たとえ一緒になれなくても

水城ひさぎ

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なんとなく

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 汗ばむうなじに顔をうずめると妙に安心した。

 茉莉の匂いや温かさに馴染んでいる証拠だ。

 彼女を手放したくないと焦ったり、別れるなんて切り出されたらどうしようと、付き合いに不安を覚えていたのは過去のことで、今は落ち着いた恋愛をしている。

 それはある意味、茉莉が特別だということだ。

 大事なのに、いてくれるのがあたりまえだと思う女なんて、そうそういるものじゃない。

「茉莉、明日はどこ行く?」

 ベッドに横たわる茉莉のうなじに口づけて、柔らかな胸を撫でる。

「……ん、……どこでもいいよ」

 眠たげに答えながら、彼女はわずかに身をよじる。

 彼女をもう一度その気にさせようとしていた俺の手は行き場をなくす。少し抵抗されたような気がした。

 気が乗らない日もあるだろう。疲れてるから無理と断られた日もないことはなかった。

「アパートにいるかー」

 茉莉も仕事が大変そうだ。ゆっくりしたい日もあるだろう。

 俺の言葉に無反応な茉莉の顔が見たくて、「なあ、茉莉」と、腕に手をかけると、彼女は振り向かないまま上体を起こした。

 身体にかかっていたシーツが落ちて、白い背中があらわになる。何度見ても綺麗な背中だ。腰のくびれもなまめかしい。

 やっぱりもう一度抱きたい。
 理性を簡単に壊してくる身体を眺めていると、茉莉は無言でベッドから降りる。

 さらされた裸体に向けていた視線をあげていく。

 俺は眉をあげる。

 陰鬱とまでは言わない。だけど、疲労感を漂わせた横顔は、はつらつとした茉莉にはひどく不似合いなものだった。

「ちょっとシャワー浴びてくるね」
「あ、ああ」
「シャツも借りるね」

 茉莉は俺と目を合わせないまま、ベッドルームを出ていく。

「……」

 俺は小さなため息を吐き出し、ベッドに仰向けになる。頭の後ろに手を回し、天井をぼんやり見上げる。

 気づいてないわけではなかった。

 茉莉は少し前から元気がない。いや、厳密に言えば、四月に異動してきた営業担当と馬が合わないと珍しくグチをこぼしていた頃から元気がなかった。

 そこへ輪をかけて心ここにあらずな態度を取るようになったのは最近のことだ。

「そんなに結婚したいのかよ……」

 ゆっくり目を閉じる。

 耳を澄ますとバスルームからシャワーの音が聞こえてくる。

 茉莉のいないアパートは確かに物悲しい。しかし、誰かにいて欲しいと切望するほどの結婚願望は俺にはなかった。

「茉莉はわかってると思ったのにな」

 一人ごちて、身体を横に向ける。

 しばらくして、俺のティーシャツを着た茉莉がベッドルームに戻ってきた。

「茉莉」

 声をかけてみたが、茉莉は「髪濡れててごめんね」とだけ言って俺の横にもぐりこむと、すぐに背を向けたまま眠ってしまった。
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