たとえ一緒になれなくても

水城ひさぎ

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冗談で?

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「そんなの好きに呼べばいいじゃない?」
「でも今更で、なかなか呼べなくてー。それにあの菅原さんだし」

 ねー、と女子社員は目配せする。

「言うほど特別な方じゃないわよ」

 菅原さんをよく知らない女子社員からしたら、彼は高嶺の花なのだろう。

 内面はどす黒いなんて言ったところで彼女たちが信じることはないだろうけれど。

「じゃあじゃあ、茉莉先輩が言ってくださいよー。そうしたら私たちも呼びやすいので」
「なんで私が」
「まあまあ、茉莉、そのぐらいやってやったら?」

 あきれる私を仁さんが軽くなだめる。

「私がそんな風に呼んだらバカにされます」
「そんなこともないだろう。茉莉はまだまだ郁のことわかってないな」

 仁さんは訳知り顔で言うと、がんばれ、と意味不明な励ましをしてくる。

 女子社員たちも、嬉々とした目を私に向ける。

 おかしなお願いではあるが、頼られるのは嫌いじゃない。きっとそんな私の性格も承知で、彼らは私を誘導するのだ。

「わかったわよ」

 まんまと策略にはめられたことを自覚しながら肩をすくめて承諾すると、女子社員たちはきゃっきゃと騒ぎながら席へと戻っていった。



 菅原さんは営業から戻るなり、会話する間もなく部長と打ち合わせだと出かけていった。

 定時になっても戻らないから、菅原さん宛てのメモを書いていると、仁さんが「お先にー」とオフィスを出ていく。

 次第に仕事を終えた社員が帰宅していく中、菅原さんのパソコンに、月並みな挨拶と伝言を記したメモを貼る。

 すると、ひょいっと後ろから伸びてきた手にすぐにメモがはがされてしまう。

「ああ、ありがとう、藤本さん。神田かんだ様から電話があったのか。すぐに折り返し電話しておくよ。あとすまない。早急に作成してもらいたい書類がある。今から30分、打ち合わせできるか?」

 いつの間に戻っていたのか、メモにサッと目を通した菅原さんは矢継ぎ早に言うと、打ち合わせ室を指さす。

「はい、大丈夫です」

 すぐにデスクへ戻り、ファイルと筆記具をつかんで菅原さんに続く。

 彼のもたらす緊張感はわりと好きだ。

 私は仕事が好きなんだと、菅原さんといると思う。夏也の言うように、これは天職で、仕事はやめられない。

 それが、菅原郁という上司に出会ったからという事実は、まごうことなき真実だろう。

「残業させて悪いね。明日は朝から行くところがあってね」
「いえ、仕事ですから」

 打ち合わせ室に入ると、菅原さんは私より先にコーヒーメーカーに向かい、珍しくコーヒーを淹れ始めた。

「むしょうにコーヒーが飲みたくなる時があるね。藤本さんもどうぞ」
「お疲れなんでしょう。ありがとうございます」

 差し出されたホットコーヒーを受け取る。

 菅原さんの手つきはしなやかで優しい。受け取る時にふんわりと温かみを感じるのは、彼が繊細だからだろうと思う。
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