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たとえ一緒になれなくても
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二度目に目覚めたとき、郁さんはいなかった。
激しく抱き合って乱れたベッドに起き上がり、髪をかきあげる。
両手に顔をうずめたら、ため息が出た。
取り返しのつかないことをした。
抱き合ってる間は無我夢中で、重ねた罪の重さすら考えることがなかった。
ベッドをおり、バスルームへ向かう。
視界の片隅にリビングのローテーブルが映る。
昨夜飲み直しをしたテーブルには何も乗っておらず、綺麗に片付いていた。郁さんが片付けてくれたのだろう。
優しい人。
と、胸が熱くなる。
夏也は絶対に片付けたりしない。
それでも気にならなかった。尽くすことに愛を感じていたから、ずっと。
バスルームのドアを開くと、すぐにシャワーを浴びる。
流しても流しても、郁さんの感触が残る。
夏也とは違った。
私の気持ちを大切に抱いてくれた郁さんとの行為は、もう夏也には触れられたくないという思いを増幅させるものだった。
夏也と別れられるだろうか。
会えば、流されちゃうんじゃないかって不安になる。
私はずっと夏也のいいなりで、そうやっていることで幸せを感じていた。
キュッと蛇口を閉めたら、バタンッと扉が閉まる音がした。
ハッとして、すぐにバスルームを出る。
バスタオルで髪をぬぐいながらリビングに出ると、コンビニの袋を下げた郁さんがキッチンに立っていた。
「郁さん……」
「なんだ、いきなり泣くな」
「だって、もう帰っちゃったと思って」
バスタオルに顔をうずめたら、濡れた身体まるごと郁さんに抱きしめられる。
「昼ごはんを買ってきた。コンビニ弁当で悪いけどね」
そう言いながら、郁さんは私からバスタオルを取り上げる。そして、無遠慮に私の身体を眺める。
「あ、あ、見ないでくださいっ」
「露出好きかと心配になるね。でも綺麗だから悪くはないよ」
くすりと笑って、広げたバスタオルを私の身体に巻いてくれる。
どこまでも優しくされて、まだ夢の中にいるのかもしれないなんて思う。
何もかも夏也とは違う。そのことに私自身が戸惑っている。
「着替えが済んだら、弁当を食べよう」
「はい。あの、お茶は私が用意しますから待っててください」
「ありがとう」
ほほえむ郁さんから離れがたく思いながら、すぐにベッドルームへ飛び込んで、ワンピースをかぶる。
ぬれた髪を乾かす余裕はなく、サッと櫛を通してヘアクリップでまとめる。
簡単にお化粧をしてリビングにふたたび戻れば、郁さんはソファーに腰かけて、温めたばかりのコンビニ弁当の封を開けていた。
「かつ丼ですか」
「君は幕の内だよ。足りる? 激しい運動のあとだからね、俺はこのぐらいがいい」
「ス、スポーツしたみたいな言い方やめてください」
真っ赤になりながら、湯のみとお茶を用意する。
ポットのお湯は沸かされていた。
郁さんはマメだ。
こんな男性と結婚できたら幸せだろう。そんなことばかり考えてしまう。
すぐに緑茶を淹れて、郁さんの前に差し出す。
ひとくち飲んだ彼は、隣へ腰を下ろす私のほおに触れる。
「さっきコンビニで、君の彼氏を見かけたよ」
「え?」
急に現実に引き戻される。
幸せな時間を過ごせるなんて思ってる方がおかしい。
切なそうな目をする郁さんを見ていたら、罪の大きさに押しつぶされそうになる。
無意識にワンピースをつかんでいた私の手を、郁さんは手のひらで優しく包んでくれる。
「次はいつ会う?」
「……しばらく会わないって言いました」
「そう」
「でも会います」
郁さんの眉が悲しげにさがる。
「別れたいって……、言います」
「茉莉」
「夏也と話ができたら、郁さんとのことは考えます……」
「今は返事をくれない?」
震える私の肩に腕を回し、郁さんは頼りなげに聞いてくる。
「……ごめんなさい」
「いや、いいんだ。俺とのことで決心がついたならそれでいい」
これは一歩前進だと郁さんは言う。
今朝のことがなければ、今でも私はズルズル夏也と付き合っていく決断しかできなかった。
ズルズル付き合っていたら、大好きな夏也と結婚できたかもしれないのに、だ。
