冥婚の花嫁は義弟に愛を注がれる

水城ひさぎ

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満月は、吉兆か凶兆か

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 綾城邸から西へ進んだ一本道の先に、小さな公園ほどの広さの庭付き平家住宅が存在している。

 綾城家当主の妻、天音あまねが地域住人と交流を深めるための憩いの場、綾城堂を建てたのは、私がちょうど、高校に進学した時期と重なる。

 兄が父の会社に就職、妹も小学校を卒業し、母に余裕が生まれた頃でもあったのだろう。

 あれから、綾城堂は数年の歳月を経た。母の天音は週の3日ほどを利用し、華道、書道、着付け教室を開いている。

 土曜日の今日は教室はなく、天音に誘われて、私は花を生けていた。一月にしては日差しの温かく、一見、穏やかな休日を迎えている。

「お母さま、本日は西園寺さまにご夕食のお誘いをいただきました。夕方になりましたら、出かけてまいります」

 完成した生け花を眺める天音に、平常心を保ちながら伝える。

 昨夜はひどく動揺していた。しかし、惣一郎さんの死は両親にも内密に、と言った武彦の仰せつけを守らねばという信念が、私を気丈にさせている。

「あら、そうなの。昨夜も急に呼ばれて。混み入ったお話でも?」

 花器に花咲く椿へ向けていた視線を、天音はゆっくりと私へ移し、引っかかりを覚えたように小首をかしげた。

 綾城家と西園寺家の縁組は、私が生まれた時に決められた。破談になるなどありえない。順調しかない婚約に、何か水を差すような事由ができたのかと心配したのだろう。

「結婚式に関して、大事な打ち合わせがあるそうで」
「つゆりの支度は綾城が責任を持って準備しますから、お任せくださいと伝えてね」
「はい、ありがとうございます」

 四月には、神前式での伝統的な挙式を行い、その後、有名ホテルで盛大な披露宴を催し、西園寺家に嫁ぐ予定だった。

 惣一郎さんがいない今、挙式も披露宴も行えない。それについて、今夜、武彦から相談があるのだろう。

 西園寺家は政治家を輩出する名家中の名家で、綾城家と同格の資産家。惣一郎さんは個人投資家で、あまり人前に出る仕事はしていなかったけれど、亡くなったことを隠し続けるのは難しいように思う。

「良いご縁をいただきましたね、つゆり」

 ふんわりと笑む天音に、微笑み返す。

 惣一郎さんが亡くなったと公になったら、私はどうなるのだろう。また別の人との縁談が持ち上がるのだろうか。

 今はまだ、そんな気持ちになれない。惣一郎さんにはすべて理解してもらっていた。だからこそ、結婚する決意ができた。惣一郎さんがいない今、あの人でないなら、一生独身でもいいと思っている。
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