよね?」
どこへ行くかは聞かされていなかったが、かまをかけるつもりで天ヶ瀬さんに聞いてみた。
「はい。私も同行しますので、つばささんは無理をせず、新居の片付けをなさっていてください」
彼は何も疑う様子なく、行き先を認めた。
「長野でどんなお仕事があるの?」
「社内のことは、奥様と言えども、他言できません。どうしてそのようなことを?」
「あっ、なんでもないんです。長野まで、新幹線ならそれほど時間もかからないですけど、何回も行かれるなら、お身体が心配だから」
「そうですね。疲れて帰ってこられた際には、存分に癒やして差し上げてください」
「……あ、はい」
癒すって……。
よからぬ妄想をしてしまって、恥ずかしくなる。それでも、内心は穏やかではなかった。
きっと、美梨さんが言っていたのは本当なのだ。だから、社内秘だなんて言って、なんにも教えてくれない。
私と結婚したいなんて言って、相続税の肩代わりをしたのは、こういうことだったのだ。
あの土地は、花里家が絶対に手放さないと言っていた、海堂が喉から手が出るほど欲しがっていた土地だった。
両親が付け値で売却したのは、私が佑磨さんと結婚することに感謝し、すっかり海堂を信じたためだった。そうでなければ、いわれのないものとして、あの話は断っていたかもしれない。
お人好しの両親をだまし、私を好きだと言って油断させ、本当は長野の土地が欲しかっただけ。きっと、そう。あんなに素敵な人が私にひとめぼれするわけない。だから、結婚した途端に会う回数が減った。そう思えてならない。
「つばささん、大丈夫ですか? 顔色がよろしくないですよ」
「え?」
天ヶ瀬さんに声をかけられて、青ざめてることに気づいた。
「疲れたのでしょう。今日は片付けをやめて、ゆっくりされてください」
「ごめんなさい、心配かけて」
天ヶ瀬さんはきっと全部知ってるだろう。問いただしたいけど、やっぱり、それはできないと口をつぐんだ。
どんな理由があるにせよ、佑磨さんは西川家を助けてくれたのだ。あの土地を売却した費用があれば、両親はこれから先、困ることなく生きていける。
今さら、私たちが騒いだってどうにもならない。そう思うのに、どうして正直に話してくれなかったのかと悔しく思う気持ちが、心に黒いシミを落とした。
新居となるマンションは、佑磨さんの勤務するオフィスに程近く、高層階にあるワンフロアマンションだった。
これまで通り、天ヶ瀬さんは秘書として出入りするため、玄関から直接ゲストルームに行け、ゲストルームからリビングなどへつながる扉はすべて施錠できるようになっていた。
私たちの生活におあつらえ向きのマンションがはやく見つかったのは、とても幸運だった。
「天ヶ瀬さん、佑磨さんのお手伝いは大丈夫なんですか?」
荷物を運び終えた引越屋さんが帰ると、様子を見に来てくれた天ヶ瀬さんにそう尋ねた。
「佑磨さんとは16時に約束しています。つばささんを連れて迎えに来るように、と。どこかでお食事でもなさりたいのでしょう。久しぶりに会うのですから」
「本当に。こんなに会えないなんて思ってませんでした」
佑磨さんのご両親に挨拶へうかがった日、海堂の邸宅でささやかな食事会が開かれた。
招待されていたのは、懇意にしている取引先の取締役や、親族が中心だった。結婚式は来年になってしまうから、それまでに顔合わせしておきたい方々を集め、ちょっとした披露宴のような会を開いてくれたのだ。
当然、佑磨さんはひっぱりだこで、夜遅くまで飲んでおり、あやめさんの計らいで、私は一足先に天ヶ瀬さんに送ってもらって帰宅したのだった。
あの日の翌日から佑磨さんは多忙で、なかなか会えずにいた。そうは言っても、会えなかったのは一週間ほどのことだったのだが。
「今日から毎日会えますよ」
「でも、明日から長野へ出張なんですよね?」
どこへ行くかは聞かされていなかったが、かまをかけるつもりで天ヶ瀬さんに聞いてみた。
「はい。私も同行しますので、つばささんは無理をせず、新居の片付けをなさっていてください」
彼は何も疑う様子なく、行き先を認めた。
「長野でどんなお仕事があるの?」
「社内のことは、奥様と言えども、他言できません。どうしてそのようなことを?」
「あっ、なんでもないんです。長野まで、新幹線ならそれほど時間もかからないですけど、何回も行かれるなら、お身体が心配だから」
「そうですね。疲れて帰ってこられた際には、存分に癒やして差し上げてください」
「……あ、はい」
癒すって……。
よからぬ妄想をしてしまって、恥ずかしくなる。それでも、内心は穏やかではなかった。
きっと、美梨さんが言っていたのは本当なのだ。だから、社内秘だなんて言って、なんにも教えてくれない。
私と結婚したいなんて言って、相続税の肩代わりをしたのは、こういうことだったのだ。
あの土地は、花里家が絶対に手放さないと言っていた、海堂が喉から手が出るほど欲しがっていた土地だった。
両親が付け値で売却したのは、私が佑磨さんと結婚することに感謝し、すっかり海堂を信じたためだった。そうでなければ、いわれのないものとして、あの話は断っていたかもしれない。
お人好しの両親をだまし、私を好きだと言って油断させ、本当は長野の土地が欲しかっただけ。きっと、そう。あんなに素敵な人が私にひとめぼれするわけない。だから、結婚した途端に会う回数が減った。そう思えてならない。
「つばささん、大丈夫ですか? 顔色がよろしくないですよ」
「え?」
天ヶ瀬さんに声をかけられて、青ざめてることに気づいた。
「疲れたのでしょう。今日は片付けをやめて、ゆっくりされてください」
「ごめんなさい、心配かけて」
天ヶ瀬さんはきっと全部知ってるだろう。問いただしたいけど、やっぱり、それはできないと口をつぐんだ。
どんな理由があるにせよ、佑磨さんは西川家を助けてくれたのだ。あの土地を売却した費用があれば、両親はこれから先、困ることなく生きていける。
今さら、私たちが騒いだってどうにもならない。そう思うのに、どうして正直に話してくれなかったのかと悔しく思う気持ちが、心に黒いシミを落とした。
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