茉莉はバカだ。
取り返しのつかない今になって、夏也の声が頭の中に響いた。
二度目に目覚めたとき、郁さんはいなかった。
激しく抱き合って乱れたベッドに起き上がり、髪をかきあげる。
両手に顔をうずめたら、ため息が出た。
取り返しのつかないことをした。
抱き合ってる間は無我夢中で、重ねた罪の重さすら考えることがなかった。
ベッドをおり、バスルームへ向かう。
視界の片隅にリビングのローテーブルが映る。
昨夜飲み直しをしたテーブルには何も乗っておらず、綺麗に片付いていた。郁さんが片付けてくれたのだろう。
優しい人。
と、胸が熱くなる。
夏也は絶対に片付けたりしない。
それでも気にならなかった。尽くすことに愛を感じていたから、ずっと。
バスルームのドアを開くと、すぐにシャワーを浴びる。
流しても流しても、郁さんの感触が残る。
夏也とは違った。
私の気持ちを大切に抱いてくれた郁さんとの行為は、もう夏也には触れられたくないという思いを増幅させるものだった。
夏也と別れられるだろうか。
会えば、流されちゃうんじゃないかって不安になる。
私はずっと夏也のいいなりで、そうやっていることで幸せを感じていた。
キュッと蛇口を閉めたら、バタンッと扉が閉まる音がした。
ハッとして、すぐにバスルームを出る。
バスタオルで髪をぬぐいながらリビングに出ると、コンビニの袋を下げた郁さんがキッチンに立っていた。
「郁さん……」
「なんだ、いきなり泣くな」
「だって、もう帰っちゃったと思って」
バスタオルに顔をうずめたら、濡れた身体まるごと郁さんに抱きしめられる。
「昼ごはんを買ってきた。コンビニ弁当で悪いけどね」
そう言いながら、郁さんは私からバスタオルを取り上げる。そして、無遠慮に私の身体を眺める。
「あ、あ、見ないでくださいっ」
「露出好きかと心配になるね。でも綺麗だから悪くはないよ」
くすりと笑って、広げたバスタオルを私の身体に巻いてくれる。
どこまでも優しくされて、まだ夢の中にいるのかもしれないなんて思う。
何もかも夏也とは違う。そのことに私自身が戸惑っている。
「着替えが済んだら、弁当を食べよう」
「はい。あの、お茶は私が用意しますから待っててください」
「ありがとう」
ほほえむ郁さんから離れがたく思いながら、すぐにベッドルームへ飛び込んで、ワンピースをかぶる。
ぬれた髪を乾かす余裕はなく、サッと櫛を通してヘアクリップでまとめる。
簡単にお化粧をしてリビングにふたたび戻れば、郁さんはソファーに腰かけて、温めたばかりのコンビニ弁当の封を開けていた。
「かつ丼ですか」
「君は幕の内だよ。足りる? 激しい運動のあとだからね、俺はこのぐらいがいい」
「ス、スポーツしたみたいな言い方やめてください」
真っ赤になりながら、湯のみとお茶を用意する。
ポットのお湯は沸かされていた。
郁さんはマメだ。
こんな男性と結婚できたら幸せだろう。そんなことばかり考えてしまう。
すぐに緑茶を淹れて、郁さんの前に差し出す。
ひとくち飲んだ彼は、隣へ腰を下ろす私のほおに触れる。
「さっきコンビニで、君の彼氏を見かけたよ」
「え?」
急に現実に引き戻される。
幸せな時間を過ごせるなんて思ってる方がおかしい。
切なそうな目をする郁さんを見ていたら、罪の大きさに押しつぶされそうになる。
無意識にワンピースをつかんでいた私の手を、郁さんは手のひらで優しく包んでくれる。
「次はいつ会う?」
「……しばらく会わないって言いました」
「そう」
「でも会います」
郁さんの眉が悲しげにさがる。
「別れたいって……、言います」
「茉莉」
「夏也と話ができたら、郁さんとのことは考えます……」
「今は返事をくれない?」
震える私の肩に腕を回し、郁さんは頼りなげに聞いてくる。
「……ごめんなさい」
「いや、いいんだ。俺とのことで決心がついたならそれでいい」
これは一歩前進だと郁さんは言う。
今朝のことがなければ、今でも私はズルズル夏也と付き合っていく決断しかできなかった。
ズルズル付き合っていたら、大好きな夏也と結婚できたかもしれないのに、だ。
茉莉はバカだ。
取り返しのつかない今になって、夏也の声が頭の中に響いた。
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