たとえ一緒になれなくても

水城ひさぎ

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なんとなく

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 ピンクベージュのブラウスの上からかけていたショールをたたんで、事務所のドアを開ける。

 今日から10月。退社した染谷さんの代わりの社員が転勤してくる日だからいつもより早く出社したつもりだが、オフィスは平常通りの賑わいを見せている。

 三宅仁さんも出社していて、私を見つけるなり、「おう!」と声をかけてくる。

「早いな、茉莉。気合いも入ってるじゃないか」
「普通です」

 じろじろと私を眺める仁さんを素っ気なくあしらう。

 毎日気合いは入れている。肩より少し伸びた髪をアップにしているのはいつものことだし、ブラウスにタイトスカート姿も珍しいチョイスじゃない。むしろ平凡だ。

「そうか? イケメン営業担当が来るからなぁ、他の女子たちはそわそわしてるよ」
「イケメン? そんなうわさ流すの、仁さんでしょう」

 オフィスが賑わしいのは、だからか、と納得する。

「うわさじゃないさ。あいつは俺の同期だし、昔からよく知ってる。まあ、デキるやつだから一緒に仕事するのは複雑だな」

 仕事のパートナーとしては申し分ないが、女子社員の興味を全部持っていかれるのは多少しゃくでもある、というところか。

 仁さんは独身だ。30代前半の男性が独身というのも珍しくはないだろう。

「見えてるんですか?」

 辺りを見回してみるが、見知った社員ばかりでそれらしい人はいない。

「今、部長と話してる。朝礼でお披露目だろうな」
「そうですか」

 にやにやする仁さんから離れ、デスクに向かう。

 毎朝のルーティンをこなし、パソコンを立ち上げる。椅子に腰かけ、バッグから取り出したファイルを広げる。

 夏也との結婚はあきらめた。いずれそういう日が来るだろう、という期待すらしていない。

 仕事に生きると意気込むわけでもないけれど、やめたい気持ちもなくなった。これまで通り、何も変わらず働いていくことだけを今は考えている。

「あんまり気負うなよ」

 ぽんと肩を叩かれる。

「また来たんですか、仁さん」

 後ろに立つ仁さんを見上げて、あきれてしまう。

「またって、さっき俺に近づいてきたのは茉莉。そんな深刻な顔してたら気になるだろー。大丈夫だよ。あいつは茉莉に合うと思う」
「どんな人だって、今度はしっかり受け入れてやります」
「まあまあ、だからそう気負うなって」

 くすくす笑う仁さんがふたたび私から離れていく。その頃には、始業のチャイムが鳴っていた。
